66.舞踏会のはじめに
タイターナ公国大公家主催の舞踏会。
それは、毎年開かれる社交界シーズンの始まりに大公家がその年、初めて社交界デビューする若者たちの為に催す恒例の行事である。
そんな中、今年、社交界デビューする若者たちは不安と期待に胸を膨らませその場にいた。
そしてそんな中、話題はラフィリルからきたライリー学園の新任教師ティムン・アークフィルの話題である。
「いくら公国立の由緒ある学園とはいえ、一介の教師だろう?そんな者がどうして大公閣下がお気にかけられるんだ?」
「それが、実は教師にという名目で来てはいるが飛龍の研究をしたくて数多ある誘いを蹴ってまでこのタイターナで来たっていう話だ!」
「え?飛龍の研究?なるほど…じゃあ、それなりの身分も?」
「ラフィリルの公爵家のご嫡男だとか!」
「んまぁ!素晴らしいご身分ではありませんの?」
「それもラフィリルでも名門の学園を首席でご卒業とか、学園長が、それはもう誇らしげに言ってらっしゃいましたわ!何でもラフィリルの魔災害の時にもまだ学生だったにも関わらず大活躍されて王家からの覚えもめでたいとか!」
「それはまた、すごい人物が来たものだな!是非お近づきに…」
「そう言えばその学園には確か飛龍騎士団長であらせられるレボルグア伯爵のご令嬢リーチェ様も女教師としてお務めとか…」
「それはまた、ライリー学園の学園長はよほど良い人材を集めるのがお得意と見える!」
「まぁ、あのライリー学園だからな」
そう、ライリー学園はエリート中のエリートの育つ学園である。
いわゆる世界を率いる人材の宝庫なのだ。
だからこそ入るのも卒業するのも難しいと言われている。
「そう言えば今日はリーチェ嬢もご出席されるという噂だぞ!」
「何!本当か?それは素晴らしい目の保養になる!」
そんな囁きの中、リーチェは兄をパートナーにその場へと入ってきた。
わっと周りの目がリーチェに降り注ぐ。
美しい淡い若草色の髪は高く結い上げられ白い花があしらわれている。
淡いクリーム色の薄いベールを幾重にも重ねられだドレスはふんわりと優し気な雰囲気で周りの男性たちの視線を集めた。
「「「可憐だ」」」
「「「「「可愛い」」」」
そんな言葉が囁かれる。
そしてそれとは反対に一部の女子からは嫉妬の声が漏れる。
「相変わらず、可愛こぶった感じですのね?あの方、ああ見えて、もう今年で二十歳ですわよ?もうそろそろ行き遅れではありません事?」
「まったくですわ。女だてらに教師など…伯爵家のご令嬢とは思えませんわね?」
そんな悪意の声も、ちらほらリーチェに聞こえよがしに囁かれた。
「お、お兄様、すみません」
兄にエスコートされながら入ってきたリーチェは兄に謝った。
「気にするなドブスのやっかみなど…」と、兄のイース・レボルグアが聞こえよがしに返した。
「「「っ!」」」そんなイースの言葉に、口さがない令嬢達は顔をこわばらせつつ陰にかくれるのだった。
リーチェの兄イースは、このタイターナ公国の飛龍騎士団に在籍し美丈夫であり、憧れる女性も多かったが、硬派で妹以外の女性を受け付けないともっぱらの評判だった。
その事が余計、ほかの令嬢達からリーチェがやっかまれる原因となっている事をイースも肝心のリーチェも気づいてはいなかった。
そんな中、リーチェが大して来たくもない舞踏会に来たのも愛しいティムンの今日のお相手を見定める為である。
リーチェのお洒落にもこれまでになく気合が入っていた。
普段、褒めることのない兄ですら褒めたくらいである。
「これは、綺麗だな…今日の主役はお前で決まりだな…」と言ったのである。
この言葉はリーチェにかなりの自信を与えた。
ティムンの相手が、どんな美女でも負けるものかと気合を入れていた。
その時、広間の入り口の方から大きなどよめきと悲鳴のような歓声が聞こえた。
何事かと皆が振り返る先にはティムンとそのパートナーが腕を組んで入ってきたのだった。




