60.ティムンの憂鬱
ティムンは、着任早々に悩んでいた。
原因は自分をタイターナ公国で社交界デビューさせようと張り切る学園長と、それに便乗してやたらパートナーにと迫り来る同僚の女性教師リーチェのせいである。
***
「まったくもって煩わしい事だ…」
小さなため息とともに、そんな事を呟いてしまう。
社交界もダンスも正直、とんと興味もない。
しかし、今回の舞踏会は学園長がどうでも出席するようにと煩い。
このタイターナ公国主催の舞踏会であり、大公殿下と引き合わせると張り切っているのだ。
いくら自分がラフィリルの公爵家嫡男だと言っても今は一介の教師なのだから、社交界だのなんだのとは切り離して考えてほしいと思う。
そして、あのリーチェ先生にも困ってしまう。
悪い人でない事くらいは分かるが時と場所は考えてほしい。
自分としては、学校の休み時間は、出来れば慕ってくれる生徒達とおしゃべりしたいと思ったりする訳である。
ジーンやリミアの担任だし、何より同じ職場の先輩な訳だから無下にも出来ないとは思うが、いかんせん休み時間ごとの舞踏会へのお誘いには辟易した。
許嫁もいるので…と断りたかったが、まさか今はここの生徒であるリミアをパートナーに誘う訳にもいかないし、何より年齢が大分足りない。
これまで許嫁がいるからと群がる女子達を断り続けたものの、そこに漬け込んで、アプローチしてくる女子も少なくはなかった。
(障害がある方が余計に燃え上がるらしいというのが余計に厄介なのだ!)
しかもここではリミアは自分の婚約者のリミア・ラフィリアードではなく『リミィ・パリュム』を名乗っているのだから話にならない。
「まいったな…」
それに何より自分の可愛らしい許嫁は、今のところまだ自分の事が大好きらしいのだ。
他の女性と舞踏会に出るなどと耳に入れば、どれ程落ち込む事だろうと胸が痛む。
生まれた時から可愛くて可愛くて可愛くて仕方ない許嫁を砂粒ほどにも傷つけたくはないのである。
いつか、彼女が大人になって自分じゃない相手を選んだとき本当に自分は彼女の幸せだけを願い身を引く…そんなこと出来るんだろうかと、自分が怖くなる時があるくらいなのだ。
そんな事を真剣に考えだしたら夜も眠れなくなってしまうので普段は考えないようにしている。
とは言え、今は目前の舞踏会の件である。
何とか、学園長の顔をたて、しかもリーチェ先生を傷つけないように断り、肝心のリミアを傷つけずに済む都合の良い方法はないだろうかと考えを巡らし途方に暮れる。
そんな時、ふと、何でもかんでも笑い飛ばしてしまう義姉、双子達の姉を思いだした。
そう言えば、タイターナに着いたら報告するよう言われていたのに、嵐で着くのが遅れたり何だでバタバタしていてすっかり忘れていた。
久しぶりに”月の石”を使っての念話をしてみる事にした。
『義姉さま?起きてます?』
『んん?あらっ!なぁに?ティムン?今頃やっと連絡して来たの?確かもう、そっちに着いてから一週間以上はすぎているわよね?』
早速、怒られた。
この人にだけは子供の頃から頭があがらない。
怒られついでに、ティムンは今回の舞踏会の事を話したら大笑いされた。
こっちは真剣なのだが…。
『ティムン、それなら私がリミアが気に病まなくても良いパートナーを用意してあげるわよ!』と、喜々として言い放ったのだった。
義姉さまには何か良い考えがあるらしい!
全く、困った時の神頼みとはこの事である!
まさに双子達の母ルミアーナは、”現存する女神”である!
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