87.竜を従えし者 人ならざりし者--02
誤字脱字報告ありがとうございます。
感謝申し上げます。
ティムンの受け持つ特別クラスは、今日、竜との触れ合いの授業があった。
ティムンは竜人となったジル(ジーン)の事を考えていた。
この地の守り神とされている竜と同化したジルはもはやこの地の竜を全て総べる存在なのでは?
『不本意だが今、この特別クラスにジルがいなかったのは返って良かったのかもしれない』
そんな事を考えていた。
実際は、守り神とされる竜ギエンテイナルは、もともと前世のジルを主とする竜である。
同化などしなくともこの地を統べるギエンテイナルの主にたてつく竜などいる筈も無かった。
おっかなびっくり竜たちを遠巻きにみる初々しい特別クラスの一年生たちに竜への挨拶をさせる。
竜は誇り高く知性をもつ生き物だから、尊敬の念を持って接しなければならない。
殆どの竜は基本的に怒らせさえしなければ気性は穏やかで優しい。
一度、他の生徒達や教師がいないところでジルに対して竜たちがどういう反応になるのか確かめてみなくてはと思うティムンだった。
そしてその心配は杞憂…には終わらなかった。
その日、一年生たちが竜との触れ合いを終えた後、上級生たちが竜に乗り学園の上空を旋回するという工程が組まれていたが、竜たちの様子がいつもと違っていたのだ。
落ち着きがなく普段穏やかな彼らが何か苛立たし気だった。
ティムンはその様子に気づき、もう一人の担任、クレイユ主任教諭に進言した。
「クレイユ先生、竜たちの様子がおかしい。今日の上級生たちの騎乗はやめた方が…」
「ははっ。何を言ってるんだ。いつもと変わらないじゃないか。ティムン先生は心配性だな。まぁ、君はまだ経験が浅いから…いざとなったら僕もいるから大丈夫だよ」
そんなクレイユ先生の言葉にティムンは『嘘だろう?何でわかんないかな?竜たちの様子がまるで違うのが何でわからない?』と驚いた。
駄目だ。この先生…前からちょっと思ってたけど、なまじ魔力が高いせいで魔力まかせに竜を従わせているけど竜が本気で怒ったら、魔力抑制なんて効かなくなるに違いないのに…。それにまだ若い子供の竜ならともかく成竜を本気で怒らせたらどうなることか…。
基本的に竜達は、穏やかでおおらか。
短命で弱い人間など、とるに足らない存在を騎乗させてくれたりするのは長い長い生の中でのほんの気まぐれや暇潰しのようなものだ。
中には、学園がしつらえた『竜の城』と呼ばれる白亜の美しい建物にいれば、面倒な狩りなどしなくとも清潔で綺麗な寝床に3食昼寝つきだというちょっと怠け者な竜もいたし、竜を崇めるこの国では竜の扱いは良かったし人間好きな竜というのもけっこういた。
だからといって竜達に人間に飼われているという意識はない。
この先生は自分ごときの魔力で竜をけん制し従わせているとどうも勘違いしている節がある。
強いて言えば竜が人間に対する好奇心から歩み寄り人間につき合ってくれているに過ぎないというのに…。
この国の竜が人間にこれまでかなり好意的だったせいもあるが、竜たちのいつもと違うピリピリとした感覚にティムンは不安を覚えていた。




