98.魔の森で①
飛ばされたそこは、昼間なのにうす暗い岩と生い茂る樹木に覆われた密林だった。
「っ…いきなりかぁ~」と思わず呟く。
あ~、どうするかな~。
如何にも魔物とかうじょうじょいそうな森である。
その場所で僕は途方にくれたが、僕の中にはギエンテイナルのこれまで生きてきた記憶もある。
竜の頂点にいたギエンの記憶の中には、魔物と対峙した時の記憶もあるが、ほぼ瞬殺。
ギエンだけでも瞬殺だったんだから、融合しちゃった僕が、攻撃したりしたら?
ヤバいよね…。
うん、取りあえず、ちょっと広いところに出たら試しにちょっと、普通の生活魔法の威力から試してみよう。うん!そうしよう。
融合してから、一切、魔法を使ってなくて良かった~。
まぁ、竜になって空を飛んだくらいか…うん。移動による破壊はなかったよな…。うん。
うんうん、自分を納得させつつ頭をめぐらせる。
僕はうっそうと茂る樹木の森を抜け、少しばかり広い場所に出た。
何か魔物が遠巻きに自分をみてグルグル言ってるのが聞こえるが、取りあえず無視する。
魔物と言えども見ているだけで何もしかけてこないのなら、こちらからは何もするべきではないだろう。
大量虐殺したい訳ではない。
試しに蝋燭ほどの灯を出そうと人差し指を立ててみる。
「火」
すると、ごぉぉぉぉぉぉぉぉぉっと、まるで炎の咆哮のような火柱が立ち登った。
物凄い業火である。
「は…ははは…マジか…上に向けてて良かったあ…大方森を丸焼きにするとこだったぜ」
今更ながら、僕を早々にこの魔の森に放り出した家族に感謝の気持ちすら沸いてくる。
皆の事、ちょっと酷いんじゃないかと思ったけど、すぐに放り出してくれたのは英断だったといえる。
「が…学園で試さなくてよかった…」と、本心から思った。
うっかり友人たちを黒焦げにはしたくないからね。
まぁ、リミィやティムン兄様には母様から頂いた月の石の加護があるから大丈夫だろうけど、教室や他の皆は骨も残らず炭と化すことだろう。
とりあえず、水も一滴だけ出すつもりで…『水!一滴で、いいんだ!ちょびっと!』と心の中で思う。
すると巨大な一滴がざば~んと落ちてきた。
「う!うっそぉぉぉぉぉぉ~っ!」
ぜ~は~ぜ~は~!思わずびしょぬれになりながら上空に飛び上がる。
「あ~乾かさなきゃ…」そう思って、温風を軽く出そうとしたら、竜巻が起こり僕はフッ飛ばされた。
「ひぇぇぇぇぇぇ~」ああ、本当に気をつけなくては…と思いながら、竜巻でふがいなくも目を回した僕は気が遠くなった。(精神的な意味で!)
もう、いいや、仮に意識を失ったところで僕をどうにかできる魔物もいる気がしないし…と精神的に疲れた僕はそのまんま目を閉じて眠っちゃった事は、何となく覚えている。
自分で起こした竜巻で飛ばされた先で僕はそのまま昼寝をしてしまった。
『またまた行きあたりばったりですか?もう、知りませんよ』と月の石(精霊のシン)から呆れたような呟きが聞こえたような気がしなくもないが、とにかく僕は疲れていたのだ。(精神的にね!)




