SS8-12、スゥの1日~アゲハ隊~
「もうそろそろ帰るにゃ。ブラン、分かってるにゃ?」
「は、はい!このブラン分かっておりますとも」
ランファンが立ち上がり退室した後、今まで我慢してきたかのようにドバッとブランの体中から汗が噴き出し、ソファーに倒れ込むように座る。
これ程、過去から数えてみても息苦しい交渉はなかった。最初目にした時には、自分の所有してる奴隷達に加えようとしたが、一瞬でその考えはなくなった。
今━━━━いや、今後ともランファンとカズトという勇者には逆らうべきではない。
むしろ、カズトとは今後仲良くした方が己の身のためだと理解する。そうしないと、自分の命が危ない。
しかし、自分が商人である以上、相手にゴマをすった方が更なる利益拡張になる可能性が高いと頭の中で計算をした。
これ程の商品を目にしたら他の貴族や商人だったら黙って見過ごす訳がない。
それと他にもカズトという勇者は、誰も知らない商品を隠し持ってる可能性がある。
今直ぐにでもカズトにアポを取り交渉する手筈を取った方が良さそうだとスケジュールを確認しようと自らの右腕と等しいジョルを呼んだ。
「お呼びでしょうか。旦那様」
「俺のスケジュールを早く確認しろ。そして、レストラン〝カズト〟へ使者を送れ。いち速くカズト━━━いや、カズト様にお会いしなくては」
「はっ!直ちに確認し、使者を派遣致します」
ジョルがブランのスケジュールを確認したところ、ちょうど一週間後に予定を入れられる事が判明し、それに合わせレストラン〝カズト〟にいると言うカズトへ使者を派遣した。
ジョルも剣の勇者であるカズトの噂は時々耳に届いていた。
魔王を倒した身でありながら、地位は欲しがらず少しの金貨とレストラン〝カズト〟の店舗となる建物を貰い受けただけだと聞いている。
そして、半年もしない間に有名店となり年がら年中客が絶えないという。一回は行ってみたいものだが、主人の側を片時とも離れる訳にはいかない。
今のジョル見たら誰も信じられないと感じる。ジョルは、昔孤児で食べる物でさえ困る毎日を子供時代送っていた。
だけど、そこで転機が訪れた。それは、ブランに出会った事だ。何故そこにブランがいた事は、当時のジョルには分からない。
分からないが、ブランは清潔感からほど遠い薄汚い子供であったジョルを拾ったのだ。
そこからブランに忠誠を誓い、今やブランの右腕としてブランとブローレ商会を、どんな事をしてでも護り通すつもりだ。
「ジョル様、耳に入れて置きたい事が」
「こんな時に何だ?」
ジョルの元へ走って来たのは、尻尾と耳を隠してるが犬人族の男の一人でブローレ商会の警備隊を任せてある隊長だ。
犬人族の隊長の首を見ると首輪がされており、それは奴隷の証である【隷属の首輪】がキラリと輝いて見える。
「それが地下に行くための隠し扉を開けた形跡があります」
「お前らが開けた訳ではないのか?」
「いいえ、開閉する時間帯ではないので、それはないです」
ふむ、顎に手を添えジョルは考える。誰も開けてないとすると、もしや侵入者か?
ブローレ商会は、今や王国一の商会へと成長し赤子でも知ってると言われる程に有名だ。
ただし、ここまで成長するには違法ギリギリの事もやってきたのも事実。
ハッキリと言うと周囲には敵が多い。今現在も刺客が今かと今かとブランの命を狙っている。
ジョルは、探知系の魔法や技術が得意。逆に隠蔽や暗殺系の技術も得意ときてる。何かあれば、ジョル自身が出る事もある。
「一回現場を見てみましょう。何か残されているかもしれません。14番は、引き続き警備を続けるように」
「はっ!」
ジョルは、自分の探知に引っ掛からなかった事に疑問を抱くが、時間外に隠し扉が開いたのは事実。一回確認した方が良いと判断した。
「ふむ、確かに開いてますね。誰かは知りませんが、絶対に探し出しますよ」
パッチン
ジョルが指を鳴らすと、黒装束に身を包んだ者達が十数人現れた。
彼・彼女らはジョルが隊長を勤める暗殺・諜報活動を主に任務とする部隊、通称アゲハ隊の隊員達だ。
名前の由来はジョルも知らない。ジョルが聞いた話だと、過去に召喚された勇者が名前を付けたと聞き及んでいる。
その勇者は、既にいないようだ。死んだのか、自分の世界へ帰ったのかは定かではない。
「何者かが侵入したかもしれません。見つけ次第に捕らえなさい。生死は問いません」
「「「「「はっ!」」」」」
この隠し扉の向こう側━━━━地下室には、ブローレ商会の関係者でも幹部クラスしか知る事が出来ない機密事項がある。
アゲハ隊を先に向かわせ、ジョルは常に探知魔法を発動させ、ゆっくりと歩を進めるのであった。




