52.切なく優しいお説教
放課後、双子達は学園から少し離れた場所にある、とあるカフェに来ていた。
月の石の通信を使って、ティムンに呼び出されたのである。
カフェの中には、個室もあり、ティムンはそこで話を切りだした。
「さて、これは、どういう事かな?言い分があるなら、まず聞こうか?」
クラス編成のプリントを二人に見せながらそう双子達に尋ねるティムンは笑顔だが目が笑っていない。
「に、兄様、僕たち本当に後悔してるんだ!僕たちは単純に目立たず学園生活っていうものを満喫したくて…」
前世の記憶を持つジルだがティムン兄様には弱かった。
正確には叔父にあたる訳だが、前世の記憶が蘇る前も今も変わらず自慢の叔父で妹の許嫁だ。
前世の自分よりも年上で、賢く優しい彼をジルは尊敬していたし慕っていた。
「そ、そうなの!私達ね、初めてのお友達が出来たのよ」リミィがジルの言葉に付け加える。
「ふぅん?それで、わざと普通クラスに?では、思惑通りに普通クラスに入れた訳だけど、何故、後悔を?」
ティムンがそう聞くと二人はバツが悪そううに口ごもった。
「そ、それは…友達が思ったより優秀だったみたいで…特別クラスにいっちゃって…」リミィはしゅんとして下をむく。
そうなのだ。
リミィは、目立つのも嫌だったが大好きなフィリアと一緒のクラスになりたかったのである。
フィリアの魔力がまさか特別クラスに選ばれてしまうほど高いなど、想定外だったのだ。
「ああ、フィリア・ポーネットだね。彼女は成績も上位だし何より新入生の中では魔力量がダントツだったからね。つまりリミィの思うように事が進まなかったと言う事だね?」
「う…はい」
「それで、ジルは?」
「授業内容が違うなんて思ってなかったんだ。特別クラスには魔獣や飛竜と触れ合える実習があるなんて知らなかったし…」
「ああ、君たちが今まで学んだことが無いような授業があるところという意味でもこの学園が良いと姉さま…君たちの母親と僕で話し合って選び抜いた学園だったからね」
「「そ、そうだったの?」」
「星読みと魔獣の研究の進んだ国だとは聞いていただろう?」
「うん、だけど、まさか普通クラスでは、学べないとは思ってなかったんだ」
正直なところ、本当に晴天の霹靂だった。
そもそも特別クラスと言うのは成績が特にいい人間がエリート集団として寄せ集められているだけのクラスだと思っていたのだ。
その辺を確かめもせずに思いこんでいたのは前世での記憶があると言っても所詮十六歳…若気の至りと言うやつかもしれなかった。
「いや、普通クラスでも四年生になれば学べるよ。ただ、低学年ではまだ無理だね。そんな中、特別クラスの子達が一年からその授業を受けられるのは、四年生と同等の能力がある認められているからだ。そしてその程度の知識と判断力、理解力がなくては、魔物や飛龍という危険をはらむ生物には携われない。一歩間違えば本人のみならず周りをも危険に晒す可能性があるからね」
ティムンは、穏やかにそう言った。
「「そっか…」」二人とも頭をうなだれる。
明らかに自分達の考えが浅かったと思った。
「僕はね、この特別クラスでなら君たちが多少、実力をだしても、さほど目立たずに済むと考えていたし、あんな授業もこんな授業もしたいと考えてそれを君たちと共に経験できると楽しみにしていたんだ…」
「えっ?じゃあ、僕たちも特別クラスに?」
まさかの期待を抱いてジルが嬉しそうにそう言うとティムンは残念そうに首を横に降った。
「それは、できないよ。特別クラスの一年生の定員はわずか六名だ。さっきも言ったように危険な授業があるからね?担任と副担任の僕とで三人ずつを受け持って実習などは行う。この特別クラスに入る為に一生懸命頑張った生徒も中にはいる筈だ。君たちが入ることでそんな頑張った生徒が外されて、わざと頑張らなかった君達を入れるのは許されない」
二人は絶望的な表情になった。
「しかし、クラス編成のテストは毎年あるからね…君たちが真面目にテストを受ければ二年生で特別クラスに選ばれる事は間違いないだろう…ただし、最初から特別クラスだったよりも、かなり目立つことになるだろう。二年生でのクラス編成には内申も含まれるから、一年生の時の全体の成績も問われる筈だ。わざと目立たないようになんてしていたら、他の誰かが選ばれてしまうだろうからね」
「「そ、そんな」」
「君たちには、他と違う事情もあるから多少の嘘は仕方がない事もあるだろう。でもテストを真面目に受けなかったのは良くなかったね…。内申のことは抜きにしても日ごろから優秀な点数を取っていなければ、いきなりクラス編成のテストだけ頑張ったのでは周りは何かズルをしたのではないかと疑うだろう?名前と身分以外の事では極力、誤魔化しのないようにしないと後で、君たち自身がしんどくなってしまうし信用もされなくなってしまうよ?そんなの嫌だろう?」
「「はい、ごめんなさい」」
二人は素直に謝った。
自分達の大好きなティムン兄様が、自分達の事を本当に愛しんでくれていることを知っていたからだ。
「僕も辛いよ…でも君達だけを特別扱いする訳にはいかない。いくら君たちの事が可愛くても僕は教師としてこの学園にきたのだからね。学園内では僕は教師、君たちは生徒。甥っ子姪っ子でも、ましてや許嫁でもない。ジーンとリミアではなくジルとリミィとう生徒として扱う。今年一年、君たちが頑張って周りに認められた上で特別クラスに来ることを願っているよ」
そんなティムンの真剣で優しい言葉を二人は涙目で聞いていた。
「それにね!君たちが目立ちすぎないように姉さまは、月の石の力で君達の魔力のほとんどを封印している筈だしね…勉強やスポーツくらいは、抜きんでていてもいいんじゃないかな?」
そう言って、ティムンは二人の頭を撫でた。
今は学園の外であり二人の叔父であり、リミィの許嫁で或る。
「さぁ、これでお説教?は終わりだ。久しぶりに会えてうれしいよ。ここのカフェのケーキは美味しいだろう?寮の門限に間に会うように寮の手前まで送っていくから、安心して食べなさい」
「「う…うぇっ…うえぇえん、ほんとに、ごめんなさぁい~」」
そんな優しいティムンの言葉に二人は泣きながらケーキを食べたのだった。
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