103.悪しき魔族① ジル視点
あのカッコいい獣人さん達の前から一瞬で転移した僕は、今度は何やら広い広い鍾乳洞の中に転移させられた。
当然、僕は誰も居ないだだっ広い場所に転移してくれるものと、そう思っていたのに…そこには複数の何者かの気配がした。
そこには、まるで僕を召喚させたかのような魔法陣があり僕はその魔法陣のど真ん中に現れ出たのだった。
暗がりにうごめく影。
先ほどの紳士的な獣人たちとは似ても似つかない如何にも悪そうな気配の人外の者たちだった。
青い皮膚に血走った赤い目…魔族である。
『えっ?シン、僕は、さっきの続きを出来るような広い場所にってお願いしたよね?確かに広いけど洞窟はちょっと…それに何で如何にも悪そうな奴らがいるとこに…?』僕は呆けた顔のまま月の石に触れそう念話した。
すると帰ってきた答えがこれだった。
『え?ジル様は、うっかり殺やっちゃっても、罪悪感も起きないような極悪非道な山賊にでも出会った方が…と、言われておりましたし。ちょうどそれに該当するような者達がおりました故…』
『ち~が~う~!それは頼んでないいいいいい~思っただけだよぅぅぅぅ~』と心の中で叫んだものの、魔物たちは僕に気付いて何かを言い合っていた。
「おい!なんで人間の子供が?女しか呼び寄せてないだろう?」「何か手違いがあったか?」
「あ~、面倒だな!取りあえず、女達のとこへ一緒につっこんどけ!」
その魔族たちの言葉に、自分以外に人間の女の人が複数捉えられていると僕は気づいた。
もちろん不本意に捕らえられたのだだろう。
だとすれば当然、助けなければ…と思った。
「お?こりゃあ何だ?へへっいいお宝持ってるじゃねえか?」とその魔物の一人が僕の月の石の腕輪を見ていきなり大きく斧を振りかざしてきた。
ブンッと大きな音を立てて振り下ろされる。
勿論よけたが。(なんちゅう勢いか!ちょっとびっくりしたではないか!)
どうも、いきなり腕ごと切り落とそうとしたみたいである。(無茶苦茶だ!)
何度か、斧を振り下ろすが、勿論、避けまくる。
「くそっ!この!ちょこまか動きやがって!じっとしやがれっ!」
「いや、普通、避けるよね?」
ぶんぶんと斧が振り下ろされる。
いやもう、腕っていうより僕の脳天めがけてるよね?
こんな奴、指一本ふれずに、塵に返す事ができるが、またうっかり、この鍾乳洞事、破壊してしまえば、この洞窟のどこかに捉えられているという女性たちも塵と化してしまうだろう。
さすがに、そんな事する訳にはいかないと。
自分で自分をなだめる。
(怒っちゃダメ!冷静に、冷静に~)と、思っているとなぜか母の顔が浮かぶと良い感じで気が抜けて、ひたすら(魔力を行使もせず)ひょいひよいと斧を避け続けた。
しばらくすると、他の魔物が、僕に斧を振り回す魔族にいらついたような声をかけた。
「おいっ!いつまでそんな子供相手に遊んでるんだ!早く女どものとこに放り込んで来い!良くみりゃ、中にいる女どもより可愛い顔をしているじゃないか?人間びいきの客にペットとして売りつけるのにいいかもしれん」と、斧を振り回す魔族に言う。
「っはぁ…はぁ…小僧、その腕輪をこっちに寄こしな!そうすりゃあ腕ごと盗らないでやろう」
僕は遺憾ながら素直に月の石の腕輪を腕から外しその魔族に渡した。
とりあえず、一刻も早く捕らわれた人間の女性たちの処へ行くべきだと思ったから。
そして、そっと心の中でシンに呟く。
『捕らわれている女の人たち助けたい。取りあえず様子を見てくるから、僕が念話で指示をとばすまで待機していて』
『かしこまりました。お気をつけて』
***
そして、僕は、女性たちが捕らわれているその場所…牢屋につれていかれ乱暴に突き飛ばされた。




