77.ジル拍子抜け
ティムンは、あの舞踏会での少女の名前をルミアーナに聞くことは無かった。
その事でルミアーナもリミィも罪悪感でずっと胸の奥がもやもやとしていた。
ジルはジルで、あの竜のポッティの事でルミアーナにこってりと前世の事から聞かれると思っていたのに心ここにあらずで、特に突っ込んでこないのが不気味で、自分の方から母に聞いてみた。
「か、母様…母様は気づいてるんだよね?」
「ああ、ジル何?ああ、前世の記憶の事?思いだしちゃったんでしょ?悪いけど今、ちょっと余裕なくってさ~、そんな事よりジルってば、何で舞踏会の時、めくらましなんてかけてたのよ!ティムンがあんた達双子の事わかんなかったせいで、今ちょっとややこしい事になってるんだからね」
「そんな事って、ええっ?やっぱ、わかってたの?えっ?いいの?何か色々怒られるとか聞かれるとか思ってたんだけど、目くらましって…え?怒るのそっち?」
「ああ?何?だって別に前世思いだしたからって、あれでしょ?あんた達が攫われた時リミィの事守ろうとしたかなんかで封印かなんかがとけたって事とかじゃないの?」
「そ、そこまで分かってたの?」
「えー?やっぱ、そっかぁ?まぁ、しょうがないんじゃない?ジーンとしての記憶がなくなっちゃった訳じゃなさそうだし」
「か!軽っっ!し、しょうがないって…か、母様はいいの?こ、こんな僕って気味悪くないの?」
「はぁ~っ?自分のお腹痛めて産んだ子が気味悪い訳ないでしょう?前世の記憶くらい何よ!母様だって異世界でいた頃の別の記憶とこっちで暮らした二人分の記憶もってるわよ!男があんま小さい事気にしなさんな!あんた、それでも、この国を創った偉大な魔法使いデュローイなの?」
「ええっ?僕の前世の名前…そこまで知ってたの?そ、それに母様も別の記憶が?」
何かすごい告白を聞いた気がするジルである。
確かに異世界の記憶とか言われたら少なくとも同じ世界のいたときの記憶だけの自分の方が大した事ないようにも感じる!
母ルミアーナ!恐るべし!
「あ、でも、それは誰にも内緒よ?父様にも言ってないんだからね」とルミアーナは息子にウィンクしてみせた。
「あなた達双子がお腹に宿った時にね!忘れてるみたいだけどお腹から話しかけてきてたわよ?あなた達はその魔力を私に貸してくれて、未曾有の魔災害の時に精霊軍を呼びだすことが出来たんだから」
「そ、そんな事が?」
「ふふふっ!生まれてくる時のショックで忘れちゃった?リミィの方はすっかり前世の記憶ごと無くしてるみたいよね?」とルミアーナがあっけらかんと本当に大した事ではないように笑う飛ばして言うのでジルは拍子抜けしてしまった。
「ま、参った」ジルはお手上げといった風に両手をあげて降参した。
母様には一生頭が上がらない気がするとジルはこの時に思った。
「そんな事より、今はティムンよ!ティムンてば、リミィ以外に心を奪われたかもしれないのだから!」
「ええっ!」
「大人になったリミィによっ!」
「なんだ、じゃあいいじゃないですか?」
「ところがどっこい、ジルのかけた目くらましのせいでティムンは別の誰かに心ひかれたと思ってるみたいなんだから」
「え!えええ~?じゃ、本当の事を」
「それがねぇ…」
ルミアーナは、かくかくしかじかとリュートに怒られティムンの切ない状況をジルに伝えた。
ジルは単純に、リミィが隠れたそうにしていたから、リミィと認識しないようにかけただけの気軽な気持ちでかけた魔法だったが、またしても失敗したようである。
リミィもすっかり落ち込んでティムンからはその話は一切してこないしどうしたものかと悩んでいると言う。
前世の記憶をもつジルでも男女の事などさっぱりである。




