61.ラフィリルの貴公士
レボルグア伯爵家は代々タイターナの飛竜騎士の家系だ。
名家で知られ、その伯爵家の令嬢であるリーチェ先生は父の力を借りて、気になるティムン・アークフィルの事を調べていた。
あえて父に頼んだのはどのみち父が賛成してくれる相手でなければならない。
それならばいっそ父にお願いしたほうがと考えた末の事だった。
「リーチェ、この若者なら父も大賛成だぞ!次期公爵という身分のみならず、あの実力主義と言われるラフィリルの学園の騎士学科を首席で卒業し、魔導まで習得している!しかも、あの噂に聞くラフィリルの魔災害の時にも、学園内の混乱の中、騎士学科の生徒たちを指揮して他の学科の生徒たちを救った英雄伝はラフィリルの伝説にまでなっているらしい!」
調べさせた報告書に目をやりながらほくほく顔の父にリーチェは安堵した。
どんなに自分が好きになったところで父がダメだと言えば絶対にダメだとわかっているからだ。
父の眼鏡にかなわなければ潰される。
しかし、父のこの喜びよう!
もう今にも婚約してしまえと言わんばかりである。
「お、お父様がそんなに人を褒めるのなんて初めて聞きましたわ」
「聞けば、かのラフィリルの”月の石の主”、”現存する女神”とも呼ばれる方の弟で義理の弟とは言え何と血族でもありラフィリル王家からの覚えもめでたいとの事だ!今回のタイターナへ教師として就任したのも飛竜の研究がしたかったのだろうが、素晴らしい人材が来たものだ!申し分ない貴公子だ!」
「まぁ!」リーチェは驚いた。
まさかそこまで凄い人物とは思っていなかった。
素敵な人だとは思ったものの教師としてやってきたのだからまさか、そんなあの始まりの国のラフィリル王家からも望まれるような人物だったとはと驚く。
しかし、一番気がかりだった父の賛成まで得られてリーチェは百万の味方を得たような気持ちになっていた。
そう次の言葉を聞くまでは…。
「許嫁がいるようだが、十一歳も年下でまだ子供だ。しかも義理とはいえ姪にあたる公爵令嬢だから、多分、仮の許嫁というやつだろう。気にするな!うばってしまえ」
「えっ?許嫁が?」
その言葉はリーチェの心に影を落とした。
リーチェは思った。
あんなにも素敵なティムン先生なのだ。
例え、それが仮の許嫁でも許嫁の方はきっとティムン先生の事が好きに違いない。
ティムン先生の気持ちはもちろん、今はまだそんな十一歳も年下の子にないとしても自分が彼を奪えば自分は、その許嫁から見たら略奪者だと。
でも、だからと言って諦められるのかと言われれば”否”である。
あんなに素敵な、しかも父が両手をあげてで賛成するような男性など二度と出会えないだろう。




