第25話:入学試験
「入学試験ん!?」
『はい。魔法学科の場合は魔法の素養があるか試験を受けて頂くことになります』
総合受付のお姉さんの言葉にがっくりと膝を折る俺。マジかよ。俺魔力値ゼロよ? どう考えたって通らないだろそんな試験。
「ミッチー……」
「リア……」
リアは慈愛に満ちた瞳でぽんっと俺の肩を叩く。まさか、何か打開策を思いついてくれたのか?
「ドンマイ。クソザコナメクジ」
「そこまで言う事なくない!? ちくしょう! ちくしょうめ!」
俺は悔しさに涙を流しながらばんばんと地面を叩く。しかし受付のお姉さんはそういう客の対応は慣れているのか、淡々と案内を続けた。
『では別会場へ移動して試験となりますので、こちらへどうぞ』
「アッハイ」
淡々としたお姉さんの対応に思わず素に戻る俺。もうちょっと落ち込ませてほしかったな。
こうして俺たちはお姉さんと一緒に近くの広場へと移動した。
広場には一言で言えば何もなく、ただ無機質な平原が広がっているだけだ。その中央にお姉さんは慣れた手つきで看板のような的を設置した。
『試験は単純。今使える魔法でこの的を移動もしくは破壊してください』
「木製の的か……どうしたもんかな」
円形の的はまるで弓術用のように丸が描かれており、平原の真ん中に鎮座している。
大きさ自体は俺たちの身長と大差ないが、単純な腕力で移動させてはアウトなのだろう。これはなかなか、難しいかもしれないな。
「ふふっ。ではわたくしから参りますわ!」
マリーはふんすと鼻息を荒くしながら一歩前に出る。俺は死んだ目でそんなマリーの背中へ声をかけた。
「一番心配な奴からか……」
「そこ! 聞こえてますわよ!」
マリーはがるるる……! と威嚇するように俺を睨みつける。いやだってお前の魔法不安定すぎるんだもの。そりゃ心配だもの。
「くらいなさい的! マリー・ヒーリング!」
『おおっ!?』
「わ、綿になって浮いた……」
マリーの治癒魔法(?)を食らった的は綿の塊に変化するとふわふわと浮遊し、そのまま雲の向こうまで跳んでいく。なんかシュールな光景だが、とにかく移動はしたな。
『ご、合格です。あんな魔法は初めて観ましたが』
「だろうね」
多分あんなに意味不明な魔法を作ろうなんて奴は今までいなかっただろう。もっとも、マリー自身狙ってやったわけではないだろうが。
「やりましたわ! 見ましたかみつてる! わたくしのこの実力を!」
「見たよ。確かに俺にゃできねぇ芸当だったぜ」
俺はにっこりと笑って素直にマリーを褒める。魔力値ゼロの俺からすればほんと、すげえ芸当だよ。
「っ! と、当然ですわ! あなたも頑張りなさい!」
「???」
マリーは何故か頬を赤く染めてそっぽを向く。俺なんか変なこと言ったか?
その瞬間俺のケツに鋭い痛みが走った。
「さて、では次は私だな」
「痛ってえ!? なんでいちいち人のケツ蹴るの!?」
ティーナは相変わらずわけがわからん。まあこいつがわけわかったことなんて一度も無いんだが。
『新しい的を準備しました。どうぞ』
お姉さんは慣れた手つきで的を用意する。ティーナは腕を組みながらその的に対峙した。
「多少荒業だが……ここは防御力を活用させてもらおう」
「へ?」
ティーナは一直線に的に向かって走り、そのままショルダータックルをぶちかました。
「ふんっ!」
「ま、的が砕けた!? どういう防御力しとんじゃコラァ!」
あいつコートじゃなくても絶対防御が発動してるのか。しかし砕けるって、いくら木製の的とはいえ過剰反応じゃないか?
「私はタックル力も定評があるのだ」
「初めて聞いたよそんな話! お前ほんと何なの!?」
いや、まあこれ以上言うのはやめておこう。勢いあまって露出でもされたらたまったもんじゃない。全員入学前に退学だ。
「よし、では試験通過を記念して脱衣を―――」
「お姉さん! 次いきましょう次!」
『あ、はい』
俺はティーナの言葉をスルーし、慌ててお姉さんに話しかける。ティーナは口を3の形にしながら不満そうにしていたが、許せ。今お前の露出を許すわけにはいかんのだ。いや、いつでも許さないが。
「じゃあ次はアタシだねー! 頑張っちゃうよー!」
「あ、そういえばリアはどうすりゃいいんだ……?」
こいつの能力って確か、酒を出せるだけだったような気がするんだが。
「くらえ! アルコール度数の高い酒!」
「やっぱりかよ! それほんと意味ねえからな!?」
リアは構えた両手の中から生成した酒を的にぶっかける。しかし的は酒を浴びているだけで全く微動だにしなかった。そりゃそうだ。
「だいじょぶだよミッチー! 必殺ぅ……マッチで着火!」
「普通に着火した!?」
リアがぽいっと看板に向かって火のついたマッチを投げると、酒がかかっていたこともあってよく燃えるよく燃える。的はあっという間に炭へと変化した。
『合格ですね』
「合格なの!? マッチ使ってたけど!?」
完全に文明の利器に頼ってたんですけど! あれ魔法学的にはアウトじゃないの!?
『そもそも生成術は超高度な魔法ですから。酒を造り出した時点で合格です』
「あ、そうなんスね」
全然知らなかった。あいつ結構凄いことをぽんぽんやってたんだな。さすがは女神といったところか。
「さあ、最後はミッチーだよ! ビシッと決めてね!」
「お、おう」
俺はお姉さんによって新たに設置された的と対峙し、ごくりと喉を鳴らす。
どうする? いやどうするっていうか、俺にはこれくらいしかないんだが。
腰元のハリセンを抜き、構える俺。どうかこれが魔法と認められますように。
「とりあえず……魔法学の試験なのに何で弓術の的なんだよ!」
「おおおおっ!? 的がミッチーのツッコミで吹っ飛んだ!」
「今日はよく飛んだな」
俺のハリセンによるツッコミを受けた的は遠目に見えていた山肌に突き刺さる。いやこれ魔法か? 魔法だと言ってくださいお願いします。
『す……』
「す?」
『凄いです! そんな紙の武器で的をあそこまで飛ばすとは、風系の魔法でしょうか!?』
「え、あ、はい。そんなとこです」
神様。ぼくはいま嘘をつきました。でも許してくださいこれしかなかったんです。
『皆さん素晴らしい才能をお持ちのようですね。全員合格です』
「おおーっ! やったねミッチー!」
「お、おお。信じられんが無事通過だな」
抱き着いてきたリアに反応することもできず、俺は呆然と試験結果を受ける。
こうして波乱に満ち溢れた入学試験は終了し、さっそく学園都市魔法学科での生活がスタートするのだった。




