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フィリアの婚約破棄-03 穏やかな午後

 双子達にとって、船の上で初めて出来た友人フィリアと共に過ごす時間は、楽しくてあっという間に感じられた。

 なかなか、フィリアから婚約破棄を言いだすきっかけがみつからないままにタイターナ公国にもあと数日で着こうかというある穏やかな日の事。


「ジルって本当に凄いのね」


 フィリアが、ため息をつきながらそう言った。

 さっき、フィリアが海鳥の鳴き声が鳥なのに猫みたいな鳴き声でおかしいわよね!というと、ジルはよく気が付いたねと言わんばかりに説明しだしたのだ。


「そう!港に良くいるカモーメとはまた違うこの鳥、その鳴き声から海猫と呼ぶ国もあるんだよ!沿岸部や河口に巣を作って生息してるんだ!繁殖期には、無人島や崖の上とか、天敵の少ないところに集合住宅地みたいに密集した巣を作って一日に二~三個も卵を産むんだよ」


「へぇ~、でも猫みたいと言っても本当の猫より潰れたようなダミ声よね?あの海鳥だけ特別なのかしら?一体何を食べたらあんな声がでるのかしら?」


「基本的には雑食だから、何でも食べるよ!虫や魚、動物の死骸とかも食べるし」


「「え~っ!死骸?」」フィリアとリミィは眉根をよせて嫌そうな顔をした。


「おっと、ごめんごめん!雑食だから、パン屑とかお菓子も食べるよ。ほら、今朝のパン持ってきたから細かくちぎって投げてごらん」


 そう言って、ジルは持ってきたパンを二人に渡した。

 早速、パンを細かくちぎって海に向かって投げると海鳥は「ふみゃーっ!」と鳴きながらもの凄い勢いで滑空してパン屑をキャッチしていく。

 最初は一羽だったのに、どこからかわらわらと寄ってきた海鳥が五羽を越えた時、パンは無くなった。


「「あ~あ、無くなっちゃった!」」


「ジル!もう無いの?」


「もう無いよ。これ以上海鳥が増えて、鳥たちが争いだしたら危ないから、もう終わり!はい、終了~!」


「「え~っっ!」」


「ふふっ、まぁまぁ、僕たちもお茶にしようよ!」


 そう言いながらジルはフィリアとリミィをティータイムに誘い、話題を切り替えた。


「うん、この船で出される紅茶は美味しいね!お菓子も中々だし!」


「本当よね。不思議!」とリミィがカップの中の紅茶を見ながらそう呟いた。


「ん?何が不思議なんだい?」


「あのね、花瓶のお水って替えないとすぐに腐って変な匂いがするじゃない?でも船の水って大きな貯水樽に入れて運んでるのよね?何で一か月近くも船の中にある水が腐らないのかなって…」


「ふふふ、それはね~。水も生き物だからだよ」


「「ええええっ!?」」


「リミィもフィリアも息をしないとどうなる?」


「そりゃあ、苦しくなるわよ!」

「死んじゃうわ!」


「そうだよね!船の中の水は常に大きく揺れ動いているからね。僕たちが息をするように空気を取り入れる事ができるんだよ」


「「空気?」」


「そう、”酸素”という見えないものを人間もだけど取り込む事によって水も腐らずに生きている状態なんだよ。だから船底の水は腐らずに一か月もの間、僕たちを潤してくれる!まぁ、途中で降った雨水とかも貯めてろ過したりしてたみたいだけどね?」


「そうなんだ。魔法とかじゃないのね?」


「すごいっ!すごいっ!目に見えないものの事までジルってば本当に物知りね!先生みたいっ!教えるのもとっても上手よね!」とフィリアが感激したように言う。


「そ、そんなこと無いよ…僕は本がすきだったから…」

 しまった!ちょっと余計な事言い過ぎたかな?と思うジルにリミィも不思議そうに声をかけた。


「うん、ジルってば少し前から、人が変わったみたいに沢山しゃべるようになったよね?私としては嬉しいけど!」


 ぎくっ!とするジルだった。

 よもや前世の記憶がよみがえったとは、分かるまいがこれはちょっとまずいか???と思うジルだったが…。


「あら、前のジルはどんなだったの?」


「ん~とね、大人しくて、ちょっと人見知りな感じ?私や母様父様以外とは、あんまりおしゃべりもしなかったもん」


「まぁ、でも、それだと私達こんなに仲良くなれなかったかもしれないわ!明るくなってよかったわね!」


「ん!まぁ、そうよね!姉としてもジルが明るくなったのは嬉しいわ!良かった良かった!」とリミィがいかにも自分が姉だと言わんばかりにうんうんと頷きながらそう言った。


 あ~、はいはい、さようでございますか。

 そうだよね、誰もまさか前世の記憶が…なんて話、思いつきもしないよね~…と、胸をなでおろすジルだった。

 そして、その後はお茶をしながら、これから行くタイターナ公国での過ごし方や、生きたい名所の話などで盛り上がった訳だが、反面、そうか…そう言えば、前世の記憶が蘇る前の僕は割と無口だったかもしれない…と地味に思ったのだった。



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