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フィリアの婚約破棄-13 リハルトの怒りジルの怒り

 リハルトは怒りと困惑で、冷静でいるのがかなり困難だった。


 馬車の中には、ふてくされた愚かな弟と、そんな弟を無視して双子達と楽しそうに話をしているフィリア。


 それでも何とかリハルトはフィリア達に声をかけた。


「先ほどは、取り乱してすまなかったね?君たちはパリュム家の双子だね?七歳での早期入学おめでとう。素晴らしいね」


「「ありがとうございます」」


 そう言って二人は笑顔で答えた。

 良く見るとこの双子はフィリアにも負けないくらいに綺麗な子供たちだった。

 出会いがしらの弟の暴言に頭に血が上って気が付かなかったが…。


「その…それで、さっきの弟の暴言や婚約破棄っていうのは…ハンスは、フィリアと君たちに聞くように言っていたけれど…」


「兄様、そんな奴らに聞かなくても僕に聞けばいいだろう!」


「お前は自分に都合の良い事しか言わないだろう?」


 ダンのイラついたような言葉に対し、叱るようにリハルトが答えると、ダンは言葉に詰まったように真っ赤になり、プイッとそっぽを向いた。


「「おお~」」ジルとリミィがパチパチと手を叩いた。


「良く分かってらっしゃるじゃないですか」ジルが言った。

「ほんと、ですのに何で弟が自分に都合よく言った言葉を聞いてほいほい婚約を譲ったりしたのです?」とリミィが言った。


「え?」


「二人ともやめて…リハルト様は悪くないわ…別にリハルト様が私の事を好きではなかったとしてもそれは仕方のない事ですもの」


「ああ、そうだよね。家同士が決めた婚約でリハルト様は仕方なくフィリアと婚約してたんですよね?」とジルが言った。


「な!何を言ってるんだ。僕は仕方なくなど!」リハルトはとっさにそう言ったがジルはその言葉にふっと冷笑した。


「でも、あっさり婚約を弟に譲ったよね」


「そうよね」


 ジルの言葉にリミィも頷く。


「嫌いではなかったにしろ、弟にせがまれればいつでも婚約者の立場など譲れる程度だった…という事ですよね?」


「ち、ちがう!僕はフィリアがダンを好きだと思ったから…」


「えええっ?」フィリアが、驚きの声をあげた。


「え?ち、ちがうのか?」


「まさか!一体どうして、そんな話に…」フィリアが困惑するようにそう言うとリハルトも困惑した。


「だってダンが!…っ!ダン!おまえっ!」リハルトは、ダンを振り返った。


「なっ!何だよ!僕は嘘なんて言ってないぞ!フィリア!お前だって僕と話すほうが気が楽だと言ったじゃないか!」


「そ、それは、ダンはただの幼馴染だもの!リハルト様は…その…未来の旦那様だと思っていたから…緊張しちゃって…」


「何だって!僕はてっきり!だって君はいつも僕と話すときはうつむいて目をそらしていたし、ダンと一緒の方がいつも楽しそうで…」


「てっきり?何だっていうんですか?はっきり確かめもせずに弟に譲ったって言うんですか?」ジルが冷たい声でそう言い放った。


「そ…それは、その方が彼女が幸せだと…」


「そんなっ」フィリアが傷ついたような顔でリハルトを見た。


「身をひいたっていうんですね?つまり、リハルト様はフィリアを諦めたんですよね」


「そ…そうだ!でも、僕はフィリアが好きだった!今でもだ!フィリアさえ、許してくれるならもう一度…」


「駄目だよ!」ジルがリハルトの言葉を遮った。


「な!」


「駄目だよ!許さない!そんな虫のいい話!ろくにフィリアの気持ちも確かめもせずに勝手に悲劇の主人公になって諦めてしまうようなリハルト様にはフィリアは返してあげない。フィリアが許しても、この僕が許さない」


 ジルが、七歳とは思えない迫力でリハルトを見据えてそう言った。

 はたで聞いていたリミィは両手を組み、ぱあぁっと顔を輝かせ成り行きを見守る。


 フィリアは、思ってもいなかったリハルトの告白に心がゆれて狼狽えていた。


「ジ、ジル?あの…」


「フィリアも、駄目だよ?簡単に許しては!それに君はもう僕の婚約者でしょう?」とジルがにっこりとほほ笑んだ。(目は笑っていない)


 そして、リミィも、うんうんと頷き思った。


 リハルト様ってば、さっき、ダンは自分の都合のいい事しか言わないって言ってた癖にそれは信じたんだ?

 恋は盲目って言うけど、好きすぎて、ちょっとお馬鹿になっちゃったのかしら?


 でも、そんなお馬鹿さんに、私達の大切なフィリアは渡せませんわね?

 ジル、ファイトですわ!…と!

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