☆寄り道編☆ 好きなんだからしょうがないじゃない[Side by Mastuda]
何とか書き上げまして〜。
スキ。
好きです。
好きだよ。
好きなんだから。
どれもしっくりこない。
ノートの端にいろんな告白パターンを書き綴る。
好きなんだからしょうがないじゃない。
そう書いてペンを止める。
なんだこれ・・・・・・。
告白ちがうじゃん。
でもこれが一番、あたしらしい。
頬を膨らませて頬杖をつく。
教室の窓の外から見える景色は秋の終わりを感じさせた。
教壇では国語の阿部先生が受験ででる例題を黒板に書いている。
ふと、通路をはさんで隣にいる親友を見る。
おしゃれとは遠く、校則をきっちりと守って長い髪を黒のゴムでまとめている。
横顔を見るとひゅっと伸びた長いまつげが瞬きをするたびにゆれる。
大きな瞳がチラッとあたしを見る。
「優ちゃん、どした?」
キラキラと好奇心旺盛なウサギのような目であたしに問いかける。
あたしは頬杖をついたまま、なんでもないよと笑ってみせた。
彼女、澤田 彩は2年生の時からの友人だ。
誰よりも一番近い友達。
さーちゃんはあたしの一番の親友。
そんなさーちゃんに「彼氏」ができたなんて。
本人はまったく自覚がないみたいだけど、アイツはいつだってさーちゃんを見てる。
教室のうしろのほうに座っているアイツの席を見る。
ほら、見てるし。
最悪・・・・・・。
嫌な顔をした瞬間にさーちゃんの彼氏、このクラスの委員長でもある緑川 翠と目があった。
緑川のほうもあたしに気づくと嫌そうな顔をした。
あたしとアイツは犬猿の仲ってヤツなんだろうと思う。
あたしが男だったら絶対に渡さないんだけどな・・・・・・。
もう一度、さーちゃんを見る。
少しだけ低い鼻が、かわいらしさを際立たせる。
これはもう、もって生まれたものなんだろうけど、さーちゃんってまったく気がついてないんだよな〜。
かなり、かわいいほうだと思うんだよね。
緑川が不安になるのもわかるけど・・・・・・。
まさか、あせって教室で告白するなんて大胆だよな〜。
あたしも、あのくらいの勇気と自信があったらいいのに。
右手でシャーペンをくるくると回しながら外を見た。
―――好きなんだからしょうがないじゃない。
結局、かわいらしい言葉なんかでてこない自分に苦笑する。
人を好きになるのは初めてじゃない。
これでも結構、モテる。
みんなには内緒だけど、何度か告白もされた。
もちろんふられた事もある。
だから、わかっちゃったんだ。
ずっと、知らんぷりしていた気持ち。
あの時、あの瞬間。
あたしは恋しちゃったんだって。
そう、2年の夏から、あたしは片思いなんていう荷物を背負っている。
はじまりはあの夏の生徒玄関。
今でもはっきりと思い出せる。
生徒のいなくなった放課後の学校。
熱をもったコンクリートの匂い。
生温かい風。
うんざりするくらいに嫌な臭いのする生徒玄関。
部活が長引いて、あたしひとりだけ遅くなっていた。
外は薄暗くて、グラウンドから野球部の声も聞こえなくなっている。
「やっばい、早く帰ろう」
廊下を抜けて、生徒玄関にはいると誰かがうずくまっていた。
あたしは思わず隠れた。
だって、なんだか現れてはいけないような気がしたから。
グスッ。
「っくしょ・・・・・・」
うずくまる人影から聞こえてくる男子の声。
―――― わっ、泣いてんの?
下駄箱の陰からのぞくと、サッカーのユニフォームが見えた。
サッカー部の誰かか・・・・・・。
2年の玄関だし、同じ学年って事だよね・・・・・・。
そういえば、今日はサッカー部が練習試合するって言ってたっけ。
この感じだと負け組みの方かな。
「・・・・・・っく」
声が漏れるのを必死でこらえているように聞こえる。
これじゃ、帰れないよ・・・・・・。
知らん顔して出て行こうかな。
誰か知らないけど、邪魔だっての!
こっちだってバレー部でへとへとに疲れてるってのに。
男のくせにちっさいのよ!
たかが練習試合じゃない!
泣くなっての!
「チームプレイが聞いてあきれるぜ」
消えそうなくらいに小さな声で、吐き出す言葉が胸にささる。
「っくしょ・・・・・・なんで俺・・・・・・信じられなかったんだろ・・・・・・」
うずくまりながら涙を拭くこともしてないんじゃないんだろうかと思うほどに涙声。
誰もいないとおもって声になる胸の内。
いつもは生徒で賑わう生徒玄関も今は誰だか知らない同学年の男子とふたり。
不思議な空間。
呼吸するのも緊張してしまうような、静かな場所。
はぁ〜っ。
そんな、切ない声だすなって・・・・・・。
がんばったんでしょ?
次があるでしょ?
情けない男子は守ってあげたくなるくらいに自分を責めていた。
何があったか知らないけど元気だせって。
いつの間にか悩み相談でもしているような気分になっている。
このまま、聞いてやるかと帰宅を逸る気持ちはなくなっていた。
―――カタッ。
「あれ? 熊田なにやってんだ?」
聞き覚えのある男子の声が小さく響く。
―――熊田? 熊田っ? 熊田っ!!
突然の侵入者に張りつめた空気は破られた。
しかも、聞き覚えのある声は確かに「熊田」と呼んだ。
うっそ・・・・・・。
泣いてたのは熊田?
あのいつもヘラヘラ笑って身体だけでかくて中身のない男?
熊田 明は1年の時から塾が一緒で2年になって同じクラスになった正真正銘の同級生だ。
「なんだよ・・・・・・笑いにきたのかよ」
「んなわけないだろ、偶然。なんだよお前泣いてたのか?」
ばかにしたような言い方で熊田を笑う。
この笑い・・・・・・誰だったかな・・・・・・。
「見てたんだろ?」
熊田の吐き出すようなセリフ。
「まあ、サッカー部と陸上部はグラウンド共有だし」
「最悪だよな・・・・・・まさか、土壇場で」
「よくあることだろ? オレは常にそうだけど」
「陸上は個人競技だろ」
「チームだろうがなんだろうがオレには土壇場で誰かに勝敗をまかせることなんて怖くてできないからな・・・・・・お前はすごいよ」
この言い方、知ってる。
誰だ? こいつ。
熊田と仲が良くて、陸上部・・・・・・。
ん?
それって・・・・・・。
「緑川に言われたくないな・・・・・・嫌味に聞こえる」
「なんだそれ」
不服そうな声を最後に静まり返る。
ヒソヒソと小声で何かを話してるようだけどよく聞こえなかった。
そうだ。
委員長だ。
熊田と仲が良くて陸上部で少し偉そうなしゃべり方。
しっかし、委員長もずいぶんと男らしいしゃべり方をするんだな。
いつも見てる委員長はさーちゃんの周りを女言葉でふざけてるから、てっきりあのふざけたしゃべり方が地なのかと思ってた。
そっか・・・・・・熊田か。
なんか意外。
あいつも悩むんだな・・・・・・なんて失礼か。
土壇場で勝敗をチームにゆだねる。
バレーでもよくある。
あの時、あたしがうってたら勝てたかもしれないと思う時は多い。
だけどそれよりも、あの時、チームメイトにパスしてたら勝てたかもしれないと悔やむ事のほうが多い。
こればかりはなくならない。
信じてなかった? そうじゃないけど、結果的にそう思われる。
だから後悔も罪悪感も重い。
良くわかるよ。
そっか・・・・・・がんばったね。
あたしはいつの間にか下駄箱の影からエールを送っていた。
「いつまでも泣いてんなよ!」
緑川の声が生徒玄関に響くと足音があたしのほうへ近づいてきた。
やばい!
そう思ったときにはすでに目の前を緑川が歩いていた。
一瞬、あたしを見て「なにしてんの? こんなとこで」と小さく言うと手でどこかへ行けとジェスチャーをする。
そんな・・・・・・どうやって?
思わずムッとしたけど、熊田を気遣う緑川は意外と優しいのだと思った。
あたしは息を思い切り吸い込んで、今ここへきたように玄関に入った。
「おつー」
何も知らないと心に言い聞かせながらうずくまる熊田に声をかけた。
「お、なんだ? こんな時間まで部活か?」
顔をあげて笑う。
その目の潤み具合をみて胸がしめつけられた。
「まあね、あんたは何?」
「お疲れ休み中」
「あ、そ。まあ早く帰りなさいよ」
「へいへい」
ぐったりと頭をもたげて熊田は小さく座り込んでいた。
あたしは靴を履き替えると勢いよく玄関を出た。
泣くな、泣くな。
男なんだから。
ばっかだね、あんたのせいで負けたんじゃないよ。
みんな一緒なんだから。
一歩、二歩。
砂利を踏みしめてあたしはキュッと振り返る。
「熊田っ!」
あたしの声に驚いて薄暗い玄関から熊田がこちらを見る。
「お疲れっ! また明日っ!」
大きく手を振ると熊田の反応を見ずに家へ向けて走り出した。
これが精一杯。
あの時のあたしにできる精一杯のエール。
あの時は気づかなかったけど。
確かに何かが生まれてた。
あれからずっと目で追う日々。
誰にも言わないでひっそりと想う日々。
ただ、見てるだけでよかったのに・・・・・・。
見ていればどんどん好きになる。
誰にも言わないとそれだけで想いは大きくなる。
ビューッと窓の外がうなる。
風が窓ガラスを揺らす。
頬杖をついたままノートに目を向ける。
―――好き。
書かれた文字が軽薄に見える。
笑っちゃう。
どう考えたってこんな言葉、土壇場ででてこない。
それに、そんな簡単な気持ちじゃないよ。
あ〜あ、嫌になっちゃう。
さーちゃんが告白なんかされなかったら、さーちゃんが自分の気持ちに気がつかなかったら。
あたしも告白なんて考えなかったのに・・・・・・。
チラッとさーちゃんを見る。
必死で教科書を見つめる顔。
つい、この間まで恋なんてしりませ〜んて顔してたくせに。
なによ、恋しちゃってさ・・・・・・。
どんな顔して一緒にいるのよ。
どんな声であいつに好きだって伝えるの?
ねえ、さーちゃん。
教えてよ。
やだやだ、あたし余計なことばっかりだね。
思わず笑ってしまいそうになる。
あたしらしくないよ!
チャンスがきたらいつでも言っちゃえばいいんだよ。
熊田がどう思ってたってかまわない。
あたしが熊田を好きで好きで好き。
それでいいじゃない。
それを言って、どうなったっていいじゃない。
何が好きとかどこが好きとか、そんなのどうでもいいじゃない。
あたしは熊田が好きで好きで好きで・・・・・・。
それだけだよ。
一緒に笑って、泣いて。
そばにいたいだけ。
そばにいてほしいだけ。
ただ、それだけ。
シャーペンを握ってあたしはノートに書く。
好きなんだからしょうがないじゃない。
あたしは笑った。
チャンスが来たそのときには。
堂々と背筋を伸ばしてアイツの前に立とう。
そして、最高の笑顔で言ってやるんだ。
あたしはあんたが好き。
好きなんだからしょうがないじゃないって・・・・・・。
※下にあとがきと次回予告がひっそりとあります。
(あとがきパスな方用に見えないようにしています。
■あとがきという名の懺悔■
本日もご来場ありがとうございます!
また、本日2回目のご来場の方はお疲れ様でした!!
やっぱり、寄り道編は楽しいです。
前回の田巻さん編はあたたかいコメントをいただけたので調子にのって
また書いてしまいました。
しかし、かなりビクビクです。
こんなのいらないっ!て言われちゃいそうで・・・・・・。
完全、趣味なのでお好きでない方には申し訳なく思います。
必ず本編を同じペースで更新しつつの寄り道編Upにしますので
お許しいただければと思います><
さて次回♪ ☆46☆ 知らないこと
なんとなくすごしていた日常の中にあれってそういう意味があったんだと。
それを3年目にしてやっと気がついて。
しかも、隠しきれていると思っていた秘密も一部の人間にはバレていて。
結局、知らなかったのは自分だけみたいなお話を書こうと思っています。




