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Flag117:いったん離れましょう

 全員が言葉を失い私を見つめる姿はどこか間が抜けていて笑いを誘います。とは言えこんな状況で笑う訳にも行きませんが。年の功と言うべきかそんな状況からいち早く抜け出したのはロイドナールさんでした。


「何を言っておるのじゃ。そんなことをすればお主がどうなるかわかったものではないのじゃぞ!」


 必死に私の言葉を否定しようとしています。確かに船で2人っきりになればどうなるかわからないという事はありますね。しかしノシュフォードさんであれば私に危害を加えるようなこともないでしょう。

 それにこの状態を維持したい本当の理由は別でしょうしね。


 チラッとノシュフォードさんの方を見れば顔色は最初に見た時よりも青ざめており、剣を持つ手の震えも心なしか大きくなってきています。このままいけばあと1時間ももたないのではないでしょうか。

 ノシュフォードさんの意識が朦朧としてきたところを全員で取り押さえれば今回の事件については終わりです。セドナ国から正式な謝罪はされるでしょうし、あちらに借しを作った上で同盟を結ぶことが出来るはずです。当初の計画から考えればそれは僥倖とも言うべき状況なのですがね。


「大丈夫ですよ。それにこのままではノシュフォードさんが倒れそうですしね。体調を万全にした上で明日以降に話し合った方が良いでしょう」

「じゃが……」

「すみませんが危険にさらされているのは私ですし、それにこの船の上では船長である私に決定権があります。護衛の方はすみませんが皆さんを連れて船を降りてください。これは命令です」

「「「なっ!」」」


 縛られて拘束された状態で言うセリフではないかもしれませんね。誰も動こうとはしませんでした。しかし私が獣人の護衛の方一人一人と目を合わせていくと、どこか諦めたような顔に変わりそして私の命令を遂行すべくエルフの方々を外へと連れ出そうと動き始めてくれました。

 うーん、どんどんと借りが増えていってしまいますね。今回のことが終わったら獣人の方々が好きな食事の食べ放題でもしましょうかね。感謝は伝えるにしてもあまり物欲が無い方が多いのでそのくらいしか方法が思いつかないのです。


 エルフの方々が文句を言いながら獣人の方に背中を押されるようにして部屋から退出していきます。さすがにここに無理やり残るという事はしないようです。助かります。

 最後まで部屋に残っていたのはトリニアーゼさんでした。彼女は抵抗らしい抵抗はしていないのですが、こちらを泣きそうな潤んだ瞳で見ながら表情を歪めていました。とても悲しそうに。部屋から出る最後の瞬間までトリニアーゼさんはこちらを見ていました。


「ノード、どうして……」


 そんな言葉を残してこの部屋からは私とノシュフォードさん以外はいなくなりました。


「トーゼ、君にはわからないよ」


 ノシュフォードさんはその辛く悲しそうな顔を本当に見るべきだった人たちには見せずにトリニアーゼさんが出ていくまで表情を隠していたようです。私と2人きりになったことで気が緩んで出てしまったのでしょう。

 チクリと胸が痛みます。しかしこのままで終わらせて良いはずがありません。


「ノシュフォードさん、すみませんが足の拘束を解いてください」

「逃げるつもりか?」

「いえ、逃げるならわざわざ皆さんを下ろしませんよ。船を動かして港から離れます。今のままだとまたいつ入って来られるかわかりませんからね。ノシュフォードさんに運んでいただいても良いのですがさすがに今の状態では厳しいでしょう?」


 そう聞いた私を見ながらノシュフォードさんは体から力が抜けてしまったかのようにドスンとソファーへと腰を下ろしました。既に私の首筋に剣は突きつけられていません。


「お前は何を考えている? 何が目的だ?」


 静かにそう聞いてくるノシュフォードさんの姿は弱弱しく、今私が逃げようとしても追ってこないのではないかと思わせるほどでした。まあ逃げませんけれど。

 そんなノシュフォードさんへとほほ笑みながら返していきます。


「私は、エリザさんだけでなくセドナ国にとってもこの同盟が最良の物になるようにしたいだけですよ。なぜノシュフォードさんが同盟に反対だと考えここまでしたのか。それを知りたいですしね。多数決は簡単で明瞭です。しかし少ない意見をないがしろにした場合、致命的なことになりかねない危険を含んでいます。少なくとも今回のことについてはノシュフォードさんをある程度納得させるような提案を出来なかったと言う意味ではあちらにも非はあると思いますしね」


 そんな私自身の思いを伝えてみたのですが、ノシュフォードさんは呆れたような目で私を見ています。確かに少し誇張した部分はありますが基本的な部分はそのままなのですがね。

 多数決と言うのは確かにわかりやすい。しかしそれは少ない方の意見を無視してよいということではないのです。じっくりと話し合い、反対意見の人が出す質問に対して十分な説明が出来てこそ有効な手段なのです。


 パーティの段階で既に大筋の方針は決まっていました。おそらく3日という期間はノシュフォードさんの到着を待っていたのでしょう。その後の展開は想像するに難くありません。

 むしろ到着を待たずに方針を決定した方が良かったのではないかと思いますが、セドナ国としてもこんなことになるとは考えていなかったでしょうしね。後の祭りと言うやつです。

 しばらく私を見ていたノシュフォードさんでしたがふぅーと大きなため息を吐きました。


「わかった。俺に利のあることだとは理解している。言う通りにしよう」

「ありがとうございます」


 剣で足の縄を切られ、あの不格好な移動をしなくて済むようになりました。そしてノシュフォードさんを引き連れて桟橋とこの船を繋いでいたロープを切断していきます。それを桟橋から見ていた人たちから声があがりましたが、獣人の方々にお願いして船に侵入しないように防いでいただきそして私たちは操舵室へと向かいセドナ国の港から離れることに成功したのでした。





 セドナ湖の中央付近で船を止め、船の救急セットに常備されるようになったポーションを使ってノシュフォードさんを治療していきます。大きな傷などはありませんでしたので傷口は全て見えなくなりましたが失った血までが元通りになるわけではありません。相変わらずノシュフォードさんの顔は青ざめており、私と2人きりになり港からも離れたという安心感からかどこかふらふらと体を揺らしています。気力だけでなんとか意識を保っていると言う方が正しいでしょう。

 話をお聞きしたかったのですが現状では無理そうですね。体力の回復を優先させましょう。


「ノシュフォードさん。食事を用意したいのですが? 失った血を作るためにも食事は食べた方が良いと思いますので」

「……なぜお前はそこまでする?」


 うーん、まだ警戒されていますね。まあ当初に比べれば柔らかくなってきているのは明らかですし、警戒するなと言う方が無理な注文であるとは理解していますが。


「一応理由は先ほど言った通りなのですがね」

「本当にそれだけだと信じろと言うのか?」


 ノシュフォードさんの視線は鋭いままです。確かに私にはあまり利が無いように思えますからね。利を追及するのは商人としても人としても当たり前ですし。うーん、体力が回復してからにするつもりでしたが少しだけお話しますかね。


「そうですね。あえて言うならノシュフォードさん、あなたがランドル皇国で実際に何を見たのか、それに興味があったからとでも言えばよいでしょうか」

「……」


 私の言葉にノシュフォードさんが更に視線を鋭くし、じっと私の真意を探るように見つめてきました。

役に立つかわからない海の知識コーナー


【船首の形】


蒸気船など動力で動く船についてですが20世紀の初頭は直立した船首をしている船がほとんどでした。当時の建造技術ではこの方が作りやすかったからと言う理由らしいのですが、見栄えの問題などからだんだんと今普通に見られるような船首が傾斜した船が一般的になっていきました。

しかし最近になって昔と同じように直立した船首を持つ船が増えて来ています。抵抗面でその方がメリットがあるからです。

今後についてはどうなるかはわかりませんが全く新しい形になるかもしれません。どのような船首の船が増えていくのか楽しみですね。


***


お読みいただきありがとうございます。

夢のまた夢と思っていた一万ポイントまであと少しになってしまいました。本当にありがとうございます。

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シンデレラが一人の女の子を幸せにするために奔走する話です。

「シンデレラになった化け物は灰かぶりの道を歩む」
https://book1.adouzi.eu.org/n0484fi/

少しでも気になった方は読んでみてください。

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