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Flag97:作戦を開始しましょう

「ふわぁ~、いい天気ですねぇ」


 そんな言葉が自然に出てきてしまうくらいには良い日よりです。ゆったりと風を受けて進む船の気持ちよさは筆舌に尽くしがたいものがあります。


「おっちゃん、本当に楽しそうだよな」

「アル君も楽しそうですけれどね」


 私と一緒に甲板で日向ぼっこをしていたアル君に笑い返します。

 私たちが今乗っているのは漁船でもフォーレッドオーシャン号でもありません。では何かというとエリザさんを狙ってやってきた乗組員がローレライの方々の歌によって沈んでしまった帆船になります。キオック海で建材の予備として保管していたのをわざわざフォーレッドオーシャン号を使って引っ張ってきたのです。

 この船の他にももう1隻同じような帆船が浮いています。そちらでは多くの獣人の方々が帆船の操作を行っている姿がちらちらと見えています。奴隷の方の中に船の乗組員をしていた人がまあまあいたのは僥倖でした。これで問題なく作戦は遂行できそうですからね。


 私が今乗っている船にはダークエルフの方が10人とマインさん、そしてアル君とローレライの方の有志が10名乗船しています。こういった帆船の操作をしたことのない私ははっきり言って役立たずではあるのですが作戦の発案者としてダークエルフの方の手前、乗船しない訳にはいきませんからね。

 そんなことを考えているとアル君のお腹がくーっと鳴りました。アル君がちょっと恥ずかしそうにしながら、しかし期待するような目で私を見ます。そういえば役立たずではなくしっかりと役目がありましたね。


「おっちゃん、腹減った」

「じゃあご飯の準備を始めましょうか。予想では明日の昼頃ですからまだまだ時間はありますし」


 それではコックとしての役割を果たしに行きましょうかね。





 現在私たちがいるのはダークエルフの方々が住む群島の北3キロ程度の場所です。この場所を選んだのは海流の流れが緩く穏やかな海だったからです。フォーレッドオーシャン号で船を曳航してこの海域で鎖を下ろして止めることを2回繰り返し、さらに獣人の方々やダークエルフの方々を漁船で運んだりと結構な作業を行う必要がありましたからね。穏やかな海と言ってもやはり大変でした。まあ事前の準備が最も大変なのは何事もそうなので仕方がありませんがね。


 夜も明け、いよいよ本番が近づいてきます。私の役目はほとんど終わったと言っても過言ではありませんが最後まで見届けなければいけません。この作戦の成否で今後の展開がまるっと変わってしまいますからね。


 刻一刻と時が過ぎ去っていきます。フォーレッドオーシャン号のレーダーで位置は確認しましたし航路も把握しています。打ち合わせも十分に済ませました。後は運を天に任せるのみです。


「来たぞ!」


 その声に体を震わせます。そちらへと視線をやればはるか前方に小さく船が見えました。私たちの目的の奴隷船です。しっかりと会うことが出来ましたね。

 皆が私を見ています。まあ名目上は私が船長ですからね。まあ名ばかり船長ではあるのですが。


「さあ、始めましょうか。海賊稼業を」

「「「おう」」」


 楽しそうに皆が笑います。この先の出来事を知っていれば下手をすれば死んでしまう可能性があるかもしれないと事前に重々説明したのにこの船に乗ることを選んでくれた大切な方々です。この人たちを死なせるわけにはいきません。死なせるつもりもありませんがね。

 甲板に残るダークエルフの方々と私たちはすっぽりと頭からローブをかぶり、ローレライの方々はずりずりと体を引きずりながら船室へと入っていきます。アル君もそれに続いていきます。


「おっちゃん、終わったらごちそうだからな!」

「わかってますよ」


 ぶんぶんと手を振って去っていくアル君を見送り、操舵輪付近へと立ちます。この船を操船するのは全てダークエルフの方々ですが私の経験が生きるかもしれませんしね。仮にも船長ですし。

 先行するもう一隻の船を追って海を進んでいきます。風は東から吹いており私たちの船にもあちらの奴隷船にも横風です。条件は悪くありません。

 少しずつお互いの船の距離が近づいていきます。もちろんあちらの船は警戒をしているでしょうね。ダークエルフが奴隷船を襲うという事は噂になっていますから。きらりとあちらの船が光ったのは望遠鏡でしょうか。そこまで倍率は良くないとは思いますがどうでしょうかね。まあどちらにせよやることは変わりありません。

 ある程度距離を離したまま船が行き違います。今です!


「うてー!!」


 私の声が走っていき、船の側面から大砲が奴隷船に向かって飛んでいきます。私の船の方は慣れていないローレライの方が適当に撃っているので当たる気配すら見えませんが、先を行く船は扱いに慣れたダークエルフの方が撃っていますので見事に奴隷船の帆を突き破り、マストを1本折ることに成功していました。

 とは言えこれですんなりと終わるなんて考えていませんがね。


「取り舵一杯、射線から離れてください!」

「アイアイサー!」


 私の指示を聞くまでもなくダークエルフの方が船を動かしていきます。その直後に船の右側で上がった水しぶきに冷や汗が流れます。奴隷船から撃たれた砲です。即座に応戦してくるとはかなり警戒していたのでしょう。とは言え確信は持てなかったのか先制出来たことはかなり幸運です。しかも船に損傷を与えられましたしね。


「予定通り砲をどんどん打ってください。決して当てないように伝えてください」

「アイアイサー」


 ダークエルフの一人が私の言葉を伝えるためにローレライの方々の元へと走っていきます。まぐれ当たりという事もありますからね。一応事前には伝えていますが興奮してくると忘れてしまいがちですし。

 あの船には当然のごとく獣人の奴隷の方々が乗っています。そこに砲が当たってしまえばかなりの被害が出てしまうでしょう。それは何としてでも避けなければなりませんし、あの船にはちゃんと役目があります。沈んでもらっては困るのですよ。


 逃げようとする奴隷船を追いつつ砲撃をしていきます。音だけを聞けばかなり本気だと思うでしょうね。この船に乗っているすべての砲弾を使いつくす勢いなのですから当たり前ですが。

 奴隷船は3本あったマストが既に1本、あっ、今当たりましたので残り1本しかありませんので船足はとても遅く、余裕をもって追う事が出来ています。そしてほどなくして最後の1本のマストもダークエルフの方の砲撃により折られてしまいました。これで船を動かすことはもう困難でしょう。


「予定通り船の後方から近づきます。衝撃に注意してください」

「アイアイサー」


 もう1隻の船と共に奴隷船の後方から近づいていきます。後方に向けての砲はありませんし、攻撃できるとしても魔法や弓だけでしょう。それならば注意すればなんとでもなりますし、そもそも魔法使いが船に乗ることはあまり多くないらしいのですが、油断をして失敗しては元も子もありませんしね。


 散発的に矢や魔法が飛んできますが想定内です。望遠鏡で見た奴隷船の乗組員は絶望したような顔をしています。まあマストを折られ航行不能の船に海賊に乗り込まれれば死を待つのみでしょうからね。砲をばかすかと撃ったのが効いたのでしょうか。とても良い展開です。

 さあ、舞台も整いました。早速次へと移りましょう。


 目視で相手の姿がはっきり見えるくらいまで近づいたところで先行する船の中で私たちと同じようにかぶっていたローブを何人かが取ります。それを見て奴隷船の乗組員が驚いています。まあダークエルフだと思っていたのでしょうね。そこに獣人の姿が見えたので驚いたのでしょう。彼らは俊敏な動作で船を乗り移るために準備を始めました。


 その時、ドウンと言う重い音が響き私の乗った船の傍で水柱が上がりました。さあ第二章の開幕です!

 海賊を倒す英雄たちの物語が始まりますよ。

役に立つかわからない海の知識コーナー


【船の外板】


本編に出てくる船が進化すると木造の船の外板に鋼材が使われるようになるわけですが、その鋼板の厚さはおよそ10から20mmで船のサイズと比べるとかなり薄いものでした。100メートルの船だと考えてそれを1メートルの大きさまで小さくするとその厚さおよそ0.1mmになる計算です。どれだけ薄いのかイメージが湧いたのではないでしょうか。

この薄い外板が歪んだり折れたりしないように船の強度を保つ構造をしているのです。

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シンデレラが一人の女の子を幸せにするために奔走する話です。

「シンデレラになった化け物は灰かぶりの道を歩む」
https://book1.adouzi.eu.org/n0484fi/

少しでも気になった方は読んでみてください。

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