71.リミィの健気な想い
「じゃあ、もう帰る?」ジルがリミィにそう尋ねる。
「う~ん、どうしよう」
迷うような、リミィの返答にジルが突っ込んだ。
「あれ?意外!せっかく大きくなったからには兄様と踊りたいかと思ってた」
「それは…勿論…でも、こんなのズルじゃない?」
「ええ~?そうかな?別に別人になってる訳じゃないんだし良くない?」
そんなジルの言葉に何かばつが悪そうにリミィは眉をよせながら言った。
「だって…中身がまだついていかないのよ?」
「驚いた!」ジルは、本当に意外そうに言った。
「何がよ!」
「姿に引き摺られているのかな?考え方まで大人になっちゃってない?」
「ええっ?そうかな?」
「そうだよ、いつものリミィなら少しでも大人に近づいた姿を兄様に見せびらかして今にも結婚をせまっちゃうかと…おっと」
つい馬鹿正直に、思った事を言って口を閉じるジルに、リミィは苦笑いしながら小さな溜め息をもらし、怒鳴る事もなく答える。
「…言ってくれるわね?ん…でも、そうかもしれない…この姿になる前と考え方が随分違うもの…」
「え?何?まさかテイムン兄様の事もう好きじゃないとか言わないよね?」
「それは在り得ないっ!」
「あ、ああ~だよね?」うん、わかっていたよと心の中で呟くジルである。
「そうよ、確に、ジルの言うように姿に中身も引き摺られて大人っぽい考えになっちゃってるのかもね?でも、この気持ちは変わらないって、ううん、より強く思ったわ…」
そう言うリミィの表情は本当に切なそうになっていてジルは、困惑しながらも頷いた。
悲し気に見えてちゃかすような気もちには到底なれない。
とにかくジルが望むのはこの美しくも可愛い姉の幸せなのだ。
「それで?」
「私は…中身も、小さい可愛い姪っこじゃなくて愛しい許嫁に…恋人なりたいのよ…見た目だけつりあったところで、明日には元の姿になるのよ?空しいだけよ…」
そんな事を言うリミィは、どうやら本当に考え方まで大人になっているようである。
リミィの方はともかく、ジルは中身が前世の記憶のある年齢に近づき、中身と外見が、ようやく釣りあった訳である。
封印されているとは言え、もともとこの世界を創り出したほどの魔法使いだったジルの魔力は精霊の力をも超えるものだった。
その気に成れば封印を外すことなど、おもちゃの手錠を外すくらいに容易である。
ジルは、その力を持って、ティムンとリミィを交互に見てみた。
母ルミアーナの側にいるティムン、この二人の間にも信頼や親愛のような絆が見えた。
そしてリミィとティムンの間にも美しい淡い光が見える。
まるで精霊の祝福のような光で繋がっている。
それが、身内の情なのか許嫁の間にあるべき愛情なのかは分からないが確かに何らかの絆が見える。
とても清らかで美しい光が。
そしてティムンは二人が大人の姿でこの舞踏会に出席している事などルミアーナから全く聞かされていなかった。
そうとは知らずティムンは、飲み物を取りに席を立った。
そして、リミィ達のいる方向に歩いてくるではないか…。
リミィは、さっと隠れた。
ジルはそんな姉に苦笑しながらもつき合った。
そして、そんな時に事件は起きたのだった。




