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異世界FIRE~平民の幼女に転生したので経済的自立を目指します!~  作者: 青月スウ
第四章 スキルアップ編

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58. 神の怒り

 「長い年月をかけて、代を重ねるごとに人々は少しずつ魔力を失っていった。人の手で自分達の為に作られたはずの魔導具すら起動できなくなるほどに。数少ない神の怒り以前の記録によると、当時の人々は、現在では考えられないほど強大な力を行使していたことが推察される。結界の魔導具を作った者は、まさか自分の子孫が満足に魔導具を使えないほどに魔力が低くなるとは思っていなかったのだろうな」


 結界の魔導具への魔力供給が終わり、城の外に待機していた者に結界が正常に起動したことを確認すると、お養父様の執務室に戻り、改めて諸々について説明してもらった。


 「本来なら、結界の魔導具に魔力を注ぐのは領主である私一人の仕事だ。だが魔導具を維持するほどの魔力をたった一人で賄うのは難しくなり、数代前から魔力を供給する人数を増やし、現在では成人した領主一族が一丸となって魔力を注いでいる。しかし、それでも注いだ魔力よりも消費される魔力の方が多く、ここ数年で村の小さな結界から機能を失い始めた」


 興奮がおさまりおどおどした態度に戻ってしまったフュルヒテゴッドの注釈によると、城にある結界の魔導具は電話の親機、各村に置いてあるのは子機のような物らしく、親機に魔力を注げば子機にも流れていき、魔力が少なくなると子機の方から機能を停止するようになっているそうだ。

 機能を止めた子機の方も、魔導具自体が壊れたわけではなく、最初の起動だけ私が直接魔力を注げば、その後は城の親機に魔力を注ぐだけで、半永久的に結界が維持されるらしい。

 私の護衛体制が整い次第、辺境の村を訪れて子機を起動して回る旅が始まるのだと言われた。


 「最後の手段として全ての辺境貴族に結界の魔導具の扉を開き、全員で魔力を注ぎ込むしかないかと考えていたところ、其方が現れた。其方が、今我々が抱える全ての問題を、瞬く間に解決してしまったのだ。おかげで最後の手段に踏み切らずに済んだ。ありがとう」


 「それはどうしてですか? みんなでやった方がお養父様の負担も減るんじゃ……」


 「いや、できることならば多くの者が結界の魔導具に触れられるようにするのは避けたかった。結界は村の小さなものから徐々に力を失うことは先程説明したな? だが今回、まだ結界が機能している村があったにも関わらず、本体であるこの街の結界が崩壊した。しかもそのタイミングでスタンピードに竜の襲来だ。その不自然さには何者かの作為を感じる」


 お養父様は膝の上に置いた両手の拳をギュッと握った。

 右手の人差し指にはめられた大きな石のついた指輪がギラリと鈍く光ったように見えた。

 今はどうでもいい事だが、ユーリがいつもつけている指輪とお揃いの意匠だ。


 「ここ数年で、我が領で不穏な動きをする者がちらほらと現れ始めた。其奴らは領地外から来た者だけではなく、この地で生まれ育ち、実直に働き故郷を愛し、私も信頼を置いていた者でさえ、人が変わったように問題を起こすようになってしまった。一つ一つは些細なことでも、それらが集まれば、領地の基盤が揺らぐような大問題となる。まるで領地を内側から崩壊させることが目的のようなそれも、おそらく誰かが裏で糸を引いているのだろう。そして、それは此度の事件を起こした者、ひいては其方の誘拐を目論んだ者と同一人物であると、私の勘が言っている」


 お養父様の顔が、もはや般若のようになっている。

 あまりの怒気に背筋が震えるのを感じ、温もりを求めて私の膝で丸くなっていたミルを抱きしめた。

 こんなに怖い人に敵対するなんて命知らずなことをしているのは一体どこの誰だ。


 「どこに敵の息のかかった輩が潜んでいるかわからぬ状態で、領地の宝である結界魔導具を広く開放する事は大きなリスクを伴うのだ。我が領を崩壊させるように動く敵のやる事だ、最悪魔導具を破壊される可能性もある。其方の側近の選定に慎重になっているのもその為だ。選定が終わるまでは私や妻、息子達の側近から信頼できるものを共有する形で向かわせる予定になっている」


 「そんな、私は元々平民で側近なんていませんでしたから、二人でも多いくらいです。自分の事はなるべく自分でできるようにがんばりますので、そこまでしていただかなくて大丈夫ですよ」


 「そういうわけにはいかぬ。其方は最早、ヴァルツレーベンにとって最大の宝なのだ。其方を失うことそれ即ち領地の終わりを意味する。己の重要さを、どうか理解してほしい」


 ……そうは言っても、こちとら根っからの庶民なのだ。領地の重要人物ですと言われても急にその自覚を持つのは難しい。

 私、これからちゃんとやっていけるのかな……。


 「それで、神の怒りというのはなんなんですか?」


 「この国は、千年前に一度滅びているのだ。詳しくはわからぬが、何らかの理由で神が怒り狂い、神の権能の一つであるケラウノスの雷が三日三晩国中に降り注いだのだと伝わっている。その際に国のほとんどが焼け落ち、僅かに生き残った人間達によって興ったのが今のこの国なのだそうだ。神の怒りというのはその三日三晩のことを言う。神の怒りにより多くの知識が断絶し、その前後で文明のレベルに大きな違いがある」


 「それって、絵本にあった…」


 「ああ、子供用の絵本にも神の怒りを描いたものがあるな。あれを読んだのか。大人達の間でもどこまで真実かわからぬ御伽話のようなものだと思われておったが、まさか本当にケラウノスが存在したとは、私も驚いている」


 教訓話かと思っていたが、あれって実話だったのか。

 というか、待てよ?


 「ケラウノスって、竜を倒したあの雷ですよね?」


 「そうだ」


 「あれが国中に降り注いだんですか?」


 「そう言われている」


 「三日三晩?」


 「ああ」


 えええ、そんなの、怖すぎる!

 一撃であの威力だったのに、それが国中に、三日三晩!?

 それはもう死の三日間じゃないか。


 一体何をしたらあの素直な子供みたいなハーリアルをそこまで怒らせることになるんだ……。


 「あの、ちょっとハーリアル様に会いに行ってきてもいいですか? その時何があったのか、聞いてみます。他にも聞きたいことがあるし」


 「…………」


 私の提案にお養父様が目を見開いて固まった。


 「……そうだった。其方は神と対話できるのだったな。あまりに非現実的な内容だったので、少々頭が思考を放棄していたようだ。……しかし、そうか。その方が、神の怒りを起こしたのだよな」


 私の言うハーリアル様と、神の怒りの元凶が結びついていなかったらしい。

 なんだかお養父様が急にポンコツ気味になっている。


 そもそも、本当にハーリアルが神様で合っているのだろうか?

 見た目は確かにそれっぽいけど、中身がちょっと残念というか、他の人から聞く神の話とあまりにもギャップがありすぎる。


 「どのようにして神に会いに行くのだ?」


 「森の奥にハーリアル様のお家があるので、ミルに乗って飛んでいきます。私とミルはいつでも遊びに来ていいと言われているので」


 というか、遊びに行かないと拗ねちゃうんです。


 「むぅ。其方を一人で行動させたくはないのだが、それでは護衛をつけるのも難しいな」


「行き先は森の奥深くですし、そんなところにさすがに人はいないと思うので危なくはないと思います。行き帰りは空ですし、ミルの気配に怯えて魔物も寄ってこないそうなので」


 「……それもそうだな。念の為、城の一番高いバルコニーから飛び立ち、なるべく高いところを飛んでいくように。死んだことになっている其方の顔を平民に見られるわけにはいかぬし、地上から矢を射掛けられぬとも限らんからな」


 「わ、わかりました」


 発想が物騒である。

 ハーリアルのリボンがあるので大丈夫なはずだが、なるべく高く飛ぶようにしよう……。




 ドレスでミルに騎乗するのははしたないとのことで、急いで子供用の乗馬服を用意してもらい、同時進行でハーリアルへの手土産も準備してもらった。

 お土産は最高級のブラシと、この間美味しいと喜んでいた桃のドライフルーツだ。

 レオンからもらったものがとても美味しくて気に入っていることを話したのだが、なんとあれはお城の料理人の手作りだったらしい。

 お城のお抱えシェフによる渾身の一品……どうりで美味しいわけである。

 レオンがミルにプレゼントする為にたくさん作るように言われていたので在庫はいっぱいあるそうで、ハーリアル用に快く包んでくれた。


 ちなみに、私の好物が桃だということは関係者内でとっくに共有されていて、ブリュンヒルデ様からのお礼が桃のタルトだったり、最初に出された紅茶が桃のフレーバーだったのはそういうことだったらしい。

 やましい事は何もないが、自分の知らない間に注目されていたと知って、少々気恥ずかしい。


 桃のドライフルーツの包みをイングリットから渡された時、匂いで中身がわかったのか食い意地の張ったミルが「みー! みー!」と纏わりついてきた。

 いつものように「めっ!」と躾けていると、メイドさん達が「神獣様に対してそのようにぞんざいな態度でよろしいのでしょうか」とおろおろしていたので、ミルが欲しがっても私の許可なしに絶対に与えないようにと伝えておいた。


 私はただ甘やかすだけの飼い主ではないのだ。

 ただでさえ毎日魔力をいっぱい食べているのに、お菓子まで好きなだけ食べたらデブまっしぐらである。


 くれないとわかったのか、不貞腐れたようにそっぽを向いて丸くなってしまったので、その背をよしよしと撫でながら「これはハーリアル様へのお土産だからね。ハーリアル様がいいって言ってくれたら少し分けてもらおうか」と慰めた。


 ……なんだかんだ最終的に甘やかしてしまうのは、ミルが可愛すぎるせいなのでしょうがない。




 「神にくれぐれもよろしく頼む。……それとできれば、我々に望むことがないか尋ねてくれぬか?」


 「望むこと、ですか?」


 「ああ。二度目の神の怒りを引き起こすわけにはいかぬからな。ヴァルツレーベンの民は神に敵対しないこと。そして神が我々に求めることがあるなら聞き入れるつもりであることを伝えてほしい」


 「わかりました。でも、そんなに怖がらなくても、ハーリアル様は優しいので大丈夫だと思いますよ」


 「……其方の言葉通りであれば良いのだが。気を付けて行ってこい」


 出発準備が整い、お城の一番高い位置にあるバルコニーにやってきた。

 お養父様やその護衛騎士、私の側近二人もお見送りに来てくれた。

 乗馬服に着替えた私の腰には、革製のウエストポーチが巻かれており、その中には手土産のブラシとドライフルーツ、そしてお城の料理人が超特急で焼き上げてくれた焼き菓子が入っている。


 「リリアンナ様、お供できず申し訳ございません。どうか、お気をつけて」


 まるで私が死地に赴くかのような悲痛な面持ちで、アードルフが苦しそうに声をかけてきた。

 知り合いの家に遊びに行くだけで大袈裟だな。

 ここで私が「必ず帰る」などと言おうものなら盛大な死亡フラグが立つ気がしたので、こくりと頷くだけにしておいた。


 「いってらっしゃいませ、リリアンナ様。無事のお帰りをお待ち申し上げております」


 イングリットがその場で跪いてそう告げると、お養父様以外のその場にいた人達が同じように跪いた。

 こういう扱いをされることにはやはりまだまだ慣れない。


 成獣化したミルに跨り、「いってきます」と言ってお城のバルコニーから大空に飛び出した。






 あの……もしかして、令和では電話の親機子機って伝わらなかったりするのでしょうか?

 まだ、大丈夫ですよね……? ((((;゜Д゜))))ガクガクブルブル

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