三人だけの秘密
「怖がらないで!大丈夫だからっ!ほんとに傷痕なんか、なくなってるからっっ!」
リミィがフィリアにそう言いながら鏡をフィリアの目の前に差し出す。
「そ、そんな訳ないじゃない!」
フィリアは、そう言いながらもリミィの声があまりにも真剣なので、つい信じたい気持ちに傾いた。
そんな事…そんな夢みたいな事…。
でも、本当だったら…どんなに嬉しいか…。
フィリア恐る恐る瞳を開いた。
そして見えたのは傷ひとつない美しい顔だった。
以前と同じ…いや!むしろ以前より肌艶までもが良くなっている。
補足すると最近、気になっていた肌のかさつきまで治ってつやつやのピッカピカなのである。
「え?えええええええっ!」
「「ねっ!」」
「こっ!これは一体!」
「「月の石だよ」」
二人は腕輪に嵌めこまれた小さいけれど綺麗な乳白色の石を見せた。
「えっ!そんな、まさか!でもっ、そうよね。魔物の傷痕は”聖魔導士様の魔法”でしか治らないというもの!伝説の”月の石”ででもない限り、説明がつかないわよね?」といいながら髪をかき上げ自分の頬や耳元を触る。
爛れていた部分も以前のように(以前以上に)すべらかだ。
フィリアは、感極まって泣き出した。
「う、う~」
「「えっ?なんでっっ!」」ジルとリミィが焦る。
「う、嬉しい~っ!」
「「ほっ!」」ジルとリミィはその一言に安堵した。
フィリアが落ち着くまでジルとリミィは根気よく待った。
フィリアは、生まれてから、その傷痕ができるまでは、蝶よ花よと言われて来た。
両親も自慢していたし婚約者だったリハルトにも可愛い可愛いと言われてきていたし、それを心の糧にしていた。
それが、あんな傷を負ってしまって以来、自分がリハルトにとって全く価値がないお荷物のように感じていたのだ。
自分はもう可愛くなどない。
ダンには化け物とさえ言われた。
自分でそこまでは卑下してはいなかったが、リハルトもそう思っているのかもと考えてしまい、胸の内には大きな大きな重しがのしかかっているようだった。
その重しが、たった今、思いがけず、本当に思いがけず解消されたのだ。
泣くほど嬉しいに決まっている。
例え好かれていなくても、嫌われずに済むではないか!と希望が湧いた。
そうして、ようやくこの夢のような出来事を受け入れて落ち着きを取り戻すとジルとリミィへの疑問がわきだした。
「でも、でもでも何で?月の石なんてすごいものを持ってるの?」
そう、フィリアが思うのも当然である。
「「え~と」」
「それは…まぁ、色々っていうか…。隣国のラフィリルには、意外と沢山あるんだけど、国外には特別な許可でもない限り持ち出せないみたいだね。だから僕たちがこれを持っている事も当然、秘密なんだ。ばれたら僕たちは、ひどい目に合うかもしれない。だから…ね?内緒だよ?」
実際、嘘は言っていない。
早速、月の石を持っている事など友達になったとはいえ、他人に早速ばらしてしまったのだから、とりあえず、帰ったら怒られるだろう。
ただ、まだ漏らしたのはフィリアにだけである。
魔物の傷痕の浄化の為だと言えば、父母は理解を示してくれるだろう。
精霊のジンもリンも浄化に関しては反対しなかったし…とジルは考える。
しかし、これ以上無関係な者にまで広まったら留学自体が取りやめになりかねない。
ここは、フィリアには、きっちり念押ししなければ!
そう思っての言葉だったがフィリアはその言葉に盛大な勘違いをした。
何てこと!二人はラフィリル王国の伝説の石を許可もなく勝手に持ち出したのだわ!
そんな事がバレたらきっと、例え子供でも重い罪に問われる!
もしかしたら死刑もありうるんじゃないかしら?と真っ青になった。
「ジル…そんな、自分達が酷い目に合うかもしれないのに私の為に月の石を使ってくれたのね?」
「「ん?」」
「あ、ああ、まぁね?」
「私、絶対、誰にも言わないわ!聞かれても、ある日、目が覚めたら治ってたとでも言うわ!」
フィリアはジルとリミィが驚くくらいに真剣に両の手をしっかりと組んで拝むかのようにそう言い放った。
「「う!うん!よろしく?」」
まぁ、酷い目→怒られる位のものなのだが、フィリアは命さえ危ないといい具合に勘違いしてくれていた。
何が何でも秘密は守ってくれそうである。




