エマンダ帝国文官日記
まとめました。
「これで封印の森へは行けるね」
「そうだね」
「じゃあ、僕はもうちょっと絵本とか、地図とかに何かヒントがないか調べてくるね」
「うん、ありがとう。私ももうちょっと探してみるね」
何か手がかりがあるといいなぁ。
封印の森にいけても、何もできないなんて嫌だもんね。
頑張ろう。
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あれから三時間。
本を読むこと3時間。読み終わった本が積み重なってる。
≪言語≫のレベルが上がりまくってる。レベルが15になりました。
読むスピードも上がったし、ちょっと難しい本も読めるようになった。
だけど、
「何にも手がかりが見つからない・・・」
今まで読んだ本の中に手がかりゼロ。
数十冊も読んだのに。途中からハナミズキの≪言語≫のレベルが上がったからこっちの本を探すのを手伝ってくれるようになって作業効率が上がったのに、手がかり何にも見つからない。
「お姉ちゃん、大丈夫?」
「・・・だいじょうぶ。手伝ってくれたのに、ごめんね」
「ないなら仕方ないよ。・・・そろそろ帰る?」
「ううん、もうちょっと探してみる」
「そっか。じゃあ、頑張ろうね」
よし、頑張ろう。
えっと、この棚は・・・「ずぼら神官の食べ歩き日記」、「薬師おばばの日誌」、「殺人鬼ジャックの日常」・・・。まともな本がない。というか、殺人鬼の日常なんてどうやって調べたんだろうか?というかよく出版されたなぁ。めっちゃ怖そうなんだけど。
「次はこっちを探そうかな」
こんなに調べても手がかりが出てこないなんて・・・。心が折れそうだよ。
ん?これは・・・。
「『エマンダ帝国文官日記』か。これには何か手がかりがあるといいな」
本を開いてパラリをページをめくる。
**
○月○日
今日から僕は夢だった王宮の文官になれた。
長い長い道のりだった。辛い事もたくさんあったが長年の努力が実った。
そして、僕は今日からの事をこの日記に記していこうと思う。
明日からは新人研修が始まる。
ここで上司にいいところを見せないと僕は出世できない。
明日から頑張ろう。
○月×日
新人研修が終わり、僕の配属が決まった。
王宮庭園付きの文官だ。僕は出世することができなくなってしまった。
これじゃ、今までお金をたくさんかけてくれた親に顔向けできない。
恩返しができない。
同期たちの蔑んだ眼差しが頭から離れない。
配属された場所で挨拶をした。みんな死んだ目をしていた。
出世街道を外れた僕はこんな風になってしまうんだろうか。
△月□日
王宮庭園付きの文官になって数か月経ったが、しばらく日記を書いていなかったがまた書こうと思う。
この仕事は閑職だ。仕事が全くない。給料をもらうのが申し訳なくなるくらい、何も仕事がなかった。
僕の憂鬱な気分なんて知らない花たちは今日も憎いほど綺麗に咲いていた。
×月○日
この国皇子がお生まれになった。第一子なので恐らくは跡継ぎになられるだろう。
噂によればたいそう、可愛らしいのだそうだ。侍女たちが騒いでいた。
ただ、皇妃様の具合がよくないそうだ。早く回復なされるといいが。
×月△日
皇妃様の体調が回復なされた。
本当に良かった。
だが、寝台から出ることはまだできないそうだ。
国中が皇妃様の回復を祈っている。薬草が国中から送られたらしい。
国民に愛される皇帝陛下と皇妃様が誇らしい。
僕も皇帝陛下と皇妃様が誇れる人になりたい、幼い時に願った夢を今日、思い出した。
×月○日
皇子殿下が三歳になられた。
国中の貴族を集めた盛大な誕生パーティーが行われた。
皇妃様は参加なされなかったそうだ。
もともと病弱な方ではあったがここ最近特に体調を崩しているようだ。
×月△日
皇子殿下が庭園を訪れになった。
こっそり花を持っていこうとしていたようだ。
ばれて、庭師に怒られていた。
どうやら、病床に臥していらっしゃる皇妃様に送りたかったようだった。
それを聞いた庭師が花を渡した。
皇妃様の好きな花—カーネーション—を。
×月□日
皇妃様がお亡くなりになった。
まだ幼い皇子を置いて。
国中が悲しみに沈んだ。
△月○日
陛下が新しい皇妃をお迎えになった。
早すぎるのではないか。
まだ皇妃様がなくなって、時間がまだそんなに経っていない。
おかしい。
○月×日
新しい皇妃様はあまり評判が良くない。
侍女や武官、この城中の使用人の評判が良くない。
皇妃教育から逃げ出したり、陛下のお仕事の邪魔をされたり・・・など。
使用人からかなり嫌われている。
○月△日
新しい皇妃が妊娠なされた。
皇子殿下はどうなってしまうのだろうか。
母親をなくした皇子殿下には後見人がいない。
陛下も新しい皇妃様に夢中で、皇子殿下の事が目に入っていないようだ。
○月△日
皇子殿下が我が国にいらっしゃる聖霊様にお会いすることになった。
本来ならまだ早いのだが、後見人がいらっしゃらない皇子のために早めにお会いすることになったようだ。
どうやら、陛下の意見ではなく、皇子殿下を心配する貴族たちからの意見からのようだった。
陛下のご様子がおかしい。陛下は皇子殿下を愛していらっしゃったのに。
○月◎日
皇子殿下は聖霊様に懐いたそうだ。
聖霊様も皇子殿下をかわいがっている様子だそうだ。
聖霊様は母性あふれるお方だ。
母親を亡くしてばかりの皇子殿下の心を癒してくれるだろう。
◎月△日
新しい皇妃様が御子をお産みになった。
御子は男の子だそうだ。
陛下も新しい皇妃様も第二皇子に夢中である様子だ。
第一皇子は第二皇子に会うことを禁止されたようだ。
母親違いではあるが兄弟であられるはずなのにこの対応はひどいと感じる。
×月□日
第一皇子殿下が庭園にいらっしゃった。
カーネーションを聖霊様にあげたいとおっしゃられた。
・・・今日で前皇妃様が亡くなられてから一年がたつ。
皇子殿下は大丈夫だろうか。
×月○日
第一皇子殿下が十歳になられた。今年も皇子の誕生パーティーは開かれなかった。
年々、陛下と皇妃様の第一皇子殿下の対応がひどくなっていっている。
ご飯の量も少なすぎるという噂が流れている。痩せすぎている。
何とかして差し上げたいが、使用人の立場ではできることが少ない。
せいぜいこっそりとご飯を差し入れることしかできない。
陛下たちの第二皇子殿下への愛情を分けてあげて欲しい。
第二皇子殿下は食べ過ぎてぶくぶく太っておられる。
ただ第一皇子殿下は聖霊様とお祝いをなされたようだ。
聖霊様からカーネーションを受け取ったそうだ。
△月○日
第二皇子殿下と聖霊様の仲があまり良くないらしい。
前はそこまでではなかったはずだが、この間、第二皇子殿下が聖霊様に怒鳴りつけているところを使用人たちが見たようだ。
聖霊様は全てを愛するお方であるが、第二皇子殿下に対して少しピリピリしていたそうだ。
第一皇子殿下はあのような境遇であられるがとても素晴らしいお方だ。
勉学も、剣もできる。そして、とてもお優しいのだ。
民の事をよく思ってくださる第一皇子殿下は前皇妃様によく似ていらっしゃる。
第二皇子殿下は勉強の時間はよくお逃げになられるし、癇癪も起こされる。
教師が何人辞めただろうか。なかなか教師が見つからないと誰かが嘆いていた。
×月○日
第一皇子殿下は15歳になられた。月日が経つのは早い。
ついこの間お生まれになったと思ったのに、もう15歳であられるのだ。
今年も誕生パーティーが開かれることはなかった。
第一皇子殿下は今年も聖霊様とともに過ごしたようだった。
○月△日
陛下は第一皇子殿下を隣国に留学させるようだ。
皆が着いていきたくて、侍女や執事などが激しい戦いをしているようだ。
騎士もかなり厳しい選抜が行われるようだ。
聖霊様は悲しまれているそうだ。
○月×日
ついに第一皇子殿下が出発なされる。
陛下に命じられてからあっという間だった。
城中が悲しみに溢れていた。聖霊様も悲しんでおられる。
第一皇子殿下は、こんな私たちをみて優しく微笑んでくださった。
どうか、ご無事で。
△月○日
陛下が第二皇子殿下を皇太子にすると発表なされた。
第一皇子殿下はどうなってしまうんだろうか?
それに、第二皇子殿下は勉学から逃げ続けておられる。
とてもではないが国を治められるとは思わない。
陛下は一体何をお考えになっているのだろうか?
□月×日
第一皇子殿下が賊に襲われて亡くなられたそうだ。
どうしてなのだろう。どうして、第一皇子殿下が!
聖霊様は泣いて悲しんでいるそうだ。
聖霊様だけでない。城中が泣いている。
◎月○日
城に使用人ではない者たちが歩き回っている。
注意したものは処罰された。他でもない陛下のご命令で。
あの者たちはいったい何者なのだろうか。
陛下はいったい何をお考えになられているのか。
◎月×日
ローブを深くかぶった怪しい者たちは城の中を我が物顔で歩いている。
腹が立つが、処罰されてはたまらないから、みんな何も言えない。
今日、使用人が消えた。
逃げ出したのでは、という噂があるが、そういうことじゃない気がする。
第二皇子殿下が聖霊様にお会いしたそうだ。
前と変わらず、ピリピリしていたそうだ。
☆月○日
聖霊様の所にもローブの者たちが現れたようで陛下に尋ねられたようだ。
陛下は何も心配はいらないとおっしゃっていたようだが、あの者たちは危ない気がする。
だが、陛下はそのようなことを言うお方であっただろうか?
第二皇子殿下がまた聖霊様のもとを訪れたそうだ。
ずっとピリピリした様子だそうだ。
第二皇子殿下は一体どうしたのだろうか?前は一歩も近づかなかったのに。
今では毎日のように訪れていらっしゃる。
★月□日
使用人がまた居なくなった。
今月に入って10件目だ。
もう何十人もいなくなっている。
辞めようとした者も、逃げようとした者も、全員いなくなった。
辞めることも、逃げることもできないまま、城で働く事しかできない。
いつか自分もいなくなる存在になるかもしれないことが怖い。
陛下に訴えても聞き入れてもらえない。
いつからであっただろうか、陛下が民の声に耳を傾けなくなったのは。
□月×日
ああ、陛下は遂に狂われてしまった。
ここ何年か、ずっと税が上がっていた。
まだ豊作だったから、民は耐えられたのに。今年は不作だった。
なのに、陛下は税をまた上げた。これ以上は民が耐えられない。
さすがに、無理があるので、使用人一同で抗議しに行った。
陛下は、税を下げることはない。払えないのなら、体で払えばいいと。
人を城に捧げろと、陛下はおっしゃられたのだ。
この国はもうおしまいだ。
□月△日
相変わらず状況は変わらない。
陛下は狂われ、第二皇子殿下は聖霊様のもとを訪れ続け、ローブの者たちは城を好き勝手に使っている。
□月○日
今日、陛下をお見かけした。陛下の隣に男がいた。あのような男はいつから陛下のそばにいたのだろうか?
陛下は何かを話すときも、決めるときも、考えるときも、あの男に相談なさっている。そして、あの男が答えたとおりにしかなさらないのだ。
あの男を排除しなければならない。
×月△日
今日は陛下が聖霊様のもとを訪れになった。
もうすぐ第一皇子殿下の誕生日だから、お祝いをしたい。力を貸してほしい。
とのことだった。
聖霊様は今までの事をお叱りになり、そのことを了承なさった。
×月×日
明日はいよいよ、第一皇子殿下の誕生日だ。
聖霊様がとびっきりのカーネーションを用意するように命令された。
今まで命令をされない方だったが、このことだけは譲れないようだ。
もちろん、使用人も譲れない。第一皇子殿下のためだ。
使用人が争うように、庭園中のカーネーションを集めた。
聖霊様は、集められた花を見て、幸せそうに、悲しそうに微笑まれた。
・・・今日の夜、ローブの者たちが何か大きなものを搬入しているのを見かけた。
あれは一体なんだったのだろうか?何か紫色に光っていて不気味だった。
何かの儀式にでも使うのだろうか。
後書き
この本を読んだ人へ
この文官の日記はここで終わっている。
滅亡の火災の中で残っていたものをつなぎ合わせたものなのでところどころ紛失してしまっていた。
この後のページは燃えてしまっていたので、続きはわからない。
だが、最後の日付がエマンダ帝国が滅亡する前日なのだ。
この文官はきっともう生きてはいない。
だが、文官が残したものは残っているのだ。
私はそれを未来につなげる。
私ではなしえなかったことを、どうか、成し遂げて欲しい。
誰がエマンダ帝国を滅亡に追い込んだのか。
聖霊様を狂わせたのは誰なのか。
私にはわからない。
どうか。頼む。
ーフレーベル・A・オーリック・エマンダ
読んでいただきありがとうございます。
これからものんびり更新で頑張りますので、温かく見守ってください。よろしくお願いします。




