第12話:マリーの研究成果
「マリーっちはさー、どんな魔法の研究してるん?」
「あ、うん。君さっきの話聞いてたかな? 接し方がフランクすぎるんだけど」
俺はマリーにくっつきながら質問するリアに対して光を失った目でツッコミを入れる。ついさっき無礼な行動はするなと言ったばかりなんだが?
「まあ別にそれくらいは構いませんわ。フランクなセッションは望むところですもの」
「あ、マジで? じゃあ俺も―――」
「あなたは駄目に決まっているでしょう助手。社会的に殺しますわよ」
「殺されゆ!? 勘弁して下さい!」
何故だ。何故俺だけ駄目なんだ。納得いかない。
俺が完全に目の光を失っていると、ティーナがぽんっとその肩に手を置いた。
「ドンマイみっちゃん。変態にだって明日はあるさ」
「お前に慰められたことが一番の傷だよ……ていうかティーナの場合明日とか関係なさそうだけどな」
なんか時間とか空間が崩壊してもこいつだけは生き生きと露出してそうで怖いわ。いや実際あり得る。
「話がズレましたわね。わたくしが今研究しているのは人の怪我を治癒する魔法ですわ」
「へぇ。意外と優しい魔法を研究してるんだな」
俺は感心してうんうんと頷く。こいつの事だから攻撃魔法とか物騒なやつを研究してると思い込んでたが、反省しないとな。
「優しいというか、殴った後に治癒すればまた殴れるでしょう?」
「理由がこえぇ! 反省して損した!」
俺はガーンという効果音を背負いながら顔をしかめる。マリーは頭に疑問符を浮かべながら首を傾げた。
「反省って何のことですの?」
「あっいや、なんでもないっす。こっちの話っす」
「???」
マリーは不思議そうに反対方向へ首を傾げる。その仕草は可愛らしく、俺はかつて恋していたマリーの姿を重ねて一瞬遠くを見つめた。
「見えてきましたわね。あれがわたくしの研究所ですわ」
「へーどんな……でかっ!」
マリーに指差された方角に視線を向けると、見上げるだけで首が痛くなりそうな巨大施設が鎮座していた。
看板には確かに“フラワーズ魔法研究所”と書かれているが、それにしたってデカすぎるだろう。一体何人の魔法使いが勤めてるんだ。
「すっごーい! ねえねえ。どんくらいの魔法使いがここで研究してるのん!?」
リアは興奮気味にマリーに抱きつき、ふんふんと鼻息を荒くしながら質問する。
マリーはあっけらかんとした表情でそれに答えた。
「わたくし一人ですわ」
「へ?」
「は?」
「ですから、魔法使いというかこの施設を使っているのはわたくし一人です。わたくしのための施設ですもの」
「一国の姫かよ! さすがに広すぎるんじゃないですかね!?」
壁を取っ払ったら野球できそうな広さだぞこれ。さすがに一人きりで使うには広すぎるだろ。
「ああ、間違えました。正確には一人ではないですわ」
「ふうびっくりさせやがって。そうだよな。さすがにそんなわけないよな」
「清掃担当の執事が居ますから合計で三十人くらいですわね」
「魔法使いじゃねーのかよ! 結局この施設は本当にマリー……先生のための施設なんだな」
俺は何故か凄く疲れてしまって、ゲンナリとしながら施設を見上げる。
マリーはそんな俺にチョップを叩き込んだ。
「いでぇっ!?」
「そんなことより行きますわよ助手! わたくしの研究成果を紹介しますわ!」
「肉体言語で会話すんのやめよう!? 言葉で会話してください!」
俺はぶっ叩かれた頭をさすりながらマリーへと懇願する。マリーはふんと鼻を鳴らしながら「善処しますわ」と返事を返す。あ、これ善処しないパターンだわ。
「まあ行こうじゃないかみっちゃん。中は暑いかもしれないしな」
「お前それコート脱ぐ口実探してんだろ! いや行くけどね!?」
ここでもちゃもちゃしててもしょうがねえ。とにかくマリーの研究成果とやらを見せてもらおうじゃないか。
「ではご案内しますわ。迷子にならないようお気をつけになって!」
「迷子になるかもしれないよこの広さじゃ」
俺はぽつりと呟きながら研究所へと入っていく。
「よぉしミッチー! 迷子にならないよう手を繋ごう!」
リアはふんすと鼻息を荒くしながら俺の手を掴んでくる。俺は幼稚園児か何かか。
「そうだな。私もみっちゃんのパンツを掴んでおこう」
「なんで!? やめろよ伸びるだろ!」
無理やりズボンの後ろ部分のパンツのゴムを伸ばして掴むティーナ。何故そんな発想になったかはしらんがやめろ。ゴムが伸びる。
「なんか、変なのを弟子にしちゃいましたわね」
「ごもっともだが言われたくねえな……」
マリーの言葉に小さく呟く俺。変わってることは認めるが、野球場ばりの施設で一人研究してるやつに言われたくねえわ。
「さて、研究成果はこの先の広間ですわ! さあ、お早く!」
「うぉい!? 手を引っ張るな!」
マリーは空いている方の俺の手を引っ張りずんずんと研究所の奥へと入っていく。
俺は段々と伸びていくパンツのゴムを心配しながら研究所の広間へと歩みを進めるのだった。




