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72.突然ですが飛竜現る!

 リミィとジルは、飲み物を置いている台の直ぐ横にあるバルコニーの端にかかる重厚なカーテンに身を潜めた。

 ジルはそっと自分と『リミィの気配』を遮断した。

 今のジルはティムンよりも魔力が強い。

 …というか、この世界の誰もジルに敵うものはいないだろう。


 ティムンは二人に気づくこともなく飲み物を手にし、席に戻ろうとした時だった。

 どぉんという大きな音と共に宮殿内が大きく揺れた。

 大きな竜巻でもこの宮殿にぶつかったかのような音と振動である。


 そして、そこにいた招待客たちがバルコニーから外を見た時に見えたもの!

 それは、大きな大きな()()()()()()だった。


「「「きゃあああああ」」」

「「うわぁ」」


 招待客たちは慌ててバルコニーとは反対側広間の奥へと一斉に逃げた。

 そしてティムンは皆を庇うようにバルコニーに向かい立ちその目玉を見返す。


 その目玉はぎょろりと動きティムンを見返した。

 そして、その場にいたごく僅かな者…特殊で大きな魔力を有する者だけが、その目玉の正体の放つ言葉を聞いた。


『違う…お前ではない。(あるじ)に似た気を持っているが…違う…気高く優しくそして桁違いに強い主の…いや…しかし確かに(あるじ)の気配を私は大公宮殿(ここ)から感じたのに!」


 その声は、ティムンやルミアーナ、ジルやリミィにも聞こえた。


 その目玉は、一旦、宮殿から少しだけ体を離した。


 そしてバルコニーから見えたその()()()()()()()()()()だった。

 しかも翼をもつ大きな大き飛竜である。

 その巨体は人が一人乗るような可愛らしいサイズでなかった。


 全長三十メートルはあろうかという巨体である。


 外から広間の光がこぼれ出るこのバルコニーから中を除き込んだ、その巨大な竜の瞳は、中から見れば大きすぎて目玉しか見えなかったのも頷ける。

 それほど大きかったのである。


 そんな巨大な飛竜の翼の羽ばたきは風圧だけで城へ地鳴りでも起こったかのような振動を与えた。

 ジルとリミィも驚きつつもその竜とティムンの様子を窺っていた。


 ふとジルがその竜をまじまじと見ながら「え?」と小さく声をあげた。

「ま、まさか…あの竜は…」

「え?何?ジル、あの竜のこと知ってるの?」

 ひそひそ声でカーテンの陰で話す二人のわずかな声も飛竜が反応した。

 殺しているはずの気配も飛竜には関係なかった。


 この世界ができる前、旧世界からの生き残りと言われる竜である。

 それ故、この国では竜神信仰が厚くラフィリルでの精霊同様に崇められている。

 大公がバルコニーに近づき、その宙に浮かびこちらをじっと見据える飛竜をみて跪く!


 なんと!あんな大きな竜は見たことが無い!

 まさしく伝説の竜神に違いないとばかりに「ははーっ!」と頭を下げた。


「なっ!?た、大公殿下?」

 ティムンは、驚いた。

 大公に並び、後ろで皆が竜に向かってひれ伏す。


「ティムン君、あれはきっと我が国の護り神の竜神様ポッティ様に違いない!この国の凶事に現れ、この地を守って下さった竜神様だ!」


「ポ…ポッティ様ぁ?」

 正直、それを聞いたティムンもルミアーナもリミィも(何なんだその緊張感のないゆるい名前は!全然似合わないっ!)と思った。

 もっとこう!シャープな名前は無かったんかいっ!と心の中で叫ぶ中、ジルだけが違う反応だった。


「え?やっぱり、あれポッティ(ポチ)?まさか、あんなに小っちゃかったのに…でもこの(オーラ)はやっぱりポッティ(ポチ)…なのか?」


 その呟きに竜が気づいたのか再びバルコニーに近づきその風圧でバルコニーのカーテンが舞い上がりジルとリミィが吹き飛ばされ広間の宙に舞った。


「きゃあっ!」リミィが思わず声をあげた。

 ジルはすかさず身を翻し、リミィを助けようとしたが、それより早く宙に舞った少女に気づいたティムンがリミィの体を受け止めた。


 ジルが『()()()()気配』を封じているのでティムンには、その()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 リミィは、突然の事に頬を染め狼狽えた。

 子供を抱っこするそれではない!

 なんと憧れの『お姫様だっこ』である!


 しかし、いかんせん残念ながら甘い雰囲気に浸るような状況ではなかった。


 その巨大な竜が咆哮したのである!

「おぉぉぉぉぉ~ん!」

 宮殿内に戦慄が走った!

 周りの皆はその竜が何を怒っているのかと驚愕し怯え、大公も顔色を変えた。


 しかし、その場にいた一部の者にはその()()()雄叫びが聞こえていた。

『デュローイ様!(あるじ)よ!やはり貴方様でしたかっ!』

 竜の瞳からは涙が溢れていた。


 そう、その名は『デュローイ・アルデジオバロッサ』()()()()()()()である。

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