ジルの計画
ジルとリミィは自分達の船室に、フィリアを招き入れ、三人で丸テーブルを囲みながら楽しそうに話し合っていた。
ジルは紙にこれまでの流れを書きだす。
人物を相関図にまとめつつ矢印でつなぎ、分かりやすく書き込む。
1.現在、フィリアはダンと婚約している。
2.しかし本当に好きなのはダンの兄で元々の婚約者リハルトである。
3.魔物に傷を負わされる前に、リハルトにダンと一緒になる方がいいのではないかと提案された。
4.フィリアはリハルトが好きだったが、リハルトは自分を望んではいないと感じて答える事が出来なかった。
5.二人のそんなやり取りをよりにもよって魔物の出没する森から覗いていたダンが魔物に襲われかけて、助けようとしたフィリアが顔に傷を負った。
6.魔物に襲われ顔に傷を負った事でフィリアは自分がリハルトには相応しくないと思い、身を引いたが家同士の婚約は変わらず、フィリアが傷を負った原因を作ったダンが責任を取る形でダンとの婚約が整った。
7.ダンは兄のリハルトにフィリアが好きだと伝えた筈だが、いざ、婚約したら顔に傷跡のある婚約者を恥じて疎んでいる。
8.そして兄のリハルトは、既に僕たちがこれから入学する学園の高等部に在籍している。
「と、まぁ、こんな感じであってる?フィリア」
「え、ええ。そうね」
「まず、フィリアは、その傷が治ったことはまだ伏せておいて。今までの髪型で片頬は隠すようにしてね」
「ええ、わかったわ。でも、何で?」
「とりあえず、傷があるまんまでフィリアから婚約破棄を言いだしてみてよ。ダンが憎まれ口を聞きながらもフィリアの事が本当に好きなら応じないと思うんだよね」
「「なるほど」」
「ジル、あったまいい~!」リミィはわくわくと興奮気味でくいつく。
「ほ、ほんとね!とても年下と思えないくらい…」フィリアも感心しまくりである。
「はは、ありがとう」
ジルは、まぁ、前世十六年分の記憶もあるしね…と心の中で呟く。
「でも、私が婚約破棄を言いだしても家同士は許さないとおもうんだけど…」
「ん~、まぁ、でもダンもフィリアも両方が言いだせば親も考えるんじゃない?やっぱり親たちだって不幸な結婚をさせたい訳じゃないだろうしね」
「でも、それじゃあ、リハルト様がまた責任を取る為だけに自分が婚約すると言いそう…私の事が好きな筈も無いのに…」
「ん~、それこそダンとの婚約を破棄してから傷痕が消えたことを伝えれば?」
「それこそ今度はまたリハルト様の気持ちも無視して親たちが再婚約をさせようとしそうよ。親同士は学生時代からの親友でお互い男女の子供が出来たら一緒にさせようって言っていたんだもの」
「あっ!じゃあ、ねぇ、ジルがフィリアの新たな婚約者に名乗りをあげるって言うのは?」
「リミィ!天才?いいね!それ!名案だ」
「なっ!何が~っ!そ、そそ、そんなあり得ないでしょう~?」フィリアが、焦って大きな声をあげた。
「「なんで?」」
「だ、だ、だ、だって、私の方が年上だし…それにジルだったら選び放題…」
「あははっ、フィリア、そんな焦らなくても大丈夫だよ。本当の婚約じゃないし」
「えっ!?あ、あ、ああ、そっ、そうよねっ!ああ、びっくりした」
「要は、ホーミット兄弟達には自分達以外からでもフィリアの婚約者候補はあり得るって思わせればいいんだよ!」
「なるほどっ!」とリミィが納得する。
「な!なにが、なるほどなの?」何故年下のリミィやジルに分かって自分にわからないのか?自分が馬鹿なのかと不安になるフィリアである。
「やきもち焼かせるのね?」リミィはにまにまとしながら楽しそうにしている。
「ん~、まぁ、そんな感じ?とにかく自分達以外にもフィリアを慕うものはいて、フィリアにだって選ぶ権利があるって事を悟らせるんだよ。それこそ自分が結婚してあげないとなんて、自己犠牲的な発想はなくさせたいんでしょう?」
「はっ!そうよ!そうなのっ!同情で婚約してもらうなんて絶対嫌だったの!すごいわ!ジル、何でわかるの?」
ジルは、ただ、にっこりとほほ笑んだ。
そうして三人は夜通し相談し、翌日から作戦を開始したのだった。




