133食目、クロカンブッシュ
「このお菓子は〝クロカンブッシュ〟という飾り菓子でございます」
クロカンブッシュは、小ぶりなシュークリームを円錐形の山のように積み上げ崩れないよう溶かした飴等で接着・コーティングした飾り菓子である。
フランス発祥で結婚式のウェディングケーキの代わりや祝い事に出される目出度い菓子で、まず一人で食べるものでなく複数人で食べるものだ。
だけど、駄女神であるシロは、そんな事を気にする様子はなく早く食べたくて瞳をキラキラと輝かせている。
止めようとしても、この駄女神の事だ。どうせ、一人で全部食べてしまうだろう。
本当は冗談半分で作ったのだが、どうやら先ずは見た目だけで気に入ってくれたようた。シロ様の視線がクロカンブッシュに釘付けである。
「カズト、妾は夢でも見てるのよ」
「シロ様、夢ではないです。現実です。一人で食べても良いのです」
甘い物好きな人が良くケーキをワンホール食べるのが夢だと仰有る者をたまに見掛けるが、カズトは絶対にやらない。
自分で胸焼けになるの分かってるから。それに作る方がカズト的に楽しいし、美味しそうに食べる人の表情を拝見するのが何よりの大好物だ。
「本当なのか?ウソを言ってないよね?」
「本当だ。俺は食わないからな。それをシロ様、全部召し上がってくださいませ」
実は、このクロカンブッシュにはちょっとした仕掛けを施してある。普通ならシュークリームの中身はカスタードクリームオンリーにするところだが、全て一つ一つ違うクリームを入れてある。
例えば、カスタードは勿論、チョコレートを初めストロベリー・リンゴ・オレンジ・抹茶・生クリームにアーモンド・チョコチップ・コーヒークランブルを混ぜたモノ等々多種多様に作った。
「う~ん、みんな味が違くて美味しい。これなんか甘酸っぱい、これは甘さの後から苦味が何とも言えないクセになる」
「気に入ってくれて良かった」
クロカンブッシュは、フランス発祥の菓子で日本でも少ないが扱ってる店はある。ただし、大きさが大きさなので作り措きが出来ない。大抵予約しないと手に入らない。
カズトも今回初めて作り、初めて実物を見た程だ。まぁシュークリームを山積みに重ねていくだけなので、作業工程は難しくない。
ただ、シュー生地を焼き上げるのに素人では無理だ。生地の配合や釜の温度、焼成時間などを1mmでも間違えば膨らまない。
「甘いものを食べますと、ノドが渇くと思いますので、こちらをどうぞ。紅茶です」
「良い香りね。これと相性抜群のようね」
女神という事はあって紅茶を飲む姿は、凄く絵になる。まぁ中身が残念なのを知ってるカズトにとっては、ただの自分が用意するデザートを美味しそうに食べてくれるお客様でしかない。
「カズトもどう?食べない?」
「珍しいな。シロ様がくれるなんて」
「これでも女神よ。下界の者には、たまに慈悲を与えないとね」
慈悲というか、元々作ったの俺なんだけど?別に味見した訳じゃないから良いけども。
うん、作った俺が言うのもアレだが、甘くて美味しいな。甘いモノは苦手ではないが、流石に一個で十分だ。
これ以上食べると胸焼けになりそうだ。自分で作ってあれだが、美味しいが甘過ぎだ。
一方のシロ様は、平気な顔をして大食い選手みたくモリモリと平らげていく。何処に入っていくのか本当に不思議だ。
「まだありませんの?もっと食べたいですわ」
「はいはい、まだありますよ」
アイテムボックスからお代わりのクロカンブッシュをテーブルに置く。食いしん坊の女神だから念のため作って置いた。アイテムボックス内は、時間経過がないので作り措きが出来る。
「シロ様、お菓子ばかり食べて大丈夫なんですか?」
「妾が太ると?」
「いえいえ、滅相もありません。いつもお菓子ばかり食べてるので、気になったのです」
「本来、神は食物を食さなくても生きてゆける。だが、お菓子は娯楽なのよ。この天界には、娯楽が全くないのよね」
こんな真っ白な空間に娯楽もへったくれもないか。俺なら退屈で死んでしまうかもしれない。というより、自殺を選ぶ。
「その気持ち良く解ります」
「だから、またにで良いから来て欲しいのよ」
「はっ!善処致します」
「妾が、もしも満足したら加護を与えるかもしれないから頑張ってね」
シロ様の御加護か。異世界モノで良くあるテンプレで興味はあるが、既に勇者の技術を持ってるし、これ以上は特にいらない。
これ以上、増えると………………おそらく、手に余ってしまう。でも、いらないとは言えない。言ったら殺されてしまう。




