43.新入生歓迎パーティの茶番劇05魔物の傷
「兄様!騙されては駄目です!その女は兄様の優しさに付け込んで、この僕に振られたからと言って兄上に縋ろうとしているのです!」
そんな訳の分からない事を叫ぶダンに、リハルトは頭を抱えフィリアは口元に手をあてきょとんとした。
誰が誰に振られたって???である。
リミィは怒りの表情になりジルは冷めた目で笑っていた。
「な、何なのあの騒がしい子は?」とレーティアが言うとジルは、それはそれは冷たい声で「うん、馬鹿ですね」と答えた。
「君の友人が何やらあの新入生の男子に責められているようだが?一体…」とサクア公子がリミィに尋ねると「事実無根の言いがかりですわね!あの方、きっと頭をどこかにぶつけたんですわ」と言い切った。
そして、リハルトは眉をひそめ弟を嗜めた。
「黙れ!ダン、こんな場所でお前は一体何を言っているのだ!フィリアは元々、わたしと婚約する筈だったのだ!それをお前がぶち壊したのだろう?」
「兄様、目を覚まして下さい!そいつは、僕に振られたからと言って、そっちの子爵家ごときの小僧と婚約したのですよ!」
「まぁあ!本当に?何て恥知らずなんでしょう!次々に婚約者を乗り換えるなんて!良家の子女とは、とても思えないっっ!リハルト様がお気の毒ですわ!」とドリッサが叫ぶと、リハルトファンの女子達が次々に騒ぎ出した。
「「リハルト様の?許せない!」」
「弟に振られたからって兄に?リハルト様の優しさに付け込むなんて!」
「「「なんて酷い!」」」
「魔物に襲われたって!?じゃあ、あの子も魔物じゃないの?」
「「「嫌だわ!怖い!」」」
「穢れた人間がこの由緒ある学園に入ってくるなんてっ!」
一部の行き過ぎたリハルトファンの女子達が騒ぎ始めると途端にその場は、キーキーキャーキャーと混乱の坩堝となった。
その一団から離れて傍観している者達の殆どは、この茶番劇を呆れてみていた。
どう見ても上級生で寮長でもあるリハルトが、新入生であどけない美少女に手玉に取られるようには見えない。
ジルは、その時、静かに弾圧されるフィリアと傍らにいるリハルトをただ見ていた。
そして思っていた。
(おお!馬鹿坊ちゃま!流石は真正の馬鹿だ!いい仕事するな!リハルトの真価が問われる舞台を整えてくれるなんて)と!
そして、まさしくその時リハルトが大声で叫んだ。
「うるさいっ!やめろっ!黙れっ!」
その声のあまりの大きさと迫力に周りの誰もが驚き黙った。
「良く知りもしないで勝手なことを言うなっ!フィリアは穢れてなどいないし、この傷だって魔物に襲われかけた弟を助けようとして出来た神聖なものだ!婚約だってフィリアが望んだものでは無い!私が弟の言葉を真に受けて婚約者の立場を譲ってしまったからだ!死ぬほど後悔している!彼女を貶める者は前に出ろ!それが例え神でも許さないっ!」
そう言い放った!
「に、兄様は魔物に誑かされているから、そんな事を言うんだ!」とダンがまた凝りもせずにそう言うと、とうとうリハルトはキレて弟につかみかかり張り倒した。
「ひっ」ダンは、ぶざまに転がり兄を恨みがましく睨んだ。
「ダン!お前には本当に呆れた!フィリアを振っただと?お前のあまりの愚かさに愛想をつかされ婚約破棄されただけだろうが!」と叫んだ。
「そ!そんな!そいつが醜い化け物なのは事実じゃないかっ!」
そう言うとダンは、フィリアに近寄り頬を隠していた髪を引っ張った。
「きゃっ!何するの?痛いっ!」とフィリアが小さく叫び、リハルトは直ぐにダンを引きはがし突き飛ばした。
「フィリア!大丈夫かっ!」リハルトはフィリアを労わるように抱き寄せた。
「「「「えっ?」」」」
美しい顔を隠すようにした髪が持ちあげられると、その下に現れたのは、傷一つない美しい素肌だった。
どれ程、禍々しい醜い傷痕が、現れるのかと思えば傷ひとつシミひとつない美の女神のごとき美しい肌がさらされて周りは驚いた。
まわりは息をのむように、静まり返った。
先ほどの騒ぎは何だったのか!?
フィリアの事を化け物扱いした発言に乗せられた何人かの女子が口元を押さえ恥入った。
「こ!これは一体!」ダンがフィリアにあった筈の傷痕が無くなっている事に狼狽えた。
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