Flag125:機能を充実させましょう
操舵室へと入った私は一直線に操舵席へと向かいます。そして操舵輪の中央を触り見慣れたディスプレイを表示させました。
私が今、操舵室でするべきこと。それは船を動かすことではありません。
ディスプレイから「補給」、そして「保全」を選び、船を万全の状態へと戻します。ノシュフォードさんが汚してしまいましたので多少「保全」にいつもより多くのポイントを使用してしまいましたが現状のポイントからすると大して気にならない程度のものです。
現在ディスプレイに表示されているポイント数はおよそ6億。ツクニさんにお願いしてランドル皇国の各地で買い集めていただいたり、ルムッテロの町で魔石が高騰しない程度に買った成果です。金銭的にはかなりの金額を使いましたが、砂糖や胡椒で荒稼ぎしましたから問題はありません。購入者としては私ではなくトッドさん名義になっていますし。
「そちらは問題ではないのですがね」
1つため息を吐きディスプレイの中で久しく触っていない欄である「成長」をタッチします。以前と変わらず「成長しますか? 必要ポイント 512,000」と言う表示が現れました。少し躊躇しつつも「はい」を選択し成長させます。いつも通りの静電気が走ったようなピリッとした痛みがフォーレッドオーシャン号が成長したことを私に伝えてきます。
その後も続けて船を成長させていきます。ポイントが倍々で増えていき、それに伴って保有しているポイントがどんどんと減少していきます。10回成長させた時には残りのポイントは1億を切っていました。最後の1回は成長させるのに約2億6千万ポイントが必要でしたから仕方がありません。
「ふぅ」
大きく息を吐き心を落ち着けます。今でも7千万近くありますので当面は問題ないはずですがこの外交中に魔石を補給する必要はありそうですね。セドナ国である程度補給できれば良いのですが。
私がするべきこと。それは船を成長させ新しい機能を充実させることでした。新しい機能は5の倍数ごとに「その他」へと追加されますので今は2つの新しい機能が取得できるようになっているはずです。
「本当は外交が終わってからと思っていたのですが、仕方がありませんか……」
自分自身を納得させるようにゆっくりと呟きます。
私の計画としては今回の外交については現状のまま訪問して回るつもりでした。理由としてはいくつかあるのですが大きなものとしては保有ポイントに余裕をみたかったと言うことと船の能力をむやみに知られたくなかったと言うことです。
このポイントと言う機能は非常に有用です。一度魔石を取り込めば保存する場所や時間を気にすることなく保有することができ、さらに船に関する「補給」「保全」がいつでもどこでも出来るのですから便利としか言いようがありません。
いつ何のトラブルが起こるかわからない船乗りとしては少しでも多くのポイントを手に入れ余裕をもって航海したいと言うのは当たり前の判断です。
また一方で船の機能を知られる危険を減らしたいということもあります。フォーレッドオーシャン号はおそらく特殊な船です。「成長」や「その他」と言う項目はローレライの方々から借りている漁船にはありませんでした。「補給」に関しても軽油だけでしたしね。
そのほかの船については確かめる機会に恵まれませんでしたのでどちらが特殊な船か確実なことはわかりませんが、少なくとも「共通空間」のような機能を持った船があるのであればエリザさんなりミウさんが知っているはずです。外交上非常に有益な機能ですしね。
機能の中には防衛等に役立つものがあるかもしれないとは考えました。しかし今回の外遊では先日と同様に相手国の方を招いてパーティを開くことも想定に入っています。「自動操縦」のようなパーティだけではわからない機能であれば良いのですが、「共通空間」のように勝手に効果が発揮されてしまう機能の可能性もあるのです。だからこそ現状のままで外遊を終え、その後に成長させる予定だったのですがね。
ランドル皇国を除けばこの大陸にある国家は大きな戦争等を起こすことなく百年近く交流を続けているのです。領土の境ではさすがに細かい紛争などはあるそうですが、王女や皇女と言った戦争の引き金になる存在に対して襲撃するようなことはないと思っていたのですがね。
いえ、これは完全に言い訳ですね。私の想定が甘かったのです。たとえ個人が暴走したとしても国が責任をもって防ぐだろうと考えていました。しかし実際はそうではなかった。
今回は何とかなりましたが次回もうまくいくとは限りません。だからこそ出来ることをしておかなければ。
使用してしまったポイントについては問題ありません。また稼いで魔石を補充すれば良いだけですからね。少々心配なのは戦争へ向けて進んでいくという現在の状況では使い勝手の色々ある魔石の値が上がっていくと予想されることですが、外遊後は仕入れルートも増えるでしょうし何とかなると思っておきましょう。
心を落ち着けるために大きく息を吐き、改めてディスプレイへ視線を落とします。そして「その他」の欄へと指を近づけます。何の機能が現れるかは私にはどうしようもありません。出来ることならば防衛などに役立つ機能であれば良いのですが。
まあそもそも5回の成長ごとに新機能が現れるという保証もないのですがね。
そして「その他」に指が触れると、ディスプレイが切り替わり画面に2つの項目が表示されました。
「「環境把握」に「快適空間」ですか」
表示された文字に少し考えこみます。機能を推察するヒントはこの文字しかないわけですから想像するしかないわけですが両方とも純粋に防衛用の機能とは言い難いでしょう。
「環境把握」については防衛に向いた機能の可能性はあります。どの程度の範囲の環境を把握できるのか、また把握とは情報の取得のことをなのかそれとも別の意味なのか等によっても変わってきてしまいますが使い方によっては非常に便利な機能になる可能性があります。
一方で「快適空間」については本来のこのフォーレッドオーシャン号の使用用途から考えれば素晴らしい機能ではあるのですが防衛に向いているとは考えにくい文字面です。「共通空間」と同様に「空間」とついていますから船内のことですかね。
うーん、なかなかうまくはいかないですね。
「とりあえずは検証を行う必要がありますね。取得するためのポイントは……300万ポイントと400万ポイントですか」
まあまあなポイントのはずなのですが、先ほど成長するために数億ポイント使用した身としては少なく感じてしまうところが恐ろしいところです。しかしこの程度であれば少々ポイントが心もとなくなってきた現状でも問題ないでしょう。防衛には役に立たなかったとしても船の機能の充実と言う面で見れば喜ばしいことですしね。
「環境把握」と「快適空間」を続けてタップし機能を実装していきます。さて、どのような機能なのか早く把握しなければいけません。どうやって確かめるべきでしょうかね。まずはノシュフォードさんに協力していただいて……
突然ぐらりと景色が傾いでいきます。そのことに違和感を覚える間もなく私の意識はそこで途切れてしまったのでした。
役に立つかわからない海の知識コーナー
【帆のない戦艦】
歴史上おそらく初の帆のない戦艦はイギリスのデヴァステーション号と言われています。
エドワード・J・リードが設計した長さ93.5メートルの外洋用旋回砲塔艦であり、進水年は1871年の事です。この船が成功した裏側にはエンジン効率が大幅に向上したことも挙げられます。
帆がない船ではありますが信号旗用のマストは船の中央部に一本立っており、前部と後部に二連装の旋回砲塔が備え付けられていました。この成功を元に徐々に帆のない戦艦が増えていくことになるのです。
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