フィリアの婚約破棄-04 ハンスの驚き
ホーミット家に執事として仕えだして三十年…私、ハンス・クレーゼンは、よもや自分の仕える家の子供に愛想をつかす日が来ようとは夢にも思っていなかった。
ダン坊っちゃんが、これほどまでに愚かだったとは…。
あの思慮深いリハルト様の弟とは思えないほどである。
フィリアお嬢様の素晴らしさを表面的な事でしかとらえられないとは、本当に情けない!
中身がお粗末な、『馬鹿坊っちゃま』には理解できなかったようだ。
それに引きかえ!あのジル・パリュムは素晴らしい!
ジャニカ皇国の港を出発してからあっという間に二十日ほどが過ぎた頃である。
ジル・パリュムを観察し始めて早や一週間、唯々、私は感心しきりであった。
双子の弟…フィリア様より三つも年下の七歳…という事ではあるが、どう見ても三人の中で一番、しっかりとしている。
まるで大人のようだ!
常に自分の姉とフィリア様に気遣い、安全に配慮し二人をまるで見守るような所作、言動!
見た目こそ子供ではあるが、彼は立派な紳士だった。
しかも見た目までもが美しく可愛らしいのである。
さっきも、マストのところに止まっている海鳥の鳴き声が面白いとフィリアお嬢様がいうと、その生態や習性に至るまで、どこの生物学者かと思うような説明をしだした。
その話はとても興味深く、観察中の自分までがその内容に興味をひかれ引きずり込まれたほどである。
彼の知識はそれだけではない。
これから行くタイターナの歴史や建物の名前、フィリア様やリミィ様が聞くこと全てに淀みなく答えるのである。
まるで新入生を案内する熟練教師のようである。
さすが早期入学者というべきなのか…しかし、彼にはもはや学園で習わねばならぬ事など無いのではないだろうかと疑うほどである。
察するに、ご両親はきっと学園では知識よりも友情とかそういう人とのかかわりを学ばせたいとでも思っての事だろう。
そうに違いない!
姉のリミィ様も早期入学なのだから相当優秀なのだろうが、彼女の方は普通に優秀なご令嬢という感じだった。
ただ、その美しさ可愛らしさは『ジャニカの黒曜石』と言われたフィリア様と並んでも全く遜色ない。
とにもかくにも驚きの双子である。




