フィリアとダン--01
ジル(ジーン)とリミィ(リミア)は、二人で船の上を散策していた。
二人で…と言っても二人は母との約束でいつも月の石の装身具をいつも肌身離さずつけている。
そして人の形ををとっていないときのシンとリンはいつも月の石の中に控えている。
リミィは、嬉しくて仕方がないというようにはしゃいでいた。
何しろお供も連れずに歩けるなんて、これまで本当になかったのだから。
一方、ジルの方はと言えば、結局精霊たちのお目付け役は姿を見せていないだけという事を分かっているので普通である。
(まぁ、国にいた時みたいにぞろぞろ人が寄って来てはついて来られる訳じゃないから全然いいけどね)と、はしゃぐほどではないにしても、そこそこご機嫌でリミィと色々と船の中を見てまわっていた。
すると前から自分達より少しだけ年上らしき子供達が歩いてきて、はしゃいで前を良く見ていなかったリミィとぶつかった。
「きゃっ」
「あっっ!ご、ごめんなさいっっ」リミィは慌てて謝った。
「だ、大丈夫よ。あなたは大丈夫?」
ぶつかったその子は十歳くらいの色白でとても綺麗な女の子だった。
ジャニカ人特有の黒髪で右側の片方だけ髪を耳にかけ左側の片方の髪は耳や頬を覆うように垂らしていてお姉さんぽい雰囲気である。
この船に乗っているという事は、自分達と同じタイターナ国の学園への入学予定者なのだろう。
国外からは珍しいが、ジャニカから裕福な貴族の子が年に数人ほどは、入学していると聞いている。
その数人の一人なのだろう。
「全く、何をやってるんだ!前くらいちゃんと見て歩けよ!」と後ろから来た生意気そうな男の子がその女の子に文句を言った。
「ごめんなさい!このお姉さんは悪くないです。私が前を見ずに走ったりしたから、お姉さんにぶつかってしまって」
後ろにいた男の子はリミィを見たとたん固まった。
「え?き、君は?」
「リミィ・パリュムと申します。タイターナ公国のティリナ学園へ入学の為、双子の弟と共にこの船に乗りましたの」
「あ、う、うん、そうか」と男の子は口ごもった。
リミィの可愛さに驚いたのである。
「弟のジル・パリュムです。姉が申し訳ありません」とジルが前に出て、その少しばかり年上であろう女の子と男の子に、ぺこりと頭をさげた。
「まぁ、お二人とも私達より小さいのにしっかりしてらっしゃるのね?それにティリナ学園へなら私達と一緒よね?すごいわね、ひょっとして最年少の早期入学生かしら?だとしたら七歳か八歳よね?」
「「はい先日、七歳になったばかりです!」」双子の二人は返事も同時である。
「まぁ、すごい。優秀なのね。しかも二人そろってなんて本当にすごいわね」とほほ笑んだ。
「私はフィリア・ポーネット、十歳よ。宜しくね?良ければお友達に…」とフィリアが言いかけると先ほどの生意気な男の子がフィリアをおしのけて話しかけてきた。
「僕はダン・ホーミットだ!ホーミット伯爵家の…」
言いだした男の子ダンの言葉が言い終わる前にリミアは声を発した。
「何故ですの?」
「は?」
「今、フィリア様とご挨拶の途中でしたのに何故、フィリア様をおしのけたりしますの?」
「え?だ、だって、こいつは」
「何故、こいつなんて言い方をされますの?」
リミィは、ダンの無作法が許せず、質問攻めにした。
「坊ちゃま、これは坊ちゃまが悪うございますよ。小さな淑女達にお詫びなさいませ」
さらに後ろから品のよい五十歳くらいの従者らしき人が、小さく頭を下げながら口を挟んだ。
「わ、私ならいいのよ」とフィリアが困ったような顔で、その男の子を庇ったが、リミィには納得がいかない。
女の子に『こいつ』とか許せないし、それ以前に人が話してる時におしのけるなんて言語道断なのである。
「いいえ!よくありませんよ。お嬢様はお優しいですが、婚約者を今から甘やかしては坊ちゃまの為にもなりま…」
「っ!うるさい、うるさいっ!ハンス!余計な事を言うなっっ!こんな奴、婚約者なんかじゃないっ!」
従者のハンスが言葉を言い終える前にまたしても言葉を遮る行いをするダンにリミィはすっかり怒り心頭だが、ダンはそんな事気づきもせずに悪態をつく。
ジルは、あ~あ馬鹿な奴…とおもいながらその様子を傍観した。
「坊ちゃまっ!何てことをっ!」ハンスが伯爵令息?のダンを窘める。
「こんな奴、こんな化け物と誰が!」
「坊ちゃまっっ!」
「っ!」
そんな言い合いの末、リミィの軽蔑するような眼差しに気づくと、ダンは悔しそうな表情で走り去り、それをハンスは追って行った。
「「なんだ、あれ?」」とさすがは双子のリミィとジルがまたまたハモるとフィリアがくすりと笑った。
「本当にごめんなさいね?彼は家同士の決めた私の許嫁なのだけれど…彼は私の事が嫌いだから…」と少し寂しそうに言った。
「「ええっ?なんで?フィリアさん、すごく綺麗で可愛いのに!」」
またもやハモるリミィとジルに苦笑しながらフィリアは応えるように耳にかけていない方の髪を持ち上げた。
「ほら…醜いでしょう?彼が私の事を化け物と呼ぶのもこのせいなの」
髪をもちあげた頬には、端から黒く爛れた痕が耳のうしろの方にまでかけて広がっていた。
ああ、それで髪でかくしていたのか…とジルもリミィも思ったが、でも、それでなんで化け物なのか?と普通に不思議に思った。
「何で?全然、化け物なんかじゃないじゃない!それより痛くないの?」とジルが言う。
「そうよ、ひどいこという人ね!こんな美人さんなのにっ!私、あのお兄さんは嫌いですわ!」とリミィは、憤慨した。
その怯えるでも、嫌うでもない反応にフィリアは拍子抜けしながらも嬉しくなって笑顔で答えた。
「痛くはないのよ。もう一年以上前の傷だし…」
「でも、どうしてそんな怪我を?」
「魔物にやられたの」
「「魔物!」」
そして二人はフィリアからその頬の傷痕の出来た時のいきさつを聞いたのだった。




