Flag133:ドワーフ自治国へ向かいましょう
それからセドナ国で過ごすことおよそ1週間。慌ただしい日々が続きました。
どのような武器があるのかなどの研究をするためにエルフの方が入れ替わり立ち代わりやってくるので船の一部を常時開放し映画をいつでも見ることが出来るようにしたのですが、本当に1日中誰かしらがテレビの前に陣取ることになるとは思いませんでした。警備の獣人の方々には少々申し訳ないことになってしまいましたね。
非常に研究熱心と言えば聞こえは良いのですが、一部には映画を見ることを目的にしているような方も見受けられました。主にアイリーン殿下などですが。
私はと言えば契約によって入国することが出来るようになりましたのでキノコで作られた不可思議な町をトリニアーゼさんの案内で軽く散策し、主目的である船に積む魔道具と魔石の購入を行いました。時間があれば観光してみたいところではあったのですが流石に今はそんな暇はありませんからね。まあ入国許可は契約が続く限りは有効ですし、ひと段落したらまた来ればよいでしょう。
船に積む魔道具はさすが魔道具作成を主産業にしている国と言うべきか船の防衛に使えそうなものから何に使うのかよくわからないものまで各種取り揃えられていました。値段もノルディ王国やランドル皇国の6掛け程度でしたのでかなり安くしていただけたようですしね。まあここまで安いのは今回限りと言う話ですが。
良い機会ですのでエリザさんやミウさん、マインさんなどと相談しつつ必要そうな魔道具を大量に購入しました。大砲などに備えるための物理攻撃を防ぐ結界が最も高価でしたね。展開しているだけでかなりの魔石が必要とのことですので常時使用できるものではありませんが非常に有用ではあります。どの程度の効果なのかを確かめる必要がありますのでどこかで実験をしてみなければいけませんが。
こちらからの迎撃用の武器としてはアル君が使う魔法のように水の玉や火の玉などを飛ばす杖などがあったのですがフォーレッドオーシャン号にも既に搭載されている魔法を打ち消す結界で消えてしまうそうですのであまり使えるとは思えません。一応いくつか購入はしましたが使う機会はないかもしれませんね。
むしろ漁師用に開発されたがほとんど売れなかったという小さく折りたたまれた網が放射状に広がって飛んでいく魔道具などの方が色々と使い道がありそうです。こちらは安かったですしあるだけ購入しました。
他にも役立ちそうなものは購入しておきました。使い勝手の良い物があればまた購入に来れば良いでしょう。想定外のものが実際には役に立つと言うことは往々にしてありますからね。
しかし魔道具を見て回った感想としては偏っているなと言ったところでしょうか。あくまで外部に出しても良いものしか見せてもらえていないのでしょうから当たり前と言えば当たり前なのですがね。ノシュフォードさんが使用していたと思われる姿かたちを変えるような魔道具などどこにもありませんでしたし。
まああまり無理を言っても仕方がありません。ミウさんやマインさんによれば今回購入した魔道具でも一般に出回っている物よりはるかに性能が良い物らしいですからね。迎撃と言う面で考えると少々不安が残るところではありますが魔道具を作ることの出来るノシュフォードさんがこの船には乗っています。獣人の方々のいる島で魔道具のメンテナンスなどをしてもらうつもりでしたが迎撃するための魔道具の開発をお願いした方が良いでしょう。どのあたりの事までが出来るか話し合わなければいけませんね。
とりあえずフォーレッドオーシャン号の防備に関することについてはセドナ国で出来うる限りのことはしました。思わぬ事態はありましたがそのおかげで船の所有権に関してもすんなり認めてもらえましたしね。他の国々でもこうだと良いのですが早々うまくは行かないでしょう。セドナ国が情報収集に長けていたからこそこれだけ早く決断できたのですから。
まあ将来に対する心配だけをしていてもどうにもなりません。リスクを認識することは必要ですがそれで動けなくなっては意味がありませんからね。
さてそれではドワーフ自治国へと向かいましょう。川幅や水深に関しては問題がないと言う話でしたが初めて通る航路です。気を引き締めねば。
「それでは出港します。距離的にはおそらく本日の夜にはドワーフ自治国の主要港であるガルの町へたどり着けますが沖で夜を明かしてから港へと向かう予定です」
一応既に予定については伝えてありますが改めて船内放送で伝え船を出港させます。エルフの方々の見送りを受けながらセドナ湖を走らせドワーフ自治国側を流れるスエル川を下っていきます。
ドワーフ自治国側とは言いましたが大きく北へ弧を描くようにして流れるスエル川は実際にはドワーフ自治国とその北にあるユミリア国の国境となっています。そのため両岸にはそれぞれの国が相手国を監視するため建物があったりと少々物々しい雰囲気があります。ノルディ王国の中を突っ切るように流れている反対側のラミル川では見られなかった光景です。とは言え川のおかげで紛争などはほとんど起こらないと言う話ですし、この川を通る分には何も問題は無いという事ですが警戒はしておきましょう。
「おっちゃん、そろそろ代わるか?」
「ええ、それではお願いします」
中流辺りまで私が操船しましたが、せっかくですのでアル君へと舵を任せます。その嬉し気な顔を見ればアル君が船を操縦することを楽しんでいるという事は疑いようもありません。腕も確かですし本当にこの船の操舵士になりましたね。
しばらくそんなアル君の操船を眺めた後、船内をぶらぶらと歩きます。すれ違った獣人の方々と挨拶をかわしつつ2階のリビングスペースへと向かえば丁度流れていた映画が終わったようで見ていた面々が用意されていたお茶へと手を伸ばしていました。
「参考になりましたか?」
「ふむ。やはりこの映画というのはすごいのぅ。この短い時間の中に人としての人生が凝縮しておるのじゃ」
私の声に反応したロイドナールさんがそう返してきました。隣に座って一緒に映画を見ていたらしきトリニアーゼさんが申し訳なさそうな顔をしていますがにこやかに笑い返して気にしないで下さいと伝えます。実際映画はロイドナールさんのように楽しむものであって研究のために使うものではありませんからね。
ロイドナールさんが飲み終わり空になったカップにミウさんが紅茶を注いでいきます。そしてロイドナールさんの対面に座った私の前にも紅茶のカップが置かれました。感謝を伝えそして対面に座る2人を見ます。
「不自由な点などありませんか?」
「ありません。むしろこんな船があるのかと改めて驚きました」
「そうじゃな。船の所有権を認めたのは早計だったかもしれんと思う程度には快適じゃ」
「それは良かった」
こちらを試すようなロイドナールさんの言葉をかわしにこりと微笑んで返しておきます。トリニアーゼさんの表情が面白いことになっていますがこの程度の応酬は挨拶のようなものですからね。ロイドナールさんも私が気にしないことをわかっているからこそ言っているのでしょうし。
2人がこの船に乗っているのはもちろん映画を見るためではなくドワーフ自治国との話し合いに参加するためです。ドワーフ自治国にロイドナールさんの知り合いがいるようで行った方が話が早いだろうと言うことで同乗していただいたわけです。セドナ国には人が泊まることの出来るようなギフトシップはないということですからね。あくまで表面上はで実際はわかりませんが。
「そういえば献上品は本当にお酒だけでよいのですか?」
エリザさんの疑問にロイドナールさんが鼻を鳴らして笑いました。
「あやつらに酒以外を送っても意味がないわい。うまい酒こそ至上。命の水らしいからのぅ」
「そういった話は聞いたことがありますが本当なのですね」
少々呆れたような疲れたようなそのロイドナールさんの笑い顔から想像するに昔ドワーフの方となにがしかあったのでしょう。エリザさんもその言いようにすこし呆れたように笑っています。
「すでに献上する予定のお酒は用意していますが確かめますか?」
「別にいいわい。酒ならなんでも喜ぶのはわかっておるしのぅ」
その態度からして本当にその通りのようですね。一応ノルディ王国で買っておいたワインの樽とフォーレッドオーシャン号にある数種類のお酒を用意してありますから量も質もカバーできるとは思いますがね。
さてロイドナールさんにここまで言われるドワーフの方々とはどんな方なのでしょうか。鍛冶が得意と言うことでもありますし面白い出会いがありそうな予感がしますね。
役に立つかわからない海の知識コーナー
【メイフラワー2世号】
イギリスとフランスのボルドーを結ぶ交易ルートを走り、イギリスの織物や毛皮とフランスのワインやブランデーを交換し、後年にはピルグリム・ファーザーズの船旅に使われた有名な船であるメイフラワー号のレプリカの船です。
1956年に建造されピルグリムの最初の入植地であるマサチューセッツ州プリマスを母港にした3本マストのこの船は船体後部にその名前の通り可愛らしい花が描かれています。
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お読みいただきありがとうございます。
前章とは変わって船関係の話がメインになる予定です。きっと。お楽しみに。




