107食目、狐が恐い
「カズちゃん、フォルちゃん虐めるのよ」
か、カズちゃんって俺か!
タマモに"ちゃん付け"で名前を呼ばれ、一瞬呼ばれたのが自分とは気づかなかった。
この世界に来てから初めて"ちゃん付け"で呼ばれた。大抵、"剣の勇者"か名前に"殿"や"様"で呼ばれてる。
「シクシク、カズちゃん慰めて欲しいのよ。クンクン、カズちゃんの匂いがするのよ」
端から見てもウソ泣きとバレバレであるが、いつの間にかカズトの目の前に来ており抱き着き、カズトの胸元で顔をグリグリと擦り合ってる。
だけども、カズトの胸元に擦り合うまで誰もタマモがカズトに近付いた事に気がつかなかった。勇者であるカズト、アシュリー、タケヒコでさえ気づかない。
「これ、タマモ。お主、【恐】を使ったな?」
「あはっ、バレちゃった。さすが、フォルちゃんなのよ。私の【恐】に気づくなんて」
「何年お主と付き合ってると思ってるのじゃ?こんなの朝飯前じゃて」
「フォルス様、俺……………いえ、私には何の事やら?」
自分が何をされたのか分からない。気付いたのは、抱き着かれ胸元に顔を擦られてから初めて気付いた。
タマモが近寄って来る際には、タマモの気配や警戒心がゼロになった風に、いつの間にか抱き着かれていたのだ。これが敵なら何回か殺されている。
「タマモのバカはのぉ、【恐】を使用したのじゃ。【恐】は我ら獣妖族のみ使える魔法や技能と捉えれば良い。主に呪詛系や欺瞞系に長けておる」
「バカってヒドイのよ。でもまぁ、やった私が悪いのも事実なのよ」
不死鳥女王フォルスの【恐】とは違い、直接的に怖いとは感じないが、察知出来ない点で言うと………………間接的に怖いと背筋がゾォーーーーッと寒気を感じる程に思った。
こんな美人で男10人中9人が見惚れてしまう程の女性が……………まさか、人を騙し暗殺できる術を持ってるとは誰も思わないだろう。
「これが噂に聞く【恐】なのか?フォルス様とタマモさんのとは随分系統が違うようだが…………」
「妾のは呪詛系を使ったからのぉ。タマモは欺瞞系を使ったから、そら違く感じてもおかしくないのじゃ」
「カズちゃん、怒ってないよね。噂のカズちゃんに会えて舞い上がったのよ」
「ビックリしたけど、別に怒ってない」
言った通り驚愕したが、こういう戦い方があるのだと……………未知の技能を体験出来た事に勉強になったと思う事半分、抱き着かれた際にタマモの仄かな良い匂いが鼻に付きドキドキ半分だ。
「カズト先輩、何デレデレしてるんですか?妹さんに言いますよ?あ~、ここには確かリン先輩がいましたよね?」
「で、デレデレなんかしてない」
アシュリー辞めてくれ、なんという怖い事を言うのだ!凛花に知られたら、間違いなく…………殺されてしまう。でも、帝国ブレインズは来ないらしいし、再会出来る日まで、まだ時間掛かるだろう。
リン姉は普段優しく見えるが、怒ったらとても怖い。大人しい人程に怒ったら怖いっていうけど、その言葉を具現化したような性格をしてるのだ。まぁその事を知ってるのは、カズトを含めた数人だけだ。
「タマモ様なら良いけど、姫さんにデレデレな表情したら俺が許さんからな」
「タケ!お前まで何言ってるの?!だから、デレデレなんてしてないって」
「デレデレしてたよな?」
「はい、デレデレしてました。鼻の下がだらしなく伸びてました」
そんなに俺デレデレしてたかな?つうか、アシュリーそんな人を見下した瞳は辞めてくれ。妹やリン姉と比べると、然程怖くないが……………それでも、充分に背筋がゾクゾクする程に怖い。
「カズちゃんが可哀想なのよ。いいこいいこなのよ」
また【恐】を行使し、カズトへ近寄り今度は頭をナデナデと撫でる。またと感じたが、タマモに成されるまま目を瞑り頭を差し出す。
これは何故か懐かしい気持ちになる。昔、小さい時に誰かに頭を撫でられた記憶が蘇る。その誰かは記憶が曖昧で顔がぼやけ誰なのかは分からない。
だけど、その誰かに頭を撫でられた事はしっかりと覚えている。そうタマモさんみたいに優しく気持ち良かった時の事を。
「カズちゃん、大丈夫なの?涙が流れてるのよ」
タマモが撫でてる手を止め、心配そうに顔を覗いて来た。
自分では泣いてる積もりはないが、うっすらと目頭から頬を伝わり、指先で頬を触れて漸く自分が涙を流していた事に気付いた。
それよりも、タマモの顔が近くにある事にドキドキと心臓の音が激しくなる。
「タマモさん……………顔が近いです」
「あら、顔が赤いのよ。熱でもあるの?」
カズトの声が聞こえなかったのか、タマモが自らの額とカズトの額をくっ付け熱を測る。
なんという古典的というかテンプレな熱の計り方をしてるんだ!これじゃぁ、余計に頬が赤く染まり熱が上がってしまうではないか!
周囲を見渡すと全員がニヤニヤと微笑んでいる。穴があったら入りたい気分だ。




