64.美女は微笑む
「うっそだろぉ?」
ジルがその美女をみて思わずそう言い、リミィは叫んだ。
波打つ金の髪。
宝石すらかすむほどの美しい碧い瞳。
透けるような白い肌に淡いピンクの唇。
これほどの美女は世界に何人もいないだろう。
この世界の三大美女を例えるならば必ず入ろうかと言うほどの輝かんばかりの美女である!
そう!月の石の主!現存する女神と呼ばれし双子の母ルミアーナ(二十四歳)である!
「きゃああ!お母様っ!」
「ふふっ!来~ちゃった~♪」
「んもぅっ!お母様ったら昨日も月の石で念話したのに、来るなんてちっとも言わなかったじゃないですか!」
「ふふふっ!だってビックリさせたかったんですもーん♪」
「もーん♪じゃありませんわ!お母様ったら人騒がせな!」
全くもってこの無邪気な母ときたら!と、双子達は力が抜けて膝から崩れ落ちそうだった。
「いや、僕はリミアがやきもきしてそうだから、早く言いたかったんだけどね?」とティムンがリミアに申し訳なさそうにウィンクする。
「兄様も意地悪~っ!」
そう言いながらも嬉しそうに笑うリミアである。
「しょうがないだろう?姉さま…君達の母親に逆らえる人間なんてこの世界じゃ、いないから!」と笑った。
精霊が宿りし”月の石”の主であるルミアーナはこの精霊信仰の厚い世界において唯一無二の至高の存在である。
その地位はこの世界のはじまりの国ラフィリル国王よりも上にあり、精霊たちは彼女に付き従うのだ。
まさにこの世界で最強の”現存する女神”なのである。
「ふふふっ!しょうがないなぁっ!」リミィはとびっきりの笑顔になりティムンの胸に飛び込んだ。
「まぁまぁ、相変わらずリミィはティムンが大好きなのねぇ」と母ルミアーナも微笑ましそうに愛娘をみた。
「母様、もう、洒落になんないから本当にやめてよね…リミィを刺激すんの!ティムン兄様がらみは、マジでヤバいです!」
「まぁあ、そんなに?」
「そんなにですっ!」
「きゃああ、やめてよねジルってばっ!」と、リミィは、真っ赤になって叫ぶ。
たちまち、笑いで満ちた一室は明るい空気で満たされていた。
「んもぅ、二人とも、文句ばっかりね!せっかく会えたのに喜んでくれないの?」と母ルミアーナがわざと拗ねて見せると二人は慌てて母のもとへすり寄った!
「「嬉しいに決まってます!」」
二人は、そう言うと母ルミアーナをハグした。
そんな様子を今度は微笑ましそうにティムンが見ている。
「しかし、母様がティムン兄様のパートナーだなんて!」とジルが感心したように言うと母ルミアーナは、得意気な顔をして双子達に答えた。
「リミィが、気にしちゃ可哀想だってティムンったら本気で悩んでるんですもの!私もそろそろ、こっちに来てみたくてウズウズしてたし!リンを呼び戻して転移して来ちゃった!」
「えっ!リンを?」
「ええ、リンとシンは、あなた達とこちらに来てるからタイターナからラフィリルへの転移もラフィリルからタイターナへの転移も可能ですもの!私も今日こちらに来れたからいつでも転移して来れるわ♪」
「お母様、でも皆の前では他人のふりですよ?お母様はとにかく目立ちますから!」
「わかってるわ!とりあえず、あなた達はパリュム家の子供達っていう設定ですものね!ふふっ」
母ルミアーナは微笑む。
それはそれは満足そうに。
そして、久しぶりに出会った母と双子達は同じ部屋に泊まり、ティムンは夜遅くに自分の寮に戻ったのだった。




