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異世界FIRE~平民の幼女に転生したので経済的自立を目指します!~  作者: 青月スウ
第二章 新規事業編

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24. 新事業プロジェクトチーム発足

 誤字報告頂いた方、ありがとうございます!

 修正させて頂きました。

 「この資料は君が作ったのかね?」


 しばらく無言で考え込んでいたデニスがようやく口を開いた。

 就活の合否判定の時のようにドキドキして待っていた私は慌てて返事をする。


 「は、はい、そうです」


 「思った以上によくできている。正直君のような子供にどれほどの事ができるかと思っていたが、多少甘い部分はあるものの上手く要点を押さえられているな。ユーリ、ずいぶん面白いガールフレンドを連れてきたね」


 「だから違うって。でもおじさん、じゃあ……」


 「ああ。面白い事業だ。具体的に詰めてみよう。イーヴォ、ヨナタンを呼んでくれ」


 「かしこまりました」


 「え?……あっ、ありがとうございます?」


 や、やった! 採用だ!

 ……採用、だよね?


 私達をこの部屋に案内してくれた敏腕執事っぽい雰囲気の店員さんはイーヴォさんというらしく、ヨナタンという人を呼ぶために静かに部屋を出ていった。


 「君の話とこの資料を見る限り、十分採算のとれる事業になると思われる。もちろん、こちらでも市場調査は行わせてもらうが。その前に、少し金の話をしよう。早すぎるかと思うかもしれないが、大事なことなのでね。後々のトラブルを避ける為にも先に明確にしておきたい。事業はうちの商会が主体となって資金や人員を手配するとして、君には店名とレシピの使用料として金額を決めて支払う形でいいかい?」


 「あ、あの、それなんですが、買取ではなく、利益の数パーセントを定期的に報酬としていただくことは可能でしょうか?」


 「ほぉ?」


 ギロリと眼光鋭い瞳に射貫かれてひるみそうになるが、グッとこらえて見つめ返す。


 ここが正念場だ。勝ち取れ、私!


 「君の店からは店名とレシピの提供だけで、その他は全てうちの商会が担うことを考えれば、それはさすがに過剰な要求だと思わないかい?」


 「商会長さんがそう言うということは、商会長さんもこの事業が継続的に利益を生み出すと考えているということでしょう? 店名やレシピだけではなく、この販売形式を最初に提案した事には大きな価値があると思っています。それに、うちの店では先程食べていただいたハンバーガーが限界でしたけど、こちらの商会の力をお借りできるならば、さらに美味しいものを開発する自信が私にはあります。事業の立ち上げには私も尽力しますし、うちの店からも初期投資にこのくらいなら出せます」


 言いながら、資料の裏にササッと数字を書いてデニスに手渡す。


 「はっ、この程度の金額、ないのと変わらない。出資は不要だ。君の店の強みはそこではないだろう」


 くっ、一生懸命貯めた我が家の貯金を、この程度とは言ってくれる。

 

 「では、その他の強みを見ていただいた場合、どうでしょう?」


 「……出せてこのくらいだな」


 私の書いた数字の下にデニスがサッとパーセンテージを書いてよこしてきた。


 「いえいえ、このくらいはほしいです」


 さらにその下にササッと書き加えて返す。


 「話にならない。せめてこのくらいだろう」


 さらに返されたメモを見てこくりと一つ頷く。


 「はい。では、これでお願いします」


 「……はぁ。君、中々いい性格してるね」


 「ありがとうございます」

 

 よし、大勝利!

 夢の不労所得の第一歩を踏み出したぞ!


 心の中でガッツポーズをしていると、ノックの音が聞こえた。


 「商会長、ヨナタンです。お呼びと伺いました」


 「入れ」


 入ってきたのは、この商会の制服であろう焦げ茶色の服を着た男の子だった。

 うちの従業員のパウルと同じくらいの年齢に見える。

 真っ直ぐストレートの若草色の髪を首の後ろでまとめていて、シルバーフレームの眼鏡をクイッと上げる仕草がなんだか神経質そうだ。


 「ヨナタン、ずっと新規事業に関わりたがっていただろう? 今度新しく始める事業をお前に任せたい」


 「ほ、本当ですか!?」


 「ああ。それで、こちらがリリー嬢。下町の茶色のしっぽ亭という飲食店のご息女だ。新事業はこのリリー嬢と共同で行うことになる。詳しい事業内容については、彼女から聞いてくれ」


 「その子に、ですか……?」


 訝しげにこちらを見るヨナタンを見て、デニスがくすっと笑った。


 「子供だと思って甘く見ない方がいいぞ。現に私は今さっき利益をもぎ取られたところだ」


 「商会長が!?」


 信じられないものを見るような目でこちらを見ないでほしい。

 論理的な話し合いを経て手に入れた正当な権利である。


 「リリー嬢、こっちはヨナタン。若いが優秀なやつだ。事業はヨナタンと具体的に進めてほしい」


 「わかりました。ヨナタンさん、はじめまして、リリーです。嬢はちょっとくすぐったいので、リリーと呼んでください。商会長さんも」


 「そうかい? じゃあリリー、明日からここに通う事は可能かな? その服装でこの辺りを歩くには少し障りがあるだろうから、うちの店の制服を1つ渡すので、それを着てくるといい」


 「明日から通うのは、もちろん大丈夫です。制服はありがたいのですが、今日はちょっと持ち合わせがないので明日でもいいですか?」


 「いや、必要経費だよ。気にしなくていい。それじゃあイーヴォ、倉庫に……」


 「僕もやる」


 「ユーリ?」


 私たちのやり取りを静観していたユーリが唐突に口を開いた。


 「その事業、僕もやる」


 え? ユーリ君が……?


 意味が分からず困惑していると、デニスがユーリの前に膝をついた。

 目線を合わせて諭すように話す。


 「ユーリ……。何に対しても無気力だった君がやる気を出してくれたことは喜ばしい。でも、これは子供の遊びではなく仕事だ。子供にもできそうな簡単な内容を少しだけさせて、君に満足感を与えるような接待はしないよ。やるならうちの見習いと同じく一から仕事を覚えてもらうし、失敗すれば厳しく叱られる。それでもやるかい?」


 「やる」


 頑として意見を変える気がなさそうな様子を見て、デニスはやれやれと肩をすくめ、立ち上がりヨナタンに向き合った。


 「はぁ。そういうことだ。よろしく頼むよ」


 「ちょ、ちょっと待ってください、商会長! 僕は子守なんてごめんですよ!」


 「わかっている。ヨナタン、一度紹介したことがあると思うが、わけあってうちでしばらく預かっている親戚の子のユーリだ。私の親戚だからといって手心を加える必要はない。他の見習いと同じようにビシビシしごいてやってくれ。イーヴォ、お前も手を貸してやってほしい」


 「かしこまりました」


 なぜかユーリのプロジェクトチームへの参加が決まってしまった。


 私が言うのもなんだが、こんなに小さな子を働かせて大丈夫……?


 ただ、この子にはなんだかいろいろ事情がありそうなので、余計な口を挟むのはやめておいた。

 カールハインツ商会と事業ができるようになったのは、ユーリが繋いでくれたおかげだし、何かあって無気力になっていたらしい彼が元気になるきっかけになるのであれば、力になれればいいなと思う。恩返しだ。


 「では、リリーとユーリは見習いの制服をイーヴォから受け取ったら、別室でヨナタンと事業に関して詳しい話をしてくれ。もう日が暮れるので、本格的に動き出すのは明日からにして今日は概要の説明だけでいい。明日以降だが、ヨナタン、まずは事業計画書を作成して私のところに持ってきてくれ。わかっているとは思うが、生半可な計画書に判を押す気はないからな。しっかりと練るように」


 「お任せください」




 そうして私たちは商会長の部屋を後にして、イーヴォから制服を受け取り、サイズがあっているかどうか試着することになった。


 商会では小学生くらいの年の子供も何人か働いていて、家が商会関係などで伝手があり、商会に務めることを希望している子供が見習いという形で雑用などをしながら仕事を覚えていくのだそうだ。

 その見習いの子に支給されている制服を貰えるらしい。


 「わぁ」


 カールハインツ商会の見習いの制服はカチッとした白いブラウスに焦げ茶色のチェック柄のスカート、それと同じ色のリボンタイだ。

 前世の学生服みたいで可愛い。


 シンプルながらも仕立てがよく、丈夫そうな生地でできていて、リリーが身につけるものとしては生まれてから今までで一番上等な服と言えるだろう。


 テンションが上がってきて鏡の前でくるりと一回転した。

 斜め後ろからくすりと笑う声が聞こえ振り向くと、イーヴォが微笑ましそうにこちらを見ていた。


 み、見られてた。恥ずかしい……。


 笑い方にも品があって、デニスにも思ったことだけど、私の周りのマッチョおじさん達とは人種が違うように思えてくる。


 「よくお似合いですよ。一番下のサイズで丁度良さそうですね」


 「こんなに良いお洋服、本当に頂いてしまっていいんですか?」


 「商会長も仰っておられましたが、必要経費ですよ。お気になさらず。ブラウスは洗い替え含めて三着お渡しするので、着回してください。破れたり汚れてしまった時はまた替えを渡しますが、なるべく大切に扱うよう心掛けて下さいね」


 「わかりました。気を付けます」


 転んで泥だらけにしないように気を付けないと、と気合を入れていると、かちゃりとドアの開く音がして、同じく別室で着替えていたユーリが制服を着て入ってきた。


 男の子用の制服は同じく白いシャツに焦げ茶色のスラックスとベストだ。さっきまでの短パンにブラウスは可愛いらしいって感じだったけど、こっちは男の子って感じでこちらもよく着こなされている。

 さすが、顔が良いとなんでも似合うなぁ。


 「男の子の制服もかっこいいね。似合ってるよ」


 「別に、普通でしょ」


 ユーリはぷいとそっぽを向いた。


 なんか猫みたいな子だな。

 客に魚のしっぽをよこされてそっぽを向いていたミルの様子を思い出した。


 「そちらもサイズは良さそうですね。ユーリ、これからは見習いと同等の扱いになるので、呼び捨てにします。貴方は私の事をさん付けで呼び、敬語を使うように。いいですね」


 「……わかりました。イーヴォさん」


 「……まぁ、今のところはそれで良いでしょう。今後はお客様の対応をする機会もあるかもしれません。この店の従業員としての立ち居振る舞いを学んでいきましょうね」


 ユーリはムスッとしていたが、イーヴォに反論するようなことはなく素直に受け入れていた。

 お坊ちゃんとして周囲から丁重に扱われて当然の立場っぽいのに、わざわざ見習いの立場になってまで、どうして急に事業に関わろうと思ったんだろう……?




 続きは明日!



 お読みいただきありがとうございます。

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