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フィリアの婚約破棄-05 伝書海鳥

 そんな時、船上にいるホーミット家の執事ハンスの元に二羽の伝書海鳥が届いた。


 伝書海鳥とは、その名のごとく伝書を運ぶ海鳥である。

 足首に手紙を付けて目的の相手まで届けるのである。


「両伯爵家からの返事か…」


 フィリアお嬢様が、ダン坊っちゃんに婚約破棄を申し出たその日に、私は、船に常備配置されている伝書海鳥を使い、ホーミット伯爵とポーネット伯爵へ文を送ったのだ。


 それは、純粋に小さな頃から知っているフィリアお嬢様の幸せを心から願っての事である。

 決して馬鹿坊ちゃまの事を告げ口したい!とか、そう言う事では決してないのである。こほんけほん。むむむ。


 私は、甲板から手を伸ばし、伝書海鳥達を招きよせた。

 そして海鳥の足に取りつけられ託されたメッセージを受け取る。


 片方の海鳥は普通の手紙で、それはホーミット家からの手紙だった。

 私は正直にここまでに至った理由を明確に手紙で記して送ったので、ダン坊ちゃまもフィリアお嬢様も婚約を喜んでいると思っていた旦那様や奥様は、それはそれは驚き落胆した事だろう。


 返事の手紙には、フィリアお嬢様を婚約破棄にまで追い詰めたであろうダン坊ちゃまの無神経な態度や言葉への怒りが書き連ねてあり、代わりにこっぴどく叱ってやってくれと言う内容だった。

 あとは、フィリアお嬢様への謝罪と労りの言葉が切々と綴られ、婚約破棄についてはフィリアが本当にそれを望むなら残念だが仕方がないという内容だった。


 そしてもう片方の海鳥の足首には、なんと手紙ではなく()()()()()()が結わえられていた。


 ”蓄音交魔石(ちくおんこうませき)”である。

 ジャニカ皇国ではこの石を電話のように使う。

 と、言っても電話のように何時でもどこでもという訳にはいかない。


 まず、対の石同士でないと会話が成り立たない。また、サイズにもよるが海鳥が運んできたサイズの五ミリほどの石では話せても五分から十分がいいところである。

(ちなみに”月の石”はいつでもどこでも長時間連絡オッケーの万能なる優れモノである!)


 こんな小さな石であっても高額で、例えこの石一つでも庶民には一生かかっても買えない代物である。


『手紙ではなく、まさか蓄音交魔石”を送ってくるなんて、大奮発ですね?』


 ハンスは、石に自分の魔力を込めながら心の中でそう呟くと石から、ジャニカ皇国の屋敷にいるポーネット伯爵の声がした。


『おお!やっと届いたか!待ちかねたぞ!手紙などでは時間がかかって、しょうがないわ!時に、パリュム家の子息とうちのフィリアが仲良くなって、しかも婚約を申し込まれたとかいうのは本当かっっ?』


『はい、本当ですよ。時間がもったいないので手早く言いますが、当方の坊ちゃまより、よほど将来有望な少年ですよ!ジル・パリュム様は!色々、観察してきましたが、人間性、頭脳、容姿、どれをとっても、うちの馬鹿坊ちゃまは叶いませんね。お月様と石ころの差くらいあります。あ、お月様は、むろん、ジル様のほうですがね。私としましてはフィリアお嬢様の幸せを考えたらジル・パリュム子爵令息をお勧めしますね!』


『おまえ、自分のとこの(ぼん)に容赦ないな!しかし普段は髪で隠しているとはいえ、娘のあの顔の傷では…』


『それも問題ないようです。うちの”馬鹿坊ちゃん”が出会ったその日にお嬢様の傷の事をばらしても、欠片も動じていらっしゃいませんでしたし!逆にお嬢様を馬鹿にしたようなダン坊っちゃまの物言いに静かに怒っていらしたようですし』


『なにっ?本当かっ!あんのクソガキっ!だから俺は弟の方なんかとの婚約は反対だったんだ!っ!いや…まぁその、何だ、しかしジルという少年なかなかの奴だな。パリュム家についても、こちらでも調べたが噂以上の繁栄ぶりの家だ!うちとしても、無論、娘自身が望むのなら反対する理由もないが!』


『では、とにかく、一旦、フィリアお嬢様のご希望通りダン坊ちゃまとの婚約は破棄と言う事で宜しいですね?』


『問題ない!どっちにしても自分を庇った為にできた娘の顔の傷を馬鹿にするような愚か者に娘はやれん!ホーミットの方にはわたしから話を通しておく!』


『かしこまりました!我が屋のお坊ちゃまが申し訳ございません』


『いや、本当のところを話してくれて、お前には感謝している!ありが…』とポーネット伯爵が感謝の言葉を伝えようとしたところで、”蓄音交魔石”の力が切れた。

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