フィリアの婚約破棄-09 船旅最後の夜に、
二人は慌てて隣の部屋に行き、”月の石”ごしに母ルミアーナに話しかけた。
「「母様っっ!」」
『あらあら、大きな声だしたら、フィリアちゃんに聞こえちゃうわよ?』
誰もいないその部屋に小さな立体映像となって母ルミアーナは美しい姿を現わした。
念入りに髪や瞳の色まで今のジルやリミィに合わせて茶色に変えている。
ジルは、それをフィリアの前でも姿を現わす気満々だったと見てとらえた。
「何を言ってんるんですか!昨日、僕、言いましたよね?船旅、最後の夜は三人で過ごすから、その時間は通信してこないでくださいねって!」
「ジルの言う通りですわ!お母様!何かありましたの?」
『いや、昨日の話だと随分と、そちらは面白い事になっている様だし気になっちゃって!』
「「はぁ~?」」
「お、お母様?何、言っちゃってるんですか?」
『あなた達から聞いた話からだとフィリアちゃんになら、内緒にしてくれそうだし、顔見せてもいいかな~?と思って』
「「えええっ!何言ってるんですか!」」
三度目の『何言ってる?』発言である!
『だって、そもそも、魔物に襲われた件だって、大人たちが出てきた時点で魔物は一旦、そのダンとやらから離れたのでしょう?つまりダンとやらには、たいして執着もなかったのでしょう。それなのにフィリアちゃんが結界から出てしまった途端に戻ってきてフィリアちゃんを狙った!周りにいる人間をものともせずに戻ってきた訳よね?これって危険をおかしてでも欲しいと思えるほどに、そのフィリアちゃんの魂が極上だった!っていう事なのよね~!」
「「お、ぉおぅ!さすがフィリア!」」と双子達は感心した。
自分達の最初の友達を褒められつい嬉しくなる二人だったが、だからこそ尚の事、フィリアの事は、そっとしておいてほしいと思う双子達である。
「っ!そ、そんな事言って、僕たちが”月の石の主”の子供ってばれたら元も子もなくなるじゃないですか!」
「そうですよ!私達の初めての友達が!」
『あら、あなた達の初めてのお友達だからこそ母様の事、紹介してほしかったんだけど~パリュム子爵夫人としてでも駄目?』
「ああ、それなら」と、リミィが言いかけたが、それをジルが、手で制して止めた。
そして母ルミアーナの立体映像に向き直り、人差し指をさしながら言いきった。
「絶っっ対ダメですっ!」
『え~?意地悪ねぇ』
「意地悪違うしっ!!そんな事して本物のパリュム子爵夫人がうっかり出て来たらどうするんですか?パリュム家の次男が確か、高等部にいるんですよね?もしかしたら何かの行事の時に来ちゃうかもしれないでしょう?話を合わせてもらうにしても色々、無理が出ます!」
『あ~、ううう、そうかぁ~。でも、見たかったのになぁ…フィリアちゃん。しょうがないなぁ、あとでリンやシンから画像だけでも送ってもらうかぁ…』
そう言いながらも、母ルミアーナのジルを見る眼差しは、何やら探るようでもあった。
(ふぅん…やっぱり七歳児の状況判断能力じゃない。以前のジルとは変わってるわね…)
そんな事を思っていた。
とぼけた振りはしても、そこは二人の母親でしかも”月の石の主”である。
以前、フィリアと二人攫われかけた事件の後からのジルの変わりように気づいていたので様子をうかがっていたのである。
ラフィリルにいる間はそれなりに猫をかぶって七歳時らしくしていたが、ラフィリルから出てそろそろ一ヶ月近い。
地が出てきた頃だろうと踏んでいた。
まぁ、、魂の色合いや、小さい頃の話をふってもよどみのないところを見れば本人には違いない。
以前より頼もしい様子だしリミィの事も全身全霊で守ろうとしているのは伝わるのでルミアーナは、それを良しとして、追及するのはやめた。
ジルがこの世界を創りし魔法使いの生まれ変わりであることは知っていたので、ある程度、察しはついていたのである。
そして、超絶面白い事になっていそうな初めてのお友達フィリアの為に一肌脱いでやろうと思いついたのである。
『まぁまぁ、ジルの言い分は、わかったわ。ふふふ、そちらの事情も昨日聞いた話やリンやシンからの話で理解しています。ダンとやらは少々懲りた方が良いと思うけれど、問題はリハルトとやらの気持ちよねぇ?母様も全面的に協力を惜しまなくってよ?』とウィンクした。
「え?あ、ホントですか?」ジルが途端に喰いついた。
『ええ、もちろん』
「そ、それは助かります。では、昨日お願いしたことも?」
『ええ、勿論、大丈夫!パリュム家はこの私がジャニカ特産の米や醤油、もろもろの食材を求めてラフィリルに流通させた事で繁栄を極めた訳だから私の言う事なら大抵の事には首を横には振らないわよ!既にパリュム家の方には、ホーミット家やポーネット家が何か言ってきても適当に話を合わせておくように手配済みよ!高等科にいるパリュム家の次男にも、最初から兄として振る舞うよう念入りに言ってあるし』
「そっ!それは助かります!」
「お母様が協力してくれるなら完璧ねっ!」
『うふふ、その代わり、また何かあったら報告すること!それじゃ、フィリアちゃんとの出会いはまた別の機会に期待しましょうか。フィリアちゃんが、きっと隣の部屋でやきもきしてるでしょうからね』
「「はっ!はいっ!」」
『じゃあ、まったね~?うふふ』
言うだけ言うと母ルミアーナは通信を切った。
女神な母は限りなくマイペースなのだった。
とはいえ、あの母の後押しがあれば、色々と心強いのは確かである。
(暴走しなければ…だが)
取りあえず、ほっとした二人は慌ててフィリアの待つ隣の部屋にかけ戻った。




