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船出

 普通の生活を…とか言いながらも、ジーンやリミアの乗った船はなかなかの豪華客船だった。

 そもそも一か月以上もの船旅代金を一般庶民が出せるはずもなく、必然的に乗組員以外はいわゆる富裕層である。


 両親のラフィリアード公爵夫妻も別にジーンとリミアに必要以上の苦労をさせたい訳ではない。


『女神の子供たち』だの『始祖の偉大なる魔法使いの生まれ変わり』などと騒がれ素顔で街を歩くのも一騒動な状況から一旦ひきはなし、平穏な学園生活を送らせてやりたいだけなのだ。

(”女神の子供”とか”偉大なる魔法使いの生まれ変わり”などという肩書はもはや()()()()()ですらないのである)


 海に隣接したジャニカ皇国の港からタイターナ公国へ向かう船と言えばジャニカ皇国で一番の巨大帆船シルバーヴァイン号である。


 ジャニカ皇国とタイターナ公国を挟む大海を安全に渡りきるにはこの船でなくては!と言われている。

 実際、これまで何艘もの船がこの海に沈んだが、このシルバーヴァイン号だけは、これまでどんな嵐も乗り越えて目的地まで航行してきた。

 海神の祝福を受けし船と評判の高い船である。


「凄いわっ!なんて大きな船なんでしょう!」

「うん、カッコいい!」


 リミアもジーンも初めて見る海と巨大な船に驚きの声をあげた。

 湖に浮かぶ可愛らしい船とは全然違う。

 海も船も自分達が知るものとの桁違いの雄大さに興奮した。

 学園への旅立ちの日、両親は忙しい中、時間を作り、ジャニカ皇国の港まで見送りに来てくれた。

(と、いってもこの港の近くまでは転移してきたので一瞬だった訳だが)


「まぁ、本当に立派な船ねぇ。こんな船で船旅が出来るなんてちょっと羨ましいくらいよ」と見送りに港まで来た母ルミアーナも嬉しそうである。


「二人とも困った事があったらちゃんとリンやシンに相談するのよ?」


「「はいっ!」」


「冬の休みには必ず帰ってくるんだぞ?帰りは()()でも良いから」と父ダルタスが言う。


「「えっ?いいの?」」リミアとジーンは不思議そうに言う。

「でも僕たちの魔力は、封じてるんでしょ?」と、ジーンが、たずねると

「ああ、お前たちの魔力は封じてるが、リンとシンに頼めば良いだろう」と父が答える。


「「なるほど」」


「でも、じゃ何故行きは船で?」


「うん?リュート(精霊)に聞いたんだが、船旅なんて今回のような機会でないと経験できないだろうし、何よりわたしも、タイターナには十年以上行ったことがないから街並みも変わってるだろうし、そもそも転移での着地点が定まらないらしいからな」


「「着地点?」」


「そうよ~、いつも屋敷の中か王城以外では転移はダメって言ってたでしょ?」とルミアーナが言う。


 そう、魔法での転移はその場所が転移する人間の明確な位置、つまり『着地点』の把握が必要だし転移する着地点が無人でなければならないという縛りがあった。


 要するに行った事のあるところでなければ、転移できないのである。

 正確には転移はできるが、見当はずれなところに出たり下手したら異次元にまで飛んでしまう危険があるのだ。


 ちなみに無人の場所へ…というのは、普通に転移した先が崖の上だったり、走ってる馬車の前だったりいろんな危険が考えられるからだ。


 ましてや、この世界には魔法が存在しているが魔法を使えない人間のほうが、圧倒的に多い。

 魔法の存在を夢物語だと思っている国さえもある。

 タイターナ公国やジャニカ皇国にはラフィリル王国と同じく魔法が存在するが生まれつきの素養がある者に限られるし希少な存在である。

 そんな希少な存在はそれだけで悪者に狙われるのだから通常はその力は隠すべきなので人目につくわけにもいかないのである。


 見た目だけでもさらわれそうな美しい子供達なのだから用心に越したことはない。


 二人はもともとの美しい漆黒の髪とはちみつ色の金の髪をリンとシンの魔法でかえた。

 ジャニカ皇国に多い赤茶色の髪に暗緑色の瞳に…。

 二人はもともと双子と言う事もありよく似ていたが髪色と瞳の色を同じにすると本当に良く似ていた。

 と、言ってもジーンの髪は短くリミアは肩にかかる位の髪の長さがあったので間違えるような事にはならなかったが。


 そうして二人は夢と希望に溢れつつ大好きな両親に別れを告げて船に乗り込んだ。


 まぁ、精霊のリンとシンもついているし、本当に会いたくなったらすぐにでも転移して母や父の元に行けるとわかり二人は特に寂しがるでもなく元気よく旅だった。


 母ルミアーナに至っては、「ふふふ~!二人がタイターナから休みに帰ってきたら私達も一度は行ってみましょうね。あ、専用の直通の扉をつくっちゃいましょうか」とウキウキしている。


 最近いろんな国との直通ドアを作っては楽しんでいるのである。


 そんな訳で父も母も「その気になればすぐにでも会いにいけるし!」と呑気に見送り、父ダルタスは仕事に、母ルミアーナは自分が理事をしている学校にいそいそと出かけたのだった。


****************

▼作者からの一言▼

前置きが、長くなりましたが、ようやく次から二人のお話になっていく予定でおります。

進みが遅くてすみません。

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