40.新入生歓迎パーティの茶番劇03フィリアとリハルト
リハルトとフィリアは、久しぶりのダンスを心から楽しんでいた。
まさしく”二人の世界”である。
そしてダンスの最中、リハルトは囁くようにフィリアに聞いてきた。
「フィリア、ハンスは、詳しい事は君やあの双子達に聞くように言っていたけれど、出来れば僕は君の口から聞きたい…一体船の中で何があったんだい?あのジルという子と婚約っていうのも何だか話が飛び過ぎていて頭がついていかなくて…」
「ええ、それは…私自身も驚いてますの…まさか、ジルが婚約を申し込んでくるなんて」
「じゃあ、やっぱり本当の事なんだね?それで君はその申し出を受けた…と」
「…はい」
「そうか…」リハルトは辛そうな表情を見せたが、思いなおしたようにフィリアを見つめ直した。
「フィリア、僕は愚かだった。幼い頃からの君への想いは誰にも負けはしない。例えあのジルという子にだってだ!」
「リハルト様!」フィリアは感動し、その瞳はうるみリハルトを見つめた。
その可愛さたるやリハルトを奮起させるに足るものだった。
「僕は、諦めないよ!君が弟を想っていると言うのが誤解だったのなら遠慮などしない!君にたとえ別の婚約者がいようとも、まだ結婚した訳じゃ無いんだ!そうさ!必ず僕はジル君を納得させて君を奪い返してみせる!」
その言葉にフィリアははっとしてリハルトの目を見た。
その眼差しはどこまでも真剣で澄んでいた。
「リハルト様…嬉しい」それは、フィリアの心から出た言葉だった。
フィリアは踊りながらも優雅にリハルトに身をよせリハルトはまるでそれがダンスの振り付けのごとく優雅に抱きとめる。
流れるように踊り続けながらも二人は事の次第を囁き合っていた。
「嬉しい?本当に?」
「ええ、だって、ジルとの婚約は単にダンとの婚約を破棄するために必要だとジルとフィリアが思いついた作戦だったんですもの」
「作戦?ダンとの婚約破棄のため?」
「ええ、リハルト様もダンが私に言った言葉を聞かれたでしょう?」
「ああ、僕が迎えの馬車から降り立つ時に、ダンはあろう事かこの僕が君を捨てたかの言い様だった」
「それだけでは、ありませんわ」
「あのリミィという子が言っていた”化け物”とか”傷物”とかかい?本当に我が弟ながら信じられない、頬の傷なんて…君自身は何も変わってないと言うのに」
「いいえ、変わりましたわ…」
「え?」
「私は自分が醜くなったとすっかり自信を無くして、リハルト様の婚約者でいるには相応しくないと思っていましたから…」
「それで、僕ではなく弟と婚約を?」
「ええ、ですからダンにも申し訳ない気持ちでいっぱいで…それで何を言われてもされても仕方がないと諦めていたのですわ」
「何を言われてもされてもって…他には一体どんな事が…」
「つらつらと毎日のように私のような醜い傷物を押し付けられた不幸を語られ、婚約者だと他のものに告げるのも口止めされましたわ。人前では隠れていろと言われた事もありましたし、私自身そう言われるのも当然だと卑屈になっていました。」
「なんという事だ!本当にすまなかった!」
リハルトは、自分が身を引いたりしたせいでと後悔に表情を曇らせ心の底からフィリアに謝った。
「いいえ、でも船の上でジルやリミィと知り合って、彼らは私に昔の私を取り戻させてくれましたの!」
「なんと、そうだったのか!」
「ええ、二人は今のままでも私が美しいと!大好きだと言ってくれましたわ」
「当然だ!君は誰よりも美しくて気高い!本当なら僕が言うべきだった台詞だ!僕だって心からそう思っている!頬の傷なんて関係ない!君は素敵だ!こんなに息ぴったりで楽しくダンスの踊れる相手など世界中探しても君しかいない!」
「リハルト様!本当に?」
「当たり前だ!君がダンを好きだなんて馬鹿な思い違いをしなければ、婚約式にはもちろん僕がでていたとも!」
「リハルト様!」
「フィリア!」
盛り上がりまくりの二人に、側で踊っているジルやリミィの目が生暖かい事に二人は全く気づいていない。
それくらい”二人の世界”だった。
リミィはその二人の様子に口元を”への字”にゆがませたが、ジルは違った。
どうやらリハルトは自分からフィリアを奪い返すつもりのようだと悟るとジルはにやりと片方の口角をあげたのだった。
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