54 ノート行方不明事件?
幼馴染みの気の置けないやり取りは、楽でいいよね。
確認させてくれない気の珪に、私は不満が募った。軽く頬を膨らませていたら、頬の赤みがかなり引いた珪に頬っぺたを突かれた。
「なにすんのさ」
「拗ねんなよ、舞。それならまた書けばいいだろ」
「やだ!」
「やだって、おい。駄々っ子かよ」
「駄々っ子いうなや。そんな時間ないもの。『月光の姫』が思ったよりも構想が膨らみすぎて、終わりが見えなくなりつつあるし、『恋拒の女』も2作同時にしたから、終わらせるのに時間がかかるし、『夏の・・』も、今年の夏が終わるまでに終わらせたいし・・・。これでどこにエロ話を書く余裕があるって言うのさ」
「・・・自業自得・・・」
珪が小声で言ったけど聞こえたかんね。
「ああ”~」
と、低い声を出したら、珪は一瞬視線を私から外した。すぐに戻すと笑顔を浮かべたのよ。
「じゃあ、あのデータを渡すよ。ついでに浩輝さんにも読むように言っておくから」
「余計なことしないでくれるかな、珪」
「いやいや。あんなもん書くくらいだから欲求不満なんだろ。同じことして貰えば」
バコッ
珪が言い切る前に、珪の頭をのりちゃんが持ったファイルで殴っていた。
「いいかげんにしなさいよ、珪君。この部屋には他にも人がいるんだからね」
珪はわざとらしく頭を撫ぜて痛かったアピールをしていた。
「のり、だからって叩く事ないだろう」
「あのね、一応舞ちゃんは病人なの。入院しているということは、安静にすることが義務付けられているのよ。それを邪魔するのなら帰ってくれる」
看護師としてののりちゃんの言葉に、珪は素直に頭を下げた。
「騒がしくしてすまない」
「分かってくれればいいのよ。
「じゃあ、舞。俺も帰るわ」
「あ~、ちょっと待って」
私はあのノート達を取りながら珪に言った。
「それならさ、キャンにこれを届けて・・・あれ、ない」
ノートを見たら3冊しかない。キャンに渡して入力して貰おうとした、ノートが見つからなかった。
「え~? おかしいな。眠る前は全部あったのに」
「何がないんだ」
「えー、だからね、この入院の闘病記をコメディー調にして投稿しようと書いたものがないのよ」
「それは違うのか」
「これは、普通に日記と、元ネタと、本編なの。これにちゃんと読みやすく言葉を直した投稿版があったのだけど、それがないのよ」
私が引き出しを開けようとしたら、珪がそれを止めた。
「それならキャンが持っていったんじゃないのか」
「キャンが? メモも残さずに」
「残すのを忘れたか、尚人君がいたずらで持っていってしまったかだろう」
「ええ~、そんなぁ~。でも、どうしよう。確かめるためにも電話した方がいいよね。でも私、キャンの番号覚えてないのよ。それだと明日キャンが来るまで待たないと駄目か~」
私がう~んと悩んだら、珪が携帯を取り出しながら言った。
「今から聞けばいいだろう」
「携帯はエレベーターのそばに通話可能の場所があるので、そこでお願いします」
のりちゃんの言葉に珪は手を挙げて、病室を出ていってしまった。私もついていこうとスリッパを履いたら、のりちゃんが眉を顰めながら言ってきた。
「舞ちゃん、私が言うことじゃないと思うけど、珪君とあんまり近づかない方が良くない?」
「のりちゃん、心配してくれてありがとう。でもね、大丈夫だから。珪はうちの旦那の事、兄と慕っているから。私のことも恩人プラス面倒を掛ける妹だと思っているだけだから」
「そうかな?」
「ごめん。私もキャンに文句が言いたいからいくね」
私はそう言うと、のりちゃんから離れた。珪がいるエレベーターホールに向かいながら、少し反省をする。いつもの気の置けないやり取りは、事情を知らない人から見たら浮気や不倫だと、勘違いされるようなものなのだと。
まあな~。いってもきかないからな~、珪は。すぐに誤解されるようなことを言って、自分を悪く見せようとするんだからな~。キャンなんて、珪が家にくることを目の敵にしてるし。だからって放っておけないけどね。だってさほっときゃ、ご飯を食べないで過ごすことがあるし。それに珪のお母さんにも頼まれたしね。
エレベーターホールについたら、早速珪とキャンが言いあっているらしい声が聞こえてきた。・・・あ~、めんどくさい。
「珪、変わって。私が文句を言うから」
私の言葉に珪は黙って携帯を渡してくれた。耳にあてるとキャンの声が、飛び込んできた。
『だから、さっさと帰りなさいよ。少しは舞の迷惑になっているって、いい加減気がついてよ。・・・ちょっと、聞いているの』
「聞いてるよ、キャン」
『えっ? 舞? 嘘。なんで』
「私がキャンに話したいことがあるからって言ったら、電話を掛けてくれたんだけど」
『やだ、そうならそうと言ってよ。もう、珪は性質が悪いんだから』
「キャン、お願いだからちゃんと話を聞いてから、文句を言うようにしてよ」
『舞、私だけが悪いわけじゃ』
「ないって言いたいのだろうけど、さっきの言葉でキャンの方が悪いのは明白でしょ」
『ウッ・・・』
「ところでキャン。今日も病室に来てくれたの?」
『ええ、行ったわよ』
「じゃあ、ノートを持って帰ったりした」
『えっ? あれ? 尚人君が持ってきてくれたけど、舞が頼んだんじゃないの?』
「・・・尚人め~」
犯人は尚人だったか。思わず珪の顔を見たら、珪もやれやれという顔をしていたのでした。




