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35 親友の事情

人ん家の事情に首を突っ込む趣味はないけど・・・。

あの当時、幸せになることを諦めたキャン。


それなのにキャンのことを大事にしてくれる人が現れて。彼の方が年下だから、未来があるからって身を引こうとしたよね。だけど彼はキャンを選んだ。自分の子供を持つことよりキャンと歩いて行くことを選んでくれた人。


去年、キャンに転機が訪れた。きっかけは悲しいこと。彼のお兄さん夫婦が事故で亡くなった。幼い3人の子供を残して。彼の両親が面倒を見ていたけど、無理がたたって面倒を見ることが出来なくなったのが6月だった。


私はキャンの旦那から相談をされていた。子供達を引き取って育てたいと。キャンにも一緒に育てて欲しいけど無理強いはしたくないからと。私は二人で話し合うことを勧めた。そして出来ることならキャンと家族になって欲しいとも言った。


キャンは迷ったけど彼の申し出を受け入れた。籍を入れて家族を手に入れた。まさか彼がキャンを落とすために私の家のそばに家を購入するとは思わなかったけど・・・。それどころかキャンに断られたら私を頼る気満々だっただなんて!


そんな事情だから一緒に暮らすことになった時にキャンは仕事を辞めた。・・・はずが辞められなかったのだけど。だから、小学生の男の子二人はキャンが早く帰れない時は、うちに帰ってくる。幼稚園の女の子は基本はキャンが迎えに行って帰ってくるけど、たまにバスで帰りたがることがあるので、そこまで私が迎えに行くこともあったりするのだ。


「それじゃあ、今日は早く帰らないとね」

「ええ、そうするわ。ところで、それは家に届けておけばいいの」


キャンが指をさしたのはお見舞いの紙袋。


「お願いしていい?」

「ええ、もちろんよ。それにしても、紅茶とハンドメイド用の型紙だなんて。舞子の友達らしいわね」

「でしょ。絶対誰かが裏で糸を引いている気がするの」

「裏で糸って・・・陰謀じゃないんだから」

「い~や、絶対誰かが被らないようにしているんだよ」

「舞子の勘は当たるからね。じゃあ、行くわね」

「ありがとう、キャン」


そうして、キャンも帰って行ったのでした。


お見舞い攻勢が落ち着いたのは16時過ぎ。1人になってホッと息を吐いた。


ノートを取り出して、見舞いに来てくれた人のことを箇条書きにする。それから・・・息子との会話。そこは忘れないようにちゃんと書いていく。書きながら涙が滲んでくる。タオルで目を押さえながら書き綴る。それから自分が思ったことも。


ごめんね。駄目なお母さんだよね。居ることが当たり前だったのなら居ないことの寂しさを味わうって、どうして忘れていたのかな。


私は子供の頃、家の鍵を持っている友達のことがうらやましかった。親から信用されていることの証だと思ったから。

だけど小学3年くらいだったと思う。いつもは両親がいなくても祖母が必ずいてくれるのに、初めてその日は誰もいなかった。鍵を渡されて、すごくうれしかった。

でも、家に帰って、ドキドキしながら鍵を開けて家の中に入って・・・「ただいま」と言っても何も返ってこないことに寂しさが募った。

それから30分。祖母が帰ってきて私は祖母に纏わりつくように話しかけたっけ。


成長するにつれ誰もいない家に帰ることに慣れていったけど、それでも寂しいのは変わらなかった。


役員をやり始めたのだってそう。1人でいる時間を作りたくなかったから。働いている友達の子を預かったのだって、賑やかさが欲しかったから。みんなは助かるよって言ってくれたけど、どちらかと言うと利己的な考えからだもの。自分が寂しい思いをしたくなかっただけ。


それなのに、みんなはこんな私の事を気遣ってくれて、友達だって言ってくれた。当たり前のようにお見舞いにきてくれた。


どっちかと言うと私は面倒くさがりで、厄介ごとに首なんか突っ込みたくない。でも、いつの間にか頼れる人認定されて、それで引っ込みがつかなくなって・・・。

私が困っていると由紀さんとか麻由美さんが助けてくれた・・・。それが私がした事みたいになって、もっと頼れる人に思われて・・・。


キャンは私の人徳って云ったけど、それは違うと思う。危なっかしくてほっとけないだけ。みんなの方が私を見捨てられないだけだ。


そんなことを思いながら闘病日誌を書いていた。


「池上さん・・・舞ちゃん?どうしたの」


声を掛けてきた看護師さん、のりちゃんだった。私はのりちゃんのことを見た。まだ泣いているから、酷い顔をしているのだろう。のりちゃんは何も言わずに・・・違った。「失礼します」と言って棚からタオルを出し、姿を消した。戻ってきた時には濡らしたタオルを持っていた。それを私に渡しながら訊いてきた。


「どうかしたのですか、池上さん」


心配そうに私の顔を見てきた。・・・あれかな?私の押し殺したような泣き声に、隣の人が呼んでくれたとか?


「だ・・・大丈夫です」


声を出したらしゃっくりあげそうになった。軽く息を吸って吐きだした。


「でも・・・」


困惑したようなのりちゃんの声。


「本当に大丈夫です。具合が悪くなったわけじゃないですよ」


目に押し当てていたタオルから顔を上げてニッコリと笑った。


「そう?じゃあ、後で話してくれる?」

「そんなたいした話じゃないよ。さっき来た息子から、昨日娘に不安な思いをさせたって聞いたから、申し訳なくて」

「・・・とにかく、仕事が終わったらくるからね」


のりちゃんはそう言って戻って行ったの。


やばいなあ~。涙腺が弱い気がする。もう、年かな~!


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