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59 可愛い子には弱いのよ

話が進まない。

さっさと退院したいのに~。

カーテンを開けると顔を赤くしているキャンの旦那とキョトンとした顔の子供たちが居た。旦那は私と目が合うと、視線を一瞬私の胸元に寄こしてから目を逸らした。それに気がついたキャンの眦があがった。


あ~あ、知~らないっと。家に帰って怒られろ~! それともキャンが返り討ちにあうかな? どっちでもいいけど、子供の前で喧嘩はするなよ~。


さて、1階のスターにきました。子供達はジュースでキャンたちはコーヒー、私はミルクティーを頼んだの。そういえばいつぶりだろう、ミルクティーを飲むのは。入院してからは水かお茶しか飲んでなかったものね。息子が木曜に買ってくれた無糖の紅茶はまだ飲んでいないもの~。


・・・お~い、ボケ旦那やい。視線を彷徨わすな。殴るぞ、本当に!


「舞。私が許可するから、殴っていいわよ」

「亜季子、そんなもん許可だすなよ」

「あら、何か不都合でも。そんなに巨乳がいいなら別れてあげるわよ」

「俺は別に巨乳好きじゃない」

「どうだか」

「信じてくれよ。俺には」

「はい、ストップ。それ以上はギャラリーがいないところでやろうね」


私は会話が砂糖吐きになる前に止めた。キャンは周りを見回して注目を浴びていることに気がついて、また顔を赤くした。本当にな~、いつまでも可愛いんだからね、キャンさんは。


私が生温かい目でキャンのことを見ていたら。


「ねえ、まいこおばちゃん」

「ん~、なあ~に、稀莎ちゃん」

「あのね、またおばちゃんのおかしがたべたいの~」

「うれしいことを云ってくれちゃって~。稀莎ちゃんは何を食べたいかな」

「えーとね、ふわふわのケーキか、リンゴとあまいクリームのパイか、マドレーヌがいいな」

「りょ~か~い。シフォンケーキも、カスタードクリーム入りアップルパイも、マドレーヌも作っちゃうよ~」


幼稚園児にフォローされるなや~、キャン。いや、フォローではなくて自分の願望か? 欲望ともいうな~。

でも本当に稀莎ちゃんは可愛いのさ。

よ~し、退院したら本当にいろいろ作るからね。


「あ、そうそう。舞に聞きたいことがあったのよ」


稀莎ちゃんとニッコリ笑い合っていたら、ノートを出してキャンが言ってきた。


「ん? なに?」

「これの中に入院してから入浴する話がないんだけど、入ってないことはないのよね」

「もちろん。最初はシャワーだけだったけど、昨日も入浴したよ」

「何で書いてないの」

「・・・別にそこまで入れなくていいでしょ。そうしたらトイレの回数まですべて書くことになるじゃない。流れ的になくていいところは入れてないよ」

「ああ、そういうこと。でもさ、入れないと誤解されない」

「いや、だから、そこまでリアルにしなくていいでしょ」

「・・・ねえ、直すのが面倒とか言わないわよね」

「・・・バレたか」

「舞」

「うん、うそ。でも、退院してから投稿前に、確認するからその時に考えるよ。流れとしては入れなくてもOKじゃない」

「わかった。じゃあ、明日までにこれの内容は入力しておくから」

「悪いね。よろ~」


その後は子供達とバレンタインの話をした。


・・・というか、期待されても作るかどうかわからないのに~。私にはチョコレート作りは鬼門だったんだからー。


だってさ、手作りってどうしてしなければならないの? チョコレートはあのままで美味しいよね。

ただ溶かしてカップや型に入れて固めるだけじゃん。手間暇かけた割には逆に美味しくなくなったりするじゃん。最初の頃は湯せん時にお湯入れちゃって、どうにかするためにトリュフもどきを作ったのよ。他にもコーヒー風味にしようとして・・・とか、失敗しまくったんだから~!


だけど、娘が作りたいといってきて一緒に作ったら、あら不思議。失敗しないで出来たのよね。

なぜに? 腕が上がったとか? 


でも、私じゃなくて娘が作ると言っていたから、チョコレートは娘に任せるわ。私はブラウニーかパウンドケーキにするからね。


結局そんな話でキャンたちとの会話は終わった。私を病室に送ると稀莎ちゃんが言い張ったので、一緒に病室まで戻った。そうしたら、うちの家族が待っていた。


ありゃ~、ごめんよ~。待たせたかのう。キャン一家は旦那に挨拶して帰っていった。稀莎ちゃんは娘とお話ししたかったみたいだけどね。


「お母さん、今日は大丈夫なの。昨日熱出したって聞いたけど」

「うん。今日は平熱よ。今までの疲れが出たみたいね」

「舞子さんは無理をし過ぎですからね」

「そうだよ。でもどう。少しはゆっくり出来ているの?」


お~い、息子よ。病院はホテルでも旅館でもないからね。ゆっくりはできないでしょ。


「いやいや、ここでゆっくりしないでどうするんだよ」

「そうよ~。私もお母さんが退院するまで家のこと頑張るから」


むんっと気合をいれる娘の姿に頼もしさを感じた。それに微笑んで・・・なんか言い忘れている気がするのだけど?


軽く首を捻っていたら息子が聞いてきた。


「どうかしたの母さん。首を捻ったりしてさ」

「う~ん、なんか伝えなければいけない気がするんだけど、なんだろう」

「それって実は病状で、まだ隠していることがあるとか?」

「それはない」

「じゃあ、珪さんと何かあったとか?」

「それもない。・・・というか、何もないのは尚人も知っているでしょーがー!」


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