58.リミィ焦る
クラスの皆とも打ち解けてティムンのいる特別クラスにはなれなかったものの、それなりに学園生活を満足していたジルとリミィだが、ランチはクラスメートとではなく約束をしていたフィリアととる為に、その日も食堂で待ち合わせていた。
「ジル!リミィ!何なの!あのリーチェ先生って!」
「「え?」」
「何って…私達の担任で普通に良い先生だと思うけど?」
「うん、優しい良い先生だよ?」
「さっきも、特別クラスの教室に来て副担任のティムン先生にすり寄っていたわ!教師のくせに全く何しに学校に来てるんだか!」とフィリアが言うとリミィが焦った。
「ぬぁあんですってぇぇぇぇぇ~っ!」
「えっ?」フィリアはそのリミィの剣幕にびっくりした。
当然である。
フィリアは、リミィの許嫁がまさかティムン先生だなどと夢にも思っていないのだから。
「リ、リミィ、落ち着いて!」
「ジル、何言ってんの?これが落ち着いていられますかっての」
そのリミィの剣幕に何事かと周りにいた生徒たちの間が一斉に向けられた。
「と、とにかく場所を変えよう!」
ジルが二人の背中を押した。
三人は慌てて場所を移動した。
裏庭の人のいない校舎の陰に移動した三人は本題に入った。
「ど、どうしたの?こんな所まで来て…何かいけない事聞いた?」
フィリアはきょとんとしている。
「いけなくはないわ!詳しく聞きたいだけよっ!それで!フィリア、うちの担任がそっちの副担任にすりよっているってどういう事?」
「え!ええ~と、うん、まぁ、すり寄ってるって言う言い方は少し意地悪だったかもしれないわ…でも休み時間ごとにうちの教室に来ては、ティムン先生に話しかけてるわよ?私達生徒だって、先生と話したいのに…」
「そ、そそそ、それってやっぱり…」
リミィの顔色は赤くなったり青くなったり大変なことになっている。
ジルも内心焦ってはいるが、多分ティムン兄様は何とも思ってないと思うので、とにかくリミィの暴走にハラハラする。
「まぁ、ティムン先生はカッコいいし、今度の王室主催の舞踏会でパートナーになってほしいんだろうなって言うのはわかるんだけどね?時と場所をわきまえるべきよね?ここは学園で先生にとっては職場でしょうにね」とフィリアが呆れた様に言った。
「舞踏会ですって!」リミィは呆れるどころの話ではない!
リーチェ先生は優しそうないい先生だと思っていたのに、とんだ恋敵の登場に気が遠くなる。
「ええ、春は社交シーズンですもの!大人たちのパーティよ!このタイターナ公国では、十六歳以上の貴族の男女はほとんど出席するわね!リーチェ先生も伯爵家のご出身だし一緒に出席するパートナーがいるんでしょうね?どうやらまだ婚約者もいらっしゃらないみたいだし」
「そ、そんなのティムン先生は出たくないんじゃないかな?」とリミィの方を気遣いながらジルが言う。
「あら、きっと、そういう訳にはいかないわよ!学園長も出席されるのよ!国王陛下にティムン先生を会わせるのだとはりきってらっしゃるとか聞いたわ!ティムン先生にしてもパートナーが必要なのよね」
フィリアがそう言うとリミィはますます落ち込んだ様子になっていった。
「そ…そんな」
「まぁ、リミィまでティムン先生のファンになっちゃったの?意外ね?リミィは許嫁一筋かと…」
「そ…そんなんじゃないけど…」
「ふふっ!大丈夫よ!あんなに素敵な先生ですものね?別に憧れるくらいはいいんじゃないかしら?」
「だ、だから…そういうんじゃ…」
リミィが上手いいい訳が思いつかず口ごもっているとジルが助け船を出した。
「まぁまぁ、フィリア、これは内緒なんだけどね?実は僕らティムン先生の許嫁をよく知っていてね…。実家の商売のお得意様のご令嬢なんだけどね?仲良しなんだよ。それで悪い虫がつかないか心配なんだよね」
「あら…何だ!そういう事だったのね?リミィってば本当に友達思いよね!でも大丈夫よ。ティムン先生は、やんわりお断りしているみたいだったからティムン先生の方がリーチェ先生に懸想してるって訳じゃないと思うもの」
「ほ、ほんんとに?」
「ええ、本当よ!でも、断り切れるかどうかは謎だけどね?」
「「ええっ?なぜ?」」
「そりゃあ、多分今回の舞踏会は大公殿下との顔合わせの意味もあるから出席しない訳にはいかないし、そうなるとパートナーはどうしても必要だし…その許嫁って、今はお国元にいらっしゃるんでしょう?例えこっちに来れたとしても年齢は?社交界デビュー前の年齢なら今回のパートナーは無理よ?」
「そ…そんな…」リミィが力なく呟く。
「つまり、ティムン先生はリーチェ先生を断ったとしても誰かはパートナーに選ばないといけないって事か…」ジルはそう言いながらリミィの頭をぽんぽんとなでる。
リミィは涙目である。
「まぁ、リミィってばティムン先生の許嫁の方とは、よほど近しいお友達なのね。まるで自分の事のように心配して…」
「う…うん…そうなのよ…フィリア…。彼女の為にもティムン先生が他の女性に気持ちがいかないか心配なのよ」
「僕も、ティムン先生の許嫁とは仲の良い友人なんだ。彼女の幸せのためにもティムン先生の女性関係はちょっと気になるんだよね?」
「わかったわ!ジル!リミィ!任せて!私のクラスの副担任ですもの!幸い私の班の担当はティムン先生だし何かわかったら逐一報告するから!」
「「ほんとに?」」
「もちろんよ!私はあなた達のお陰で今、とってもハッピーなんですもの!ティムン先生の許嫁さんにも幸せでいてほしいわ!だってジルやリミィの仲良しさんなんでしょう?いつか私にも紹介してね?」
「「もちろん!」」
そう誓い合った三人は、その日のランチは食べそこねて午後の授業に向かうのだった。
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