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99.魔の森で②

「おい!まさかだろう?これって人間?しかも子供じゃないか?」


「ああ、一体なんだってこんな危険なところにっ!」


「気を失ってるのか?見た目、外傷はなさそうだが…」


「「まさか死んでる?」」


「いや!呼吸はあるみたいだ!」


 クルンデュラ国最強の部隊と呼ばれる『(シャドウ)』の隊長ディオルが、そっと、その少年の口元に手をやる。

 そう、その少年とはジルの事である。


 ディオルと隊員達の四人はこの森に調査に来ていた。

 急に起こった巨大な火柱や、竜巻の調査である。

 魔族や獣人たちの住む街や王都には被害が無かったものの、こんな事はこの国始まって以来の事であり、急遽、調査に派遣されての事だった。


 そして竜巻の消えた地点でこの子供を発見したのだ。

 まだ10歳にも満たないような子供がどうしてこんな所に?と隊員たち皆が思った。


「呼吸は一定だな…気を失っているというか、これは…眠っている?」


「「「こんな所で?」」」「「「嘘だろ?」」」隊員たちが驚きの声をあげる。


 ディオルは豹の獣人で、通常の豹や人間とは桁違いな身体能力を有し、その武芸の才もさることながら個性的で協調性の乏しい亜人達を取りまとめる才能を持っていた。


「おい、起きろ!こんなとこで寝てたら死ぬぞ」と、ディオルはジルの頬をペチペチたたいた。


「ん?んっ、んんんっ」と少年が目を覚ます。


 そして、目を開いた。


「「「おおおっ!」」」


 普段、冷静な隊員たちが、驚きのため息を漏らす。


 泥にまみれているものの漆黒の髪色に、濃い藍色の瞳は星空を移す夜空のように美しかったからである。


「おい、大丈夫か?お前さん、人間だろう?」


「えっ?あっ…え~と」とジルが口ごもる。

 ジルは自分が果たして人間と言っていいかどうか悩んだ。


 しかし竜人というのも、どうしたものか…と。


 そんなものは自分以外にもいるのかどうかもわからない。

 この世界の竜達は人型になどなれないし、竜は竜である。

 …少なくとも普通の竜は人間と交配するようなことは無い。

 竜と人間の混血児というのも無理があるだろう。


 ジルは、「わ…わかんない」とだけ答えた。


「えっ?自分が人間かどうかすらわかんないの?」と兎耳の可愛らしい?隊員の一人が、そう言った。

 すると隊長のディオルが手で隊員を後ろに下がらせる。


 そして、目の前に居る美しい少年を怯えさせないようにと出来るだけ優しい声で尋ねる。


「何で、こんなところで寝ていたのかもわからないか?」


「あ、えっとぉ…竜巻に巻き込まれて、ここに落っこちたみたいで…」嘘は言っていない。自分が起こした竜巻とは言わないだけで…。


「「「えっっっ!竜巻に?」」」「「「よく死ななかったな?」」」


「やっぱ純粋な人間じゃないのかも?魔族と人間のハーフか?」


「いや、魔族の気配じゃないよ」と青い肌の隊員がそう言った。魔族のようである。


「でも、獣人の気配でもない」とディオルが言う。


「やっぱり人間じゃないですか?」と、狼男っぽい獣人がそう言った。体は大きく二足歩行しているようだが、顔や首は狼そのまんまでふさふさしている。


 ジルはプルプルと震えた。

 (何この人(?)達!カッコいい~!)と感動している。


 豹の顔で体は人間のたくましい体つきの隊長らしき獣人に、何やら可愛らしい(と、言っても自分よりは背が高い)兎耳のすらりとした獣人、それに全身、毛むくじゃらのまんま狼の獣人!そして青い肌とがった耳の美丈夫な魔人?うわ~触りたいっ!と好奇心でいっぱいで思わずドキドキが止まらない。


 そんなジルの様子をみたディオルは、人間であろうジルが、自分達をみて怖がっているのか?と心配した。

 しかし、頬はうっすら紅潮し笑顔まで見せている。

 なんだか、怖がっている訳では無さそうだと思いつつもジルの不思議な反応に困惑したのだった。

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