46.新入生歓迎パーティの茶番劇8フィリアの気持ち
ダンが退出した後、学園長はリハルトやフィリア、ジルへ、向き返って言った。
「あなた方三人は、まだ三人だけで話をした方が良いでしょう。私は、会場にいる生徒たちに可能な限りですが説明をして場を収めて来ましょう」
学園長は、フィリアの傷が消えた経緯を何となく察してくれたのか、それには触れず三人を残し、皆のいる会場に戻った。
(すごいな、学園長、どうして魔物の傷が治ったのか聞きたいだろうに…月の石か聖魔導士の御力がなければ、どうにもならない事はわかっている筈…もしや母様、根回ししてくれてた?)そんな事をジルが考えていると、リハルトとフィリアが声をかけてきた。
「ジル君、せっかくの学園長のお心遣いだ。話を聞いてくれないか?」
「ジル、私からもお願いよ!」
「リハルト先輩、フィリア…ええ、いいですよ」
三人は置かれたソファーにかけなおす。
ジルとは反対側に、リハルトとフィリアが座っている。
まるで結婚の挨拶に来た二人と、それを阻む花嫁の父の図である。
「頼む、君とフィリアとの婚約はなかった事にしてはもらえないだろうか?僕は馬鹿だった。あんな愚かな弟に彼女を幸せに出来る筈もなかったのに!僕は誓う、もう惑わされたりはしないと!僕はフィリアに僕の気持ちを伝えた。そしてフィリアも受け入れてくれたんだ!」
そう言って二人は手を取り合ってジルの方を見る。
ジルは思った。
(何コレ、ほんとに、僕、フィリアのお父さんになった気分だよ)…と。
「リハルト先輩、既に僕は貴方の事は認めておりますよ。貴女は彼女を侮辱する者は神でも許さない…そう言った。貴方の真心は僕にも響きました。それもフィリアに魔の痕があると思っていたにも関わらずですからね…」
「ジル君それじゃあ」
「う~ん、どうしょうかなぁ?」
問題はリハルト様だけじゃ…とジルが思った時だった。
フィリアが真剣な面持ちでジルに懇願して来たのだ。
「ジル!お願いっ!私もリハルト様が好きなの!ずっとずっと好きだったの!私、気づいたのよ。相手の気持ちを確かめなかったのも自分の気持ちを伝えなかったのもリハルト様だけではないって!私だって同じ!私もこれからは、自分の気持ちをちゃんと伝えなきゃって!」
ジルは、満面の笑みを向けてフィリアを見た。
「ふふっ、うん。その言葉が聞きたかった」
「「えっ?」」
「リハルト先輩の気持ちだけしっかりしててもね?うん」
ジルは、満足そうに笑った。
そう、ジルは何もリハルトだけがすれ違いの原因だとは思っていなかった。
フィリア自身がそれに気づいてくれなければ同じようなすれ違いがこれからも起きるだろうと…。
大切なのはお互いの気持ちなのだから。
そんな事を考えるジルは、全くもって可愛いげのない七歳児である!
「ふむ、まぁ、しょうがないですね!フィリアが望むなら…残念ですが僕の婚約の申し入れは、取り下げるとしましょう!何はともあれフィリアの気持ちが最優先です!」
「っ!ありがとうっ!」リハルトが、ジルに心からお礼の言葉を発した。
そしてフィリアも涙ぐみながら、ジルの手を取って言った。
「ジル!ありがとう!」
フィリアが広間に戻りその事をリミィに告げるととても残念がったが、さすがに衆人環視の中、これだけ堂々とフィリアを庇って見せたのだ賛成するしかないではないか。
ましてや大好きなフィリア自身が望むなら仕方ない…と小さなため息をひとつついた。
そして、リミィは少しばかり不服そうに言った。
「しょうがないですわね?私としてはジルとくっついて私と姉妹になってほしかったのですけれど、まぁ、それがなくても私達の”親友”というかけがえのない関係は続くのですから我慢すると致しましょう」
「もちろんよ!リミィもジルも私の心から大切な親友よ!ジル!リミィ、本当にありがとう!」
「ジル君、本当にありがとう!君には本当に感謝している。約束しようフィリアの事を大事にすると!」
「ふふっ、宜しくお願いしますよ!フィリアを泣かせたら、僕たち双子が許しませんからね」とジルは、ウィンクしてみせた。




