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フィリアの婚約破棄-06 リハルトの想い

 もうすぐ弟のダンとその婚約者のフィリアがこのタイターナ公国の学園、ライリー学園にやってくる。

 フィリアは元々は僕の婚約者になるはずだった。


 婚約の儀式の前に弟にその座を譲ってしまったが…。

 それを望んだ訳では、決してなかったけれど。


 綺麗で…可愛いフィリア。

 いつ頃からだったろう。

 彼女が僕の目を見て話さなくなったのは…。


 小さな頃から『ルト兄様、ルト兄様』と言いながら僕の後を追ってきてはだきついてきた。

『ルト兄様、大好き!』と満面の笑みで駆け寄ってきてくれていたあの子はもういない。


 そう…あれは…僕が学園に通う出してから四度目の夏だった。

 僕はいつものように長い夏休みに帰省してフィリアに会いに行った時だった。


 いつものようにフィリアは飛びついて来なくなっただけではなく、呼び方も「ルト兄様」から「リハルト様」に変わっていた。


「フィリア?どうしたんだい?いつもみたいに飛びついて来てはくれないの?何か怒ってる?」


 何か怒らせただろうかと思ったが、心当たりもなく素直に聞いてみたが、そうではないという。


「ま、まぁ、リハルト様、私ももう大きくなりましたもの!来年の春には兄様のいらっしゃる学園の初等部に行きますのよ?そ、そんな小さい子のような振る舞いは卒業いたしましたわ!」と、顔を真っ赤にさせながら言う彼女の声はうわずっていた。


 それからも彼女は目をあわせようともしない。

 よく、わからないが、もう抱きついてはくれないらしいし、ルト兄様とも呼んでもらえないらしい。

 正直、とても寂しく思った。


 何よりショックだったのは、弟のダンとは変わらず普通に談笑していた事だった。

 名前もお互い呼び捨てにしている。


 そんな事を執事のハンスにこぼしたら笑いながら「同い年だからですよ!リハルト坊ちゃまは、フィリアお嬢様より四っつも歳上でいらっしゃいますから様づけで呼ぶようにお家で言われたのでしょう」と笑われた。


 正直、この時は同い年の弟が羨ましく思えたものだ。

 しかし、その後も明らかに自分と目を合わせないフィリアの様子に自分は嫌われているのでは?と思うようになった。


 そんなある日、弟のダンに言われたのだ。

「兄様、僕はフィリアの事が大好きなんだ!フィリアだって僕と喋る方が楽しいって言ってる!僕の方が好きなんだよ!ねぇ、フィリアとの婚約、僕と代わってよ!」


「!」

 嫌な予感は当たると言うのは真にこんな事を言うのかと頭の中で思った。

 ダンがフィリアを好きなのは当たり前だろう。

 あんなに綺麗で可愛くて無垢な愛らしい彼女を傍で見ていて好きにならないなんて選択肢がある筈もないのだから…。


 だけど、フィリアもダンが好き?

 いや…しかし、確かにフィリアもダンといる時はくつろいだような笑顔で話している。


 自分といる時のようにうつむき加減になったり、会話が続かず気まずい空気が流れる事もなさそうだった。

 そういう事なのか?

 一体、自分は何のヘマをやらかして彼女に嫌われたのか?

 学園に入ってからも長期の休みごとには帰省し必ず顔をみせた。


 まだお互い子供だったが、僕は最初、自分が十歳の時に出会った六歳の彼女に恋をした。

 初恋だった。

 彼女こそ自分の理想の女の子だと思った。

 この子を将来幸せにするのは自分なのだと学園に入ってからも一生懸命勉学に励んだ。


 何が悪かったのだ?

 今も尚、自分に問い続ける。

 いっそダンの言葉もダンの独りよがりであればいいのにと思ったものである。


 だが、彼女の気持ちはどうなのか?

 僕がどんなに望んでいたとしても彼女が望むのが自分でないのであれば…僕は…。


 嫌だ!嫌だ!嫌だ!

 彼女を諦めるなんて!

 どうか、言ってくれダンなど好きではないと!

 そんな勝手なことを考えながらも僕は彼女に聞いた。


 否定してくれと願いながら…。


「フィリア、僕と婚約して本当にいいのかい?フィリアは僕より弟のダンといるときのほうが、幸せそうだ」


「え?そんな事…」

 彼女は、そんな事は()()とは言いきらなかった。

 それは、僕の中の疑惑を確定にした。

 やはりダンの言った事は本当だったのかと…。

 フィリアはダンが好きだったのだと思い知らされた。


「フィリアが僕といて、いつもつまらなそうなのは気づいていたよ…弟のダンとは、いつも楽しそうに話しているのに…。フィリアが望むなら弟のダンと婚約を代わってもいいんだよ。ダンは君のことが好きみたいだし」

 そう言って僕は、なけなしの見栄をはって、()()()()()のだ。


 気づかれてはいけない。

 僕が彼女を幸せに出来ないからと言って彼女の幸せを僕が奪う訳にはいかない!

 そう思った。


 それでも婚約をダンと交代するとは中々言いだせなかった。

 我ながら女々しかったが、あのまま婚約してしまって心を尽くせばフィリアがダンより自分を好きになってくれるのではと思いもした。


 しかし、婚約式の前日、再度、弟に強く言われとうとう観念したのだ。

 婚約式の直前、僕は、フィリアに婚約者を弟とかわる提案をした。

 断ってほしいと願いながら…。





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