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96.ジル旅立つ①

 竜達と山に籠るとか精霊界に行くとか魔界に行くとか様々な意見が出たものの、次元を超えて行くともう二度と家族に会えないかもしれない場合が往々にしてあると言われた。


「精霊界は、時間の流れが違う…。行くのは良いが、一年も行って帰ってきたら10年はたっている。魔界の方が、まだましだが、それでも次元を超えるのは不安定だ。魔界は人間界より弱肉強食度が高いから、多少ジル様がやらかしても、崇め奉られるだけですむから、力の制御を覚えるにはもってこいだが…」と、何やら恐ろしい事を言われる。

 やらかすって何を?


「では、魔族たちが住まう狭間の渓谷は如何でしょう?あそこなら人間界との狭間で、かろうじて人界ともつながってるし」


「ああ、クルンデュラ国か?」と父様がピクリと片眉をゆがめた。


「?初めて聞く国の名だわ」と母様が言う。

 僕も初めて聞く名の国である。


「あそこは、魔界からはみ出した魔族や堕ちた精霊や戦争や貧困等で行き場を失った流民などが流れついて形成された国だ」


「え?ちょっと、そんなところ…大丈夫なの?」


「う~ん、大丈夫かと言っても今のジルの状態じゃ、むしろ大丈夫かと心配するのはジルの行った先の人間だが…その辺はどうなんだ?」と父様がリュートに聞き返す。


「ふむ…国として成り立ってから百年以上たっていて、一応それなりの法はあるようだし、何より純粋な人間はいないから良いかもしれん」


「純粋な人間がいない?」リュートの言葉に母様がまた聞き返す。


「うむ、ジルのように人間以外の魔族と契約し融合したものや、人と魔族との混血だったりがほとんどだ。あそこの渓谷までたどり着くのは普通の人間なら命懸けだ。たどり着こうとしてもたどり着けるのは勇者と呼ばれるほどの者でなくば無理だからな。つまり、ちょっとやそっとじゃ死なない強者しか存在しない弱肉強食の国だ」


「魔族との混血って強いの?」


「うむ、多種族の血が交わると必ずと言って強い者が生まれると言われている。頑丈な体。強い魔力…まぁジルや主には遠く及ばぬがな。それ故、その国の者はたまに人間の国から女をさらってきて子を孕ませるという事までする者がいたらしい。今では倫理観も進み、取り締まりを厳しくしているらしいが」


「ええ?何それ!怖い。ちなみに私は魔力は多くても、月の石の精霊の存在する源に流れちゃってるんでしょ?魔法も自分じゃ使えないし」


「それ故の(あるじ)だ。その変わり主は我らを使役できるのだから魔法を自ら行使する必要はなかろう?」


 段々、話がそれてきているようなので、僕は無理やり会話をぶった切る。


「じゃあ、僕はその国に行って、修行すればいい訳?誰か頼れる人っているのかな?」


「そんな者はいない!ちなみに月の石の精霊の加護も今のジルには無意味だ。精霊よりジルの方が強いし抑え込む事もできない。制御の方法も荒療治だが、クルンデュラに放り込んで様子を見るしかない!」


「えええええ~?」頼れる者はいないときっぱり言い切るリュートに僕は不満の声をあげた。

 そして家族を振り返ると皆が心配そうに僕を見た。

 ああ、やはり家族ってありがたい。

 どんな時でも僕の味方なのだ!


 そう、思ったのに…。

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