106.牢の中の天使①
今回のお話には、残酷な表現があります。
飛ばして下さっても、話の大筋は分かるかと思いますので苦手な方は飛ばしてお読みください。
「おねぇさん達、ここから逃げ出すのに、僕に考えがあるからお願いきいてくれるかな?」
ジルは、三人にそう言った。
「「「えっ!?」」」三人の女性たちは皆、驚いた。
「何言ってるの?相手は魔族よ?逃げれるわけないわ」
「え?でも逃げないとお姉さん達どうなるの?」
「そ、それは…と、とてもじゃないけど子供には聞かせられないような目に合うわね…だから…私たちは死を選ぶ」ライナが覚悟をきめているというような真剣な目でそう言った。
「えっ?なっ!何言ってるの?」ジルはまさかの返答に驚いた。
「そう、子供に言ってもわからないかもしれないけどね?私たちは”繁殖”の為に攫われてきたの。魔族の血を絶やさない為にね。それは、私たち女性にとって死ぬよりもつらい事…」リナが涙目でそう付け足した。
「魔族達は同じ魔族の雌の数があまりにも少ないが為に人間の女…雌を攫ってきて魔族の種を宿させるの…」
ぼかした言い方をしていても前世の年齢と今の年齢を足せば二十歳は越えているジルである。
体に引きずられる部分はあれど考えればわかる事も多い。
何となくそれが女性たちにとってどれだけ屈辱的な事であるかは想像できた。
「…私たち、クルンデュラを囲む山々を挟む隣国ケーラの女達は14歳の成人の儀式を受けるとともに毒薬を授かるの…私たちはいつ魔族達に攫われるかわからない…攫われたら最後、どちらにしても生きては戻れない。ならば生きて辱めを受けるより死を選ぶようにと」
「そんな…でも、死ぬのは怖いでしょう?そんな事を大人たちが成人式を迎えたばかりのか弱い女の人に強いるの」ジルはごくりと息をのみ尋ねた。
ジルは思った。
僕は…これから何千年生きるか知れない。
それでも死ぬのは怖い。
それなのに…たかだか14歳でそんな覚悟をさせられるだなんて…と。
「この魔族の力が及んでしまう辺境の地に棲まう者達の宿命なのよ。辱めよりも死ぬ事を恐れれば、また新たな魔族や魔人を生み出してしまう」
「魔族はね、人間に種を植え付けた後にその女の脳みそを食らうのよ」
「えっ!そんな事をすればお腹の子供だって死んじゃうんじゃないのですか?」
「不思議よね?魔族に種を植え付けられた体は頭部を失ってもお腹の中で育って出てくるまで生きているのよ…魔族という生物の苗床として…」
「姉さん、そんな事子供に言ってもわかる訳ないわ…」ミナが咎めるようにそう言ったが、ライナは構わず言の葉を紡ぎ続ける。
「ふふっ。そうよね…でも、これは貴女達や自分に向かって言っているのよ」
そう話すライナさんの言葉は重く真剣でリナさんもミナさんもゴクリと息をのみながら聞き入った。
その話は博識なジルにとっても初めて聞く残酷で衝撃的な内容だった。
人間と魔族の間にできた子供は魔人となり、人と魔人との混血児として人と魔族の両方の性質をも、持って生まれるが、妊娠の直後に脳を食われた体を苗床として生まれた子供は人の性質は持たず魔族として生まれる。
残虐で獰猛な気質を”良し”とする魔族はより強い魔族を育てる為に敢えて人の性質を残さぬようにと、そうするらしい。
過去、種を植え付けられても脳を食われる前に逃げ延び、クルンデュラの騎士団に助けられた女性がいたことがあるらしいが、子を産み落とすと正気を失い死んだという。
だから、種を植え付けられる前に自分達は死なないといけないのだと。
悪しき魔族を増やさぬためにもと…そう教わってきた。
死を躊躇えば魔族を増やすばかりだけでなく正気を失い苦しんで死ぬのだと。
その話を聞いて、ジルは、すっと立ち上がり女達に力強く言い切った。
「大丈夫!絶対に助かるから。僕の言う事を聞いて!」と!




