79.招かれて(ティムン視点
義姉に招かれ僕は義姉の泊まるホテルに向かった。
何だか変な予感がするのは気のせいだろうか?
何かひっかかる。
残念ながら僕の勘はよく当たるのだが…。
何かいつも明るく勝気な義姉がやたら畏まった感じだったのも気にかかるし、こういうときは大概において義姉が何かやらかした時である。
しかし、一体何を?
舞踏会での飛竜の出現?
いや、あれは古くから、此の地に住まう竜だろうし義姉だって竜は初めて見た様子だった。
義姉が直接、関わってる感じでもなかった。
義姉と言えば今日のお呼ばれに双子たちは呼んでないのだろうか?
週末の休みは昨日と今日で明日からは、また五日間、学園である。
今日は、てっきり母子水入らずで過ごすかと思っていたのに…。
ふむ…。
まあ、あのホテルの一室は、貸しきりにしてラフィリルの屋敷と繋げちゃったみたいだから、いつでも会えるからって事なんだろうな。
まあ、いいや、とにかく会えばこの何だか嫌な予感の正体も分かるだろう。
そう思って僕は、身支度をして、ホテルの義姉の部屋に転移した。
そして、そこにいた美しい乙女を目の当たりにしたのだった。
それは、リミィによく似た美少女ではなくリミィ本人だった。
そして何やらバツが悪そうに上目遣いでこちらの様子を窺うような義姉と姪っ子の様子に瞬時に理解が及んだ。
「あ~、なるほど…そう言う事か…」
僕はなんだかがっくりと力が抜けて、側にあったカウチにどすんと腰を落とした。
昨日の美少女はリミィだったのだ。
…と、いう事は、あの竜と共にいた黒髪の美少年はジルか…。
なるほど…。
全く気配が違っていたから別人であると思いこんでしまっていた。
むしろ気配を抜きにしてみれば何で気づかないと不思議なほど二人とも面影があったというのに…。
そして僕は気づいた。
二人が神妙にしている理由も、自分が昨日自分の中に咄嗟に閉じ込めた想いも!
そしてリミィは僕にすがるような目で謝ってきた。
「兄様!あ、あのっ!ごめんなさい!わたしっ、こんな事になるなんて」
「こんな事?」
どんな事だ?何を謝っているのか?
「えっ!…あ、あのっ、その、まさか兄様が私とわからないとか思わなくてというか…」
「ふぅん、まぁ、いいよ。舞踏会にきてみたかったんだろう?」
「「えっ?」」
二人は驚いたような声をあげた。
何をそんなに?
僕がこの二人にだったら殺されたって許してしまうだろうに…。
義姉はもとより十歳の頃、魔物に喰われた僕を助けてもらった命の恩人だ。
もとより、あの時死ぬ筈だったのだから。
そしてリミィ…生まれ落ちたその時からの僕の許嫁…。
可愛くて愛しくて…君の幸せの為だったら僕は何でもすると誓っていた。
今回の事は多分、無邪気に舞踏会を覗いてみたいとか、リーチェ先生が気になってとか、そんなところだろう。
可愛いものだ…。
それもこれも自分の事を慕っての事だとわかるから…。
我ながら己惚れた考えだと思うも、ふっと笑いがもれた。
可愛い姪っこ…僕は君がこの先、僕以外の誰かを望んでも君の幸せの為なら手放す事さえ厭うまいと決めていたのにね…。
「兄様?」僕の態度に戸惑うリミィが不安そう僕の瞳を探る。
そんなリミィに僕は少しだけ意地悪な言い方をしてしまった。
「でもね…ごめんね、リミィ、僕の事はもう兄様とは呼んでほしくない…」
「「えっっ!?」」リミィと何故か義姉様まで驚くって何なんだとか思うんだけど…。
「なななな、何を!ティムン!そ、そんなに怒って?」
「は?何で僕が怒るんですか?義姉様は、ちょっと黙っててもらえますか?」
「う…そ、そんなティムン~」
義姉様…泣きそうな声を出してもだめである。
今回の事で僕は怒ってはいないが気づいてしまった事があるから。
「に、兄様、もう私が兄様と呼ぶのもお嫌なのね?」
「ああ、ごめん。もう無理だ」
「うっ…うわぁああん」リミィが十五歳の姿で泣き崩れた。
「えっ?リミィ、泣くほど嫌かい?」
「そ、そりゃあ」
「僕の事はこれからは兄様ではなく名前で呼んでほしい。もう、君のことは可愛い姪っことは思えない」
「え?」
あ、涙、ひっこんだ。
今ので意味通じた?いや?怪しいな…。
ここは、しっかり釘をささないと…。
もう兄ではないし、手放してもやれないと言う事を…。
無邪気で無防備な僕の天然小悪魔ちゃん。
リミィは、真っ青になって、ドアの外に飛び出た。
あ、やっぱり、何か違う風に受け止めてるよね?
さすが天然義姉様の娘って言うか…。
僕は、あっけにとられている義姉様をよそに、リミィを追いかけた。
「えっ?えええええ?」走り去りながらも義姉さまの、背後からの叫び声が聞こえた。
僕は走りながら思った。
義姉様には悪いけど…。
ここからは保護者抜きで話したいから、ほっとこうと…。
リミィ、これは無意識でも僕を煽った罰だよ。
胸の奥で甘酸っぱいような堪えきれない思いが湧き上がり自分でも意地が悪いと思うけど口元が笑ってしまう。
大丈夫、大切にするからね?
よそ見なんて出来ないくらいにね…。
僕の腕の中から巣立たせはしない。
ごめんね僕は欲が出てきたみたいだ。
昨日、一旦は封じ込めたこの想い…この熱の正体に僕は気づいてしまったから…。
そして僕は、あっという間にリミィに追い付き、涙をこらえながら走り去ろうとする十五歳のリミィの腕をつかみ背後から引き寄せた。




