70.闇夜と木漏れ日の二人
大公家主催の舞踏会。
煌びやかな灯りと美しい楽団の音色が響く中、大公宮の大広間の片隅に、まるで闇夜を湛えたかのような漆黒の髪色と夜空を思い浮かべる濃紺の瞳の美少年が立っていた。
その側には、まるで春先の森に差し込む木漏れ日のようにキラキラと輝かんばかりの蜂蜜色の髪色と琥珀の瞳の美少女が並び立ち、二人が歩むと自然と道が開いた。
月の石の精霊たちの魔法で十五歳くらいになったリミィとジルは、流石ルミアーナの息子娘なだけあり、この世の者とは思えぬまるで精霊界のプリンスとプリンセスのごとき美しさだった。
そんな二人は、フロアで踊る母ルミアーナと叔父ティムンを見てにっこりとほほ笑んだ。
相変わらず母は美しく可愛らしく叔父は素敵で格好いい!
リミィは義理の叔父であり許嫁でもあるティムンをうっとりと眺めて熱いため息を漏らす。
そんな二人を愕然とした眼差しで見つめるリーチェ先生の様子も見て取れた。
リミィとジルは、ほっとした様子で暫く様子を見ていた。
気が付けば、リーチェ先生をそっちのけで、リーチェ先生のパートナーらしき人と何やら熱く語り合っている。
母もティムン兄様も楽しそうにその男の人と話し込んでいた。
どうやら心配するには及ばなそうである。
「さて、リミィ、兄様も心配するような事態にはなりそうもないし、今からどうする?」
ジルがリミィにそう問いかけた。
「う~ん、そうね。せっかくだから母様たちと一緒に舞踏会を楽しんでみたかったけど側にいるリーチェ先生に変に気づかれてもね…」
「うん、まだ日は浅いといっても僕たちの担任だしね」
「どうする?ダンスくらい踊る?」
「う~ん、あんまり目立つのも嫌だからいいわ」
そんな事をいうリミィだが、二人はその場に立っているだけで十分目立ちまくっていた。
周りはどよめき噂し合う。
一体どこの国の王子様と王女様だ?と…。
この美しい二人に気づかないのは、ルミアーナとティムンに釘づけのリーチェとイースの兄妹くらいだったろう。




