107.牢の中の天使②
三人の捕らわれた女性たちはジルの言葉を信ずる事が出来ない。
当然である。
三人の困惑した表情に、ジルは『それならば』と、月の石の精霊シンを呼んだ。
心の中で念じる。
『シン!今すぐここへ!そして…』
ジルは、いくつかの事をシンに指示した。
すると銀の光が煌めき人型をとった月の石の精霊がその光の中から現れた。
ジルもそうだが、その精霊の美しさと神々しさに女達は息を飲んだ。
ジルの頭の中で、脚本が組み立てられる。
何をどうすれば彼女たちを守れるのか。
そして叶うのならば自分の正体は伏せておきたい。
そしてジル劇場の幕は切って落とされた!
***
ジルは、若干、大げさな身振りでシンに向かって跪く。
「ああ!天使様。どうか、か弱き人間の僕にこの乙女たちを救う力をお与えください」ジルはシンに向かって両手を組み、そう言った。
三人の女達はその神話のような光景に目を見開く。
「「「て!天使様?」」」
実際には月の石の精霊だが、この国では精霊の存在すら知らないだろう。
諸外国では比較的先進国である国でも、はじまりの国の伝説や精霊を知るのは貴族階級以上の高等教育を与えられた一部の者達だと聞いている。
けれど、神様や神の使い→天使という概念なら大概、どの国どの部族にもあると聞いた事がある。
この際、シンには神の使いの天使様という役をしてもらおうとジルは、いくつか台詞を言うように指示していた。
シンは淡い光を纏いながら、宙に浮かび跪くジルに手をかざし、言葉を紡いだ。
「人間の子よ。其方の願いを聞き届けよう」と言い、月の石の腕輪を、まるでジルに授けるかのように手渡す。
すると牢の中が一瞬、眩い光に包まれた。
ライナもリナもミナも口元を両手で抑えながらその光景に只々、驚き見入っている。
「我が力を一時的に其方に与えた故、思う存分、その力を振るうが良い。この乙女たちは我が保護しよう」と言い、シンは自分を包む淡い光と同じ光で三人を包んだ。
「「「え?え?え?」」」三人は光に包まれ驚く。
ジル劇場の見せ場が始まった!
シンが物凄く無表情で言葉にも抑揚が無いのはしょうがない。
『ナニヲ、ヤラセルンデスカ!』と念話での文句もジルには聞こえたが、勿論、無視である。無視!
ジル的には、それでも、淡い光りを放つシンは十分に神々しかったし、三人の女性たちはすっかり騙されている?様なので無問題だった!
そして、ジルは、三人がシンのバリアに包まれたことを確認すると、まずは牢屋の入り口に向けて、ほんのちょっとだけ、魔力を解放した。




