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異世界FIRE~平民の幼女に転生したので経済的自立を目指します!~  作者: 青月スウ
第六章 オーディション編

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98. 神の乙女


「神の乙女、ですか?」


「そうだ。今回の神の乙女選定式の運営を君に任せる。こういった催しの運営は君の得意分野だろう」


 二つのモフモフに癒されながら日々を過ごしていると、この間の夜会以降顔を合わせることのなかったヴィクトール王子に突然生徒会室に呼び出され、そのようなことを言われた。

 神の乙女選定式とは初めて聞くが、何かハーリアルに関係のあるイベントなのだろうか、と今頃私の部屋のキャットタワーのお気に入りの位置で昼寝をしているであろう白い毛玉の片割れのことを思う。


「それだけの情報ではお返事いたしかねます。資料を持ち帰り、内容を確認した上でお答えしてもよろしいでしょうか」


 詳しい説明を王子に求めても無駄なので、自分で資料を確認するからやるかどうかはその後返事すると伝えると、思ってもみない返事だったのか王子は目を丸くしていた。

 今までは王子の命令に肯定の返事をする人しかいなかったんだろうな。

 学園魔法剣技大会の時は、リュディガーに一泡吹かせてやりたくて受けることにしたが、そもそも私には王子の命令だろうと断る権利があるのだ。


「そ、そうか。色よい返事を期待している」


 一応王子にはそれでオッケーを貰ったので、神の乙女関係の資料を借りて帰ることにした。

 寮までの道中、側近達に神の乙女について知っているか聞いてみたけれど、皆見当がつかないようで首を傾げていた。

 詳しい情報を齎してくれたのは、寮で私たちを出迎えた筆頭側仕えのイングリットだった。


 イングリットによると、神の乙女というのは十年に一度学園の女生徒の中から選ばれた一人に与えられる称号の事だという。各寮で選ばれた代表一名ずつが歌で競い合い、その中で一番優れている者が神の乙女となるのだそうだ。

 その神の乙女を選ぶオーディションイベントの運営も生徒会の仕事らしい。


 神の乙女に選ばれると、状況によっては王族と結婚することができたりと、とても良い条件の結婚が望めるのだそうだ。なんと、既に決まっている婚約者を退けてその座に納まった人もいるらしい。

 たとえ神の乙女に選ばれなかったとしても、候補者になっただけで名前に箔がついて婚活でかなり有利になるそうなので、この神の乙女選定式は女生徒にとっては重要な婚活イベントなのだとか。その為、神の乙女選定式に出るために学園に在籍する時期を合わせる人もいるとのことだ。


「既に決まっているお相手を押しのけることができるなんて、神の乙女というのはどうしてそこまでの権力があるのですか? 歌が上手な方の称号なのでしょう?」


「……神の乙女という名称にはなっていますが、実際のところは聖女という扱いになるのです。形式的には聖女は王に次ぐ立場とされ、かなりの発言力を持つことができると言われています」


 イングリットの言葉に、側近たちの視線が私に集中した。


「十年に一人決まりますし、もちろん実際にはそこまでの権力はなく政治的な発言力もございませんが、貴族女性としてはかなり高い地位となります。最後の聖女がいなくなってから約千年、神が歌を好んでいたという伝承から、いつからか歌唱に優れた若い女性を疑似聖女として扱うようになったのです」


 イングリットはそう言うと、気まずそうな顔をして私の足元でミルとじゃれ合いながらコロコロと床を転がっている白い毛玉を見つめた。

 なんと神の乙女選定式とは、現代のポスト聖女を決めるオーディションであるらしい。


「ハーリアル様が歌を好んでいるというのは間違っていませんね。本人がそう言っていましたから」


 自分が注目されていることを感じたのか、子猫サイズのハーリアルはよじよじと私の膝の上に上り、「なになに? 今、我のこと呼んだ?」とでもいうようにきょとんと見上げてきた。可愛い。


「学園で歌を披露する催しがあるそうです。楽しみですね」


 そう言うと、心なしかハーリアルの目がキラリと輝きわくわくしているように見える。

 あごの下を撫でるとハーリアルはゴロゴロと喉を鳴らしてくつろぎ始めた。

 猫っぽさが堂にいっている。


 ハーリアルを膝の上に乗せたまま、借りてきた資料に目を通す。

 神の乙女選定式は学園開催ではあるけれど、宗教色の強いイベントなので開催費用は教会から出るようだ。

 選定式本番以外に、外部から講師を招いた候補者全員参加の合同練習が本番前は毎日のようにあるらしく、その練習スケジュールの管理や候補者のサポートが運営の主な仕事となる。

 今回のイベントは入場料も取らないし、商売要素がないので私には何のうまみもなさそうだ。

 これはお断りかなぁ、と考えながら資料のページを捲ると、読めているのかはわからないが私の膝の上で資料を覗き込んでいたハーリアルの毛がブワァッと膨らんだ。


「ハーリアル様? どうしたんですか?」


 ハーリアルは私の問いには答えず、資料のある一点を睨みつけ、フシャーッと威嚇している。

 一体どうしたのだろう。

 訳が分からず困惑していると、ハーリアルの身体が光り、瞬く間に人型に変化した。


「リリー、これは、隷属の魔導具だ。それも我を一時でも支配できるほどの強力な」


 そう言ってハーリアルが指さしたのは、資料に描かれていた腕輪だった。


「隷属の魔導具って、千年前の王様が当時の契約者を騙してハーリアル様につけさせたっていうあれですか?」


「そうだ。我を拘束した実物は引き千切ったので全く同じものではないだろうが、見た目はそのままだ。間違いない。我が見間違えるものか」


「この腕輪は、選定式で神の乙女に選ばれた人に授与されるもののようですが、そんなものがなぜ……」


「リリー、これはあってはならないものだ。すぐにこれを壊すのだ」


 ハーリアルはいつもののほほんとした雰囲気とは打って変わって、とても真剣な顔つきをしている。

 彼の言うことが本当ならとても危険だしなんとかしたいが、資料によるとこの腕輪は任期を終えた前回の神の乙女から王都の教会に返却され、選定式まで厳重に保管されているのだそうだ。

 私たちがこの腕輪を手に入れるためには、神の乙女に選ばれて正式に勝ち取るしかない。


 神の乙女を我が北の寮から輩出するため、レオンとユーリの知恵も借りようと、領主一族専用の談話室に彼らを呼び出し作戦会議をすることにした。


 なにごとかと談話室に入室してきた彼らは、上座に足を組んで座り、頬杖をついてにこにこと楽しそうにしているハーリアルを見て固まっていた。

 あ、そういえば、ハーリアルが今私の部屋に居候していることを言うのを忘れていたかもしれない。

 突然見慣れない全身白くてちょっと光っている人外レベルに美しい存在が部屋にいたら、そりゃあびっくりするだろう。


「レオン兄様、ユーリ。こちらの方は怪しい者ではありません。この方はハーリアル様。神様です」


「「は……?」」


 余計に固まってしまった。


 しばらくして硬直が解けたらしいレオンがハーリアルの前に跪いた。


「神よ。初めてお目に掛かります。ヴァルツレーベン辺境伯が長子、レオンハルト・フォン・ヴァルツレーベンと申します。まさか、神に拝謁できる幸運がこの身に訪れるとは、恐悦至極に存じます」


 レオンの隣にユーリも慌てて膝をついた。


「ユリウス・フォン・ヴァルツレーベンと申します。お会いできて光栄です」


「おお! 其方らが! リリーから話は聞いておるぞ! レオンは我が眷属であるミルによく貢物を捧げているという。ミルは喜んでおったぞ。我からも礼を言う」


「も、もったいないお言葉です」


「ユーリは、リリーの商売をよく助けてくれると聞いておる。二人とも、これからも我が眷属とその契約者に良くしてやってくれると嬉しいぞ」


「「はっ!」」


「其方らはリリーとミルの良き友だ。くるしゅうない、楽にするがよい」


「は、はぁ……」


 ハーリアルのフランクな態度に二人は面食らっているように見える。

 ユーリのこんな顔は実は結構よく見るが、いつも飄々としているレオンが戸惑っている姿は初めて見るかもしれない。

 びくびくとハーリアルを気にしながら二人も席に着き、落ち着いたところで集まってもらった理由を説明した。

 

「呼ばれた理由は理解した。確かにそんな危険な物を野放しにはしておけないな。でも俺も神の乙女選定式に関しては良く知らないんだ。各寮の代表者というのは、どうやって決まるものなんだい?」


 だいぶ調子を取り戻したレオンが話を向けたのは、イングリット含む成人済みの側仕えたちだ。


「代表者の決め方は寮によって違いますが、寮で一番身分の高い令嬢が選ばれることが多いと存じます」


「え……」


 サァッと血の気が引いた。

 寮で一番身分の高い令嬢といえば、私のことじゃないか。


「む、無理です。歌、本当に苦手なんです。わたくしでは神の乙女に選ばれるなんて、絶対に無理だと思います」


 パタパタと手を振って必死に力不足を訴えると、レオンが苦笑して口を開いた。


「神の乙女の成り立ちから言ったら、聖女であるリリアンナがその称号には一番ふさわしいはずなんだけどね。領地で歌の授業を受けている様子を見たことがあるけど、確かにリリアンナには不向きな任務だと言わざるを得ないかも……」


 まさか、毎回先生に頭を抱えさせてしまっていたあのレッスンをレオンに見られていたというのか。猛烈に恥ずかしいし、結構失礼な事を言われている気もするが、どうあっても私には無理でしかないのでレオンの言葉にブンブンと首を縦に振る。

 というか、なぜこの世界は貴族令嬢の必修スキルに歌が入ってくるのだ。別に歌が下手でもいいじゃないか。


「いいえ! やってやれないことはありません! リリアンナ様、今から特訓して勝利をその手に掴みましょう! 私も協力いたします!」


 クリストフがキラキラ笑顔で熱いことを言っているが無視だ。

 私が神の乙女選定式に挑むのは、ヨナタンがエベレスト登頂に挑戦するようなものだ。

 人には向き不向き、適材適所というものがある。


「リリー、我はリリーの歌も素朴で好きだぞ……?」


 ハーリアルが励ましてくるが、その可哀そうなものを見る目をやめてほしい。

 思わずジトリとした目を向けてしまう。


「普通、“素朴”と評されるような実力では、今回のように歌唱力を競い合う場では勝てないと思います」


「う、そ、そうか……」


「寮で一番身分の高い令嬢が選ばれる“ことが多い”というならば例外もあるはずです。その他にはどんな選び方があるのですか?」


 私では絶対に無理なので、その他の選択肢を推したい。


「寮によって決め方が違うなら、神の乙女になれそうな実力の候補者を僕たちで選べばいいんじゃないの?」


「そうできれば良いのですけれど……歌の専門的な良し悪しなんて、正直わたくしには判断がつきません。どういった技術が求められるのかも存じませんし。レオン兄様やユーリはわかるのですか?」


「「……」」


 その沈黙が答えだった。

 そもそも、武を貴ぶヴァルツレーベンでは、芸術方面に強い人材は中々いないのだ。

 三人でどうしたものかと首をひねっていると、イングリットがポンと手を打って思い出したように言った。


「では、デュッケ夫人に審査をお願いするのはいかがでしょう? たしかあの方は、神の乙女の候補者になった経験がおありのはずです」


 その一言で、デュッケ夫人を審査員とした、北の寮の女生徒(私以外)は強制参加の神の乙女候補者オーディションが開催されることが決定したのだった。

 




学園のど自慢バトル、開幕!

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