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異世界FIRE~平民の幼女に転生したので経済的自立を目指します!~  作者: 青月スウ
第六章 オーディション編

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99. 選考会と顔合わせ

 領地に手紙で状況を報告すると、お養父様は「そのような国を揺るがしかねない危険物は、北の寮生が一丸となって可及的速やかに回収し、破壊せよ」という指令と共に、すぐさまデュッケ夫人を寮に派遣してくれた。

 かくして、学園の音楽室を借りて、神の乙女候補者選抜即席オーディションが行われることとなった。


 まずは北の寮所属の女子生徒たちには領主からの指令があることを伝え、選抜オーディションへの協力を要請。こちらで勝手に分けたグループごとに時間をずらして集まってもらった。ただ隷属の魔導具に関してはどこから情報が洩れ悪用されるかわからないので情報を伏せるしかなく、なぜこのような指令が下ったのかと集まった女子生徒は困惑気味な様子だった。

 参加者は教室の前に設置した椅子で待機の後、名前を呼ばれた生徒から入室し、各自得意な歌を披露する。その際の誘導スタッフは私の側近たちだ。


「では続きまして、エリーザ・ブロン様、中にお入りください」


 イングリットに名前を呼ばれ入室してきた令嬢は、資料を手にしたデュッケ夫人、レオン、ユーリ、私の前に立たされてビクッと肩を揺らした。

 寮のトップ三人と眼光鋭いデュッケ夫人に注目されて、そりゃあびっくりするよね。ごめんね……。


 次々に女生徒たちが歌を披露しては退室していく。

 先にも述べたがなんとこの世界、歌が貴族令嬢の必修科目となっている。令嬢たちは幼い頃よりレッスンを受けているので、実力に多少の違いはあれど皆それなりに歌うことができるのである。

 なぜ貴族令嬢に歌が必須なのかとずっと疑問に思っていたけれど、もしかしたら神の乙女選定式が関係しているのかもしれないとイングリットの説明を受けて気が付いた。神が歌を好んでいたという言い伝えからきている行事のようなので、ハーリアルが直接的に望んだわけではないだろうけれど、彼のことを少々恨みたくなる気持ちになってしまう。

 ちなみに歌に関しては私もレッスンを受けてはいたが、歌だけではなくダンスも苦手な私は、デビュタントのダンスを乗り切ることに全力を注いでいたため、歌の方の腕前は推して知るべしである。


「不合格」

「はい」


「不合格」

「はい」


「不合格」

「はい」


 令嬢たちに一人一人歌を披露してもらった後、彼女たちがいなくなった会議室で、ひたすら令嬢の資料に不合格の判を押していくデュッケ夫人。

 私はその隣で判を押された紙を回収していく。


 私から見たら皆上手だったのだが、デュッケ夫人の評価はほとんどが不合格で、審査基準はかなり厳しく思える。

 ただ今回は単に寮の代表を決めるのではなく、他寮の代表者を押しのけてトップに立たなければならないので、求められるレベルが高くなるのは仕方がない。


「伸びしろという意味で見どころがあるのはこちらの三名のみですね」


 最終的にデュッケ夫人のお眼鏡に叶ったのはたったの三人だった。

 それも、現時点での力量では合格基準に達しておらず、努力次第では可能性がある、という評価だ。


「最も重要なのは歌の力量ですが、神の乙女選定式においては、外見や身分が良いに越したことはございません。同じ技量の候補者がいた場合、それらの要素がより良い方が選ばれます。そういった意味で三名の中で最も適しているのは、クラウディア・シュティール嬢かと存じます」


「わたくしですか?」


 自分の出番を早めに終えて、運営スタッフとしてお手伝いをしてくれていた私の側仕えのクラウディアだったが、急に名前を呼ばれて目を丸くしている。

 確かに、クラウディアの歌は声がのびやかでとても安定していたし、実家も伯爵家で北の寮では辺境伯家の次に身分が高く、何より誰もが認める美少女だ。これはいけるかもしれない。


「クラウディア。わたくしに歌の才能がなかったばっかりに負担のある役目を押し付けることになってしまい本当に申し訳ないのですが、わたくしもできる限り協力しますので、できれば引き受けていただけないでしょうか……」


「リリアンナ様……。かしこましました。わたくしに勤まるかはわかりませんが、リリアンナ様のお役に立てるのでしたら、精一杯がんばります」


 クラウディアは可憐で可愛らしい笑みを浮かべて請け負ってくれた。

 今思えば、クリストフじゃなくてクラウディアの笑顔を参考にすればよかったのに、昔の私はなぜクリストフの方で練習してしまったのだろう。

 過去の自分の選択を悔やんでももう遅い。クリスマイルは私の表情筋にすでに刻み込まれてしまっているので簡単には変えられないのだ。


「クラウディア。君なら神の乙女に選ばれてもおかしくないと思ったよ。選定式当日を楽しみにしている。がんばってね」


「みゃーう」


「あ、ありがとうございます。がんばります!」


 憧れのレオンに、褒め言葉と共にパチッとウインクを貰ったクラウディアは頬をバラ色に染め照れている。

 実は審査員に混ざって最初からここにいた子猫サイズのハーリアルもレオンの言葉に賛同するように一鳴きしたのだが、全く耳に入ってこないようで一心にレオンを見つめていた。まさに恋する乙女といった様子だ。


 クラウディアが北の寮代表を引き受けてくれたので、私も神の乙女選定式の運営を引き受けることにした。

 最終的に神の乙女を選ぶのは教会のお偉いさんなので私に決定権はないのだが、大変な役目を引き受けてくれたクラウディアが少しでも成長しやすいように練習環境を整えたり手厚くサポートするつもりだ。

 私は私にできることで任務遂行のためにがんばるのである。




 生徒会に各寮の代表者の申請が出揃ったところで、候補者たちと運営委員会(本来なら生徒会役員全員参加だが、例によって今回は私一人)、教会関係者で顔合わせを兼ねた懇親会が開かれることとなった。

 教会のトップである教皇が食事に招待して下さるとの事で、候補者四名と私、引率として生徒会の顧問の先生の六名で王都の教会へと向かった。もちろん側近の護衛騎士見習いたちも一緒に。


 今回初めて知ったが、生徒会には顧問がいたらしい。

 ボダルト先生という、おだやかで真面目そうな年配の女性の先生だ。乙女ゲームにありそうな、実は王の弟とかの裏事情がありそうなイケメン先生じゃなくて良かったと思う。(ネット小説由来の乙女ゲー転生知識からいくと、特定の生徒をひいきしそうな気がするので……)


 教会の食堂に案内され、各自席につく。食堂と言っても晩餐室とでもいうような非常にゴージャスな部屋だった。

 私たちの間に会話は特になく、無言のままひたすら主催の教皇が現れるのを待った。


「皆様、よくぞ参られました。本日は肩の力を抜いて、ごゆるりと食事をお楽しみください」


 しばらくして現れた教皇がにこやかに挨拶をする。

 聖職者というと清貧な生活を送っているイメージだが、何というか国王と同じようなダルっとした体形をしていて、教会によって用意されたテーブルの上の料理のように豪勢な食事を日頃から食べていそうだ。前世、近所のお蕎麦屋さんの店頭に置いてあった狸の置物にちょっと似ている。

 脂下がった笑みで品定めをするかのようにジロジロと候補者の女の子たちに不躾な視線を送っているのが何とも嫌な感じである。

 教皇の後に続いて、候補者たちの自己紹介が始まった。


「ビュヒナー子爵家のアガーテと申します。選定式の候補に選ばれて光栄です。神の乙女になれるかはわかりませんが、自分にできる精一杯の歌を歌いたいと思います。よろしくお願いいたします」


 西の寮代表は、アガーテ・ビュヒナー子爵令嬢、十七才。

 メラニーと同じ褐色肌に黒髪黒目で、ウェーブがかった髪は低い位置で一つにまとめられ眼鏡をかけている。一見地味になりそうな要素だが、背が高くて姿勢がいいのでどこか目を引くスレンダーな美人さんだ。

 西の寮の代表は毎回身分に関係なく完全に実力で選抜されるらしいので、この人も相当な実力者なのだろう。


「シュ……キュッテル伯爵家、ベアトリクスですわ。神の乙女になるためだけに、これまで研鑽を重ねてまいりました。必ず選ばれてみせます。よろしくお願いいたします」


 キュッテル伯爵令嬢は教皇に向けていた華やかな笑顔を消し、最後に候補者たちと私を牽制するようにキッと睨みつけてから自己紹介を終えた。

 南の寮代表は、ベアトリクス・キュッテル伯爵令嬢、十六才。

 元シュヴィールス公爵令嬢である。

 父親や兄と同じくくすみのある金髪にエメラルド色の瞳、短めに切りそろえられた前髪の下の眉毛がキリッとしていて気の強そうな印象を受ける。

 真っ赤なドレスを着ていてとても派手だが、それが彼女の雰囲気によく似合っていた。

 父親のせいでシュヴィールス公爵家は取りつぶしとなったが、彼の最期の望みで貴族として存続できることになったリュディガーとベアトリクスの兄妹は事件の後に母親の実家であるキュッテル伯爵家に引き取られ、休学していた学園に最近復学したらしい。(母親は二人が幼い頃に既に亡くなっているそうだ)

 父親が犯罪者になったことで肩身の狭い思いを強いられているのではないかと思うが、そんな素振りは表に出さず、胸を張って堂々としているところがかっこいいと思った。

 シュヴィールス公爵家が取りつぶしになる前なら、南寮の代表は確実に彼女だっただろうが、正直今回は別の人が代表で出てくるものだと思っていた。

 しかし、結果として代表に選ばれたのはベアトリクスで、これまで神の乙女になる為に磨いてきた実力と、積み上げてきた周囲の者からの信頼がそうさせたのだという。

 彼女も、かなり手ごわい相手になる事が予想される。


 不躾に見すぎたのか、顔を上げたベアトリクスと目が合いギロリと睨まれてしまった。

 彼女の父親が捕まることになった元凶は私ともいえるので、いい感情を持たれるわけがなかった。


「えっと、ポシュナー男爵家のフローラです。まさか、私なんかが神の乙女の候補に選ばれるなんて夢にも思っていなくて、とっても驚きました。でも、一生懸命がんばるので仲良くしてくれるとうれしいです。よ、よろしくお願いしますっ!」


 東の寮代表は、なんと例のフローラ・ポシュナー男爵令嬢だった。

 彼女は緊張した様子だったが、元気よく頭を下げにぱっと屈託のない笑顔で笑った。さすがヒロイン(仮)、愛嬌のある可愛らしい仕草である。これはあざと可愛い。

 毎年の候補者の中でも特に南と東の寮は身分の高い者が選ばれる事が多いと聞いていたから、まさか彼女が出てくるとは思わなかった。

 カイン情報で、東の寮代表の選考には南の寮の意向が大きく関わってくるらしいという話もあったので、何かしらの南寮の思惑が絡んでいるのかもしれない。

 それかヒロインパワーで高位貴族の令嬢たちを押しのけるほどの実力を持っている可能性もある。

 こちらも一筋縄ではいかなそうだ。


 最後にクラウディアの自己紹介が終わり、会食が始まった。

 四人の候補者たちを改めて見てみると、スレンダーなかっこいい系美女のアガーテ、華のあるゴージャス美人ベアトリクス、愛嬌があり野の花のように明るく親しみやすい美少女フローラ、ふんわり可憐な癒し系美少女クラウディアと、四者四様のそれぞれ違った魅力の美しさを持っている。この四人でアイドルグループを組んだら覇権間違いなしのビッググループになるに違いない。

 この子たちでたったひとつの椅子を奪い合って戦わなければならないことが残念に思えた。




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