博徒
「では、その剣はミリアに」
ロクサーヌとミリアに剣を交換させた。
ミリアからは聖槍も受け取る。
ミリアはレベルが二つ上がって戦士Lv5になった。
不安もあるがLv5ならメッキをかけておけば大丈夫だろう。
隊列を戻して探索を続ける。
ミリアも前線でがんばった。
大丈夫そうか。
まあ問題は攻撃を受けたときだが。
「やった、です」
ミリアの言葉で、フライトラップを見る。
石化添加が発動したようだ。
フライトラップが動かなくなっていた。
色も少し黄緑っぽくなったような気がしないでもない。
石化が発生することはやはりあまりない。
ミリアは前に出てから何十回と攻撃しているが、発動したのは初めてだ。
本当に、忘れたころに、という感じだろう。
ミリアが、石化したフライトラップの奥を回り込み、ハットバットに攻撃をかける。
ロクサーヌが相手をしていたハットバット二匹のうちの一匹を引き取った。
魔物が四匹から三匹になれば、前衛が一対一で対応できるからうんと楽になる。
ハットバット二匹をブリーズストームで叩き落とす。
ロクサーヌとミリアは次にベスタが相手をしていたラブシュラブを囲んだ。
俺もファイヤーストームに切り替えて攻撃する。
ラブシュラブと石化したフライトラップを火の粉が襲った。
フライトラップが煙になる。
ラブシュラブが倒れる前に、フライトラップだけが燃え尽きた。
フライトラップは、横倒しになるのではなく立ったまま煙になる。
石化した魔物はこういう風に滅ぶのか。
石化したまま倒れてきても危ないしな。
魔物はなんとか石化して屠ったけども倒れてきた魔物にぶつかって死亡とか、嫌すぎる。
石化すると床に落ちるハットバットでは分からなかった。
石化してまで飛び続けるのは無理な注文だ。
残ったラブシュラブをファイヤーボールで片づける。
フライトラップとラブシュラブは共に弱点が火属性なので、本来なら同じタイミングで倒れるはずだ。
フライトラップが先に倒れたのは、石化して魔法に弱くなったからだろう。
確かに、石化すると魔法に弱くなるようだ。
「よし。石化はちゃんとミリアでも発動できたな。えらいぞ」
「はい、です」
一声褒めて、探索を続けた。
ミリアが攻撃を受けたのは、戦士Lv8のときだ。
ハットバットが盾をかいくぐり、ミリアに激突する。
「大丈夫か」
「大丈夫、です」
手当てをかけて尋ねると、元気に答えが返ってきた。
大丈夫そうか。
手当てを間にはさんだファイヤーストームでラブシュラブ二匹を倒す。
魔物が残り一匹になると、ミリアがハットバットの正面をロクサーヌと交代し、手を上げた。
手当てはもういいようだ。
ブリーズボールで蝙蝠を攻撃する。
ミリアも横に流れて硬直のエストックで斬りつけた。
風魔法でハットバットを始末する。
今までは厄介なハットバットが一匹出てきた場合全部ロクサーヌが正面で相手をしていた。
石化添加のスキルがついた剣を使うことで、ハットバットを後から倒す場合、これからはミリアが相手をすることになる。
ミリアにとっては負担が増える。
たまにしか発動しない石化のことは無視して、今までどおりにすべきだろうか。
別にそこまではいいか。
ハットバットは確かにちょこまかと飛び回って厄介だが、ラブシュラブなら楽勝というわけでもないし。
ハットバットが三匹出てくればミリアも引き受けざるをえないから、ハットバットと戦わないということもできない。
「ちょっと大変になったけど、頼むな」
「はい、です」
ミリアには激励の言葉だけを伝えて、このまま続けることにした。
その後は攻撃を受けることなく進み、戦士Lv10で錬金術師をはずす。
いつまでもメッキをかけるわけにはいかないし、わざと攻撃を受けさせるのも大変だ。
Lv10がいい潮時だろう。
昼に休みを取るまで、無事ミリアは攻撃を受けずに終わった。
俺の方も、錬金術師の替わりにつけた盗賊がLv30に達している。
ジョブを見てみた。
探索者Lv44、英雄Lv40、魔法使いLv42、僧侶Lv42、盗賊Lv30、錬金術師Lv34、賞金稼ぎLv32、料理人Lv35、薬草採取士Lv6、色魔Lv24、戦士Lv30、村長Lv1、商人Lv27、剣士Lv2、武器商人Lv1、防具商人Lv1、村人Lv6、農夫Lv1、騎士Lv1、暗殺者Lv1、博徒Lv1。
おお。
あった。
博徒だ。
やはり盗賊Lv30が必要なんだろう。
セリーが見た本の落書きは信用できるらしい。
料理人なんかは探索者Lv30、騎士なども戦士Lv30が必要だ。
他にも何かLv30が前提となっているジョブがあるかもしれない。
すでに伸ばしているジョブはLv30まで上げてもいいな。
いや。種族固有ジョブの色魔に派生職はなさそうか。
博徒 Lv1
効果 知力小上昇 器用小上昇
スキル 状態異常耐性ダウン クリティカル発生
博徒の効果は小上昇二つだ。
器用な博徒というのも、嫌な感じだが。
博徒が器用でもやることはいかさましか思い浮かばない。
スキルを見る限り、いかさまというよりは、状態異常やクリティカルなど確率で発生するものがメインのジョブなんだろう。
攻撃のたびにサイコロを振るジョブなのか。
博徒らしいといえば博徒らしい。
スキルの状態異常耐性ダウンというのは、アクティブスキルだった。
試しに状態異常耐性ダウンと念じると、相手の指定を求められる。
パッシブスキルで自分の耐性がダウンするのでなくてよかった。
状態異常に対する耐性をダウンさせる代わりに攻撃力をアップさせるとか。
博徒ならありそうな気はする。
肉を切らせて骨を断つ作戦だ。
あー。どうなんだろう。
一応、自分に対して状態異常耐性ダウンをかけることもできるよな。
そんなことはないと思うが。
おそらく、博徒は魔物の耐性をダウンさせて状態異常を狙い、クリティカルで攻撃力アップも図るジョブなんだろう。
確かにバクチ好きの好みそうなスキル構成ではある。
一か八かにすべてを賭けると。
昼過ぎから迷宮で博徒を試してみる。
とりあえず、ミリアが対峙する相手に状態異常耐性ダウンをかけてみた。
暗殺者と博徒との相性はよさそうだ。
状態異常耐性ダウンで耐性を下げ、状態異常確率アップでさらに万全を期す。
と思ったのに、二回試してみてもどっちの魔物も石化しない。
まだミリアは暗殺者になっていないが。
元々石化の確率は低いからしょうがないのか。
状態異常耐性ダウンをかけた俺の攻撃でないと駄目なのか。
それともやはり自分に対してかけるのか。
ダウンの幅がレベル依存になっているということも考えられそうだ。
MPを消費している感じも少しあるので、無駄撃ちはやめた方がいい。
テストは次で最後にしておくか。
探索を進めていくと、ハットバット二匹とフライトラップ一匹の団体に出くわした。
ブリーズストームを放ちながら、ミリアの正面に来たフライトラップに状態異常耐性ダウンをかける。
このフライトラップもなかなか石化しない。
今回も駄目なのか、と思っていると、八発めのブリーズストームでハットバット二匹が落ちた。
あれ。
いつもより早い。
二十階層では弱点魔法を使って九発かかるのに。
数え間違えたか、と思っていると、今度はフライトラップを倒すのにファイヤーボールが五発かかった。
これは誤りではない。
「今、フライトラップを倒すのにかかった魔法の数がいつもより多くありませんでしたか?」
セリーも突っ込んできたから、確実だろう。
「その代わりに、ハットバットを倒すのに使った魔法の数が少なかったな」
「そうでしたか?」
ハットバットの方は、数えてはいなかったらしい。
数えとけよ、と思うが、しょうがない。
そんなもんだよな。
何が起こったのか。
状態異常耐性ダウンが効いた、ということはないだろう。
フライトラップにかけてハットバットに効くのはおかしい。
二匹同時に状態異常になるとも考えにくいし。
ハットバットの方は数え間違いだったとしても、フライトラップが石化したなら倒すのに必要な魔法の数は減らなければならないはずだ。
魔法に対する耐久力が上がるような状態異常になるとも考えにくい。
こっちには別にそんなスキルはないし。
状態異常耐性ダウンをかけるとランダムで何かの状態異常を引き起こすことがあるとか。
それもどうなんだろう。
耐性ダウンのスキルだしな。
それよりも考えられそうなのは、クリティカルが発生したということだ。
風魔法がクリティカルになったので、風魔法を弱点とするハットバットには大ダメージが入ったが、フライトラップの方にはそれほどのことはなかったと。
そちらの方がありそうに思える。
魔法にもクリティカルがあるのだろうか。
いや。竜騎士も博徒も攻撃魔法は持たない。
パッシブスキルのクリティカル発生は、スキルを持つ者が行うすべての攻撃に対して、一定の確率でクリティカルを発生させるのではないだろうか。
物理攻撃限定ではないということだ。
「これからもこういうことは起こる。魔物が倒れるまでは気を抜くな」
まだ魔法にクリティカルが発生したと決まったわけではないが。
セリーだけでなく全員に諭した。
セリーだけだと突っ込まれてぼろが出る恐れもある。
「そんなことまでおできになるのですね。さすがご主人様です」
「うまくコントロールはできないがな」
一度あることは二度ある。
多分大丈夫だろう。
「いえ。さすがです」
「すごい、です」
「そうなんですか」
ミリアとベスタまでがロクサーヌに騙されている。
魔法にクリティカルが発生したのだとしても、魔法にはそもそも手応えがないから、発生したことがまるで分からない。
使い勝手のいいスキルではないな。
状態異常耐性ダウンを使うのをやめて、様子を見た。
全然クリティカルが発生したような気配はない。
石化は発生した。
状態異常耐性ダウンをやめたら途端に石化しやがんの。
それだけ低い確率だということなんだろう。
ベスタも何度かクリティカルを出したようだ。
俺のクリティカルはベスタのクリティカルより確率が悪いのだろうか。
いや。クリティカルが二回発生しないと魔法一回分のダメージにならないということも考えられる。
それだと数が減って感知できるようになるのはかなり厳しいはずだ。
何組めかの団体で、ようやくラブシュラブが八発のファイヤーストームで燃え尽きた。
今回の相手はラブシュラブ二匹だったのでここまでだ。
「今のはいつもより魔法を撃つ回数が少なかったです」
セリーはしっかり回数を数えていたらしい。
さっきは数えてなかったのに。
疑り深い性質だな。
「そうなのですか。さすがご主人様です」
ロクサーヌを見習えと言いたい。
「うーん。効果は大きくはないな。とりあえずちょっと実験してみよう」
「実験ですか?」
「いつも使えるわけではないが、今の効果を大きくする実験だ」
実験と聞いて食いついてきたセリーに答える。
何の実験かを説明するのは難しい。
二回めもちゃんと起こったということは、魔法でもクリティカルが発生したと考えるのが妥当だろう。
二度あることは三度ある。
確かめる方法も、ある。
とりあえず一度デュランダルを出してMPを回復する……ときにミリアの石化が発生した。
「やった、です」
ちらりと見ると、フライトラップが固まっている。
「えっと。よかったのでしょうか」
「もちろん。危険がそれだけ減ったのだから、歓迎だ。さすがだ、ミリア」
「はい、です」
他の魔物を全部倒してからロクサーヌの疑問に答え、ミリアを褒めた。
デュランダルを出しているときに物理防御力の上がる石化を出されても厄介ではあるが。
他を片づけてから魔法で始末すればいいだけの話だ。
いや。このままデュランダルで倒す手もあるな。
石化したフライトラップにラッシュを叩き込む。
ちなみに、デュランダルを出しているとき俺にクリティカルが発生することはない。
博徒をはずして戦士をつけているので。
ジョブを付け替えられるというのもいろいろと物足りなく感じる部分が多い。
ただの贅沢な悩みだ。
フライトラップは、何発かのラッシュで煙となった。
石化していない場合と変わりはないらしい。
「すごいです。さすがご主人様です」
「石化すると物理攻撃が効きにくくなるはずですが。確かにすごいです」
「さすが、です」
「あっさり倒すなんてすごいです」
思ったとおりだ。
石化で魔物の防御力が上がっても、デュランダルのスキルである防御力無視がそれを無効にするのだろう。
つまりは全部剣のおかげだ。
MPを回復して、デュランダルをはずす。
キャラクター再設定でデュランダルに回していたボーナスポイントをそのままクリティカル率上昇に振った。
これでクリティカル率は三十パーセント上昇。
魔法でクリティカルが発生しているなら、すぐに分かるだろう。
探索を進めながら、次の魔物を待つ。
ハットバット一匹にラブシュラブ一匹、フライトラップ一匹の団体が現れた。
ファイヤーストームをお見舞いする。
ラブシュラブとフライトラップは、火魔法七発で灰になった。
確実にクリティカル率上昇の効果が出ている。
すごい効果を感じる。今までにない何か熱い効果を。
クリティカル……なんだろう発生している確実に、着実に、俺の魔法に付随して。
魔法にクリティカルが発生していることは疑いない。
ハットバットもブリーズボール三発で落ちた。
風魔法にもクリティカルが乗ったのかもしれない。
クリティカル率が三十パーセント上昇すれば、三分の一くらいの攻撃でクリティカルが発生する。
魔法を十回も撃てば何回かは確実にクリティカルになるだろう。
大体計算どおりか。
「もう何と言っていいか。本当に素晴らしいです。さすがご主人様です」
「これは、本当にすごいです」
「さすが、です」
「今のはすごかったです」
さっきに続いてセリーまでが褒めてきた。
さすがにここまで結果が出ればな。
「確認できたので実験はここまでにする。また元に戻す。いつもこんな風になるわけではない」
経験値アップに振りたいので、クリティカル率上昇にばかりボーナスポイントを振るわけにもいかない。
それが惜しいよな。




